郵政公社は独立採算だという主張はミスリーディングだと思う
郵政民営化に関連して、郵政公社は独立採算で税金の投入を受けていないという主張をする人がいる。だから民営化反対という意見なのだろうが、独立採算というのはミスリーディングなもののいい方だと思う。
法的には確かにそうなのだが、法人税を支払っていないということを忘れてもらっては困る。民間企業なら支払っている税金を免除されているというのは、経済学的には税金の投入ではないか。公共事業も減税も財政政策だということを思い出していただきたい。実質的には、郵政公社は、法人税等に相当する金額を、毎年国から給付されているのと同じなのだ。
これに関連して、郵政公社が基礎年金拠出金を民間企業より多く支払っているという話がある。民間企業なら1/3のところ、郵政公社は2/3を支払っている由。本来国が負担すべきところを公社が負担しているというわけだ。30万人分だからそれなりの金額ではあるだろう。だから民営化のメリットなんてないんだとまでは言わないのだろうが、どうもそんな風情で主張されているように読める。当然ながらそういうところも民間並にすべきなのだろうが、問題はじゃあどのくらいの金額なのかだ。
とりあえず日本郵政公社のサイトから、平成15年度の事業報告書をみてみる。連結損益計算書は83ページだ。ちょっと抜粋する。単位は百万円だ。
経常収益 24,605,021
郵便業務収益 1,924,633
郵便貯金業務収益 5,868,822
簡易生命保険業務収益 16,811,565
経常費用 22,054,080
業務費 19,291,938
人件費 2,446,846
租税公課 32,437
減価償却費 271,651
その他経常費用 11,205
経常利益 2,550,940
税金等調整前当期利益 2,303,584
法人税、住民税及び事業税 531
法人税等調整額 385
当期利益 2,301,841
抜粋なので計算は合わないが、それぞれの金額は正しく転記した。
法人税が入っているではないか、といわれるかもしれないが、これは本体ではなく子会社等のものだろうし、当期利益の額と比べれば払っていないに等しい。要は、この会社は24兆6,000億円の売上、2兆3,000億円の利益を挙げながら、税金をほぼ払っていないということだ。あらっぽく実効税率が40%とすると、9,200億円。おそろしく乱暴にいえば、これが国の「得べかりし利益」だ。新しい事業展開で収入を増やしたり、オペレーションの合理化でコストを削減できたりしたらもっと出るかもしれない。もちろん逆に競争で売上が減ればその分減るわけだが。
で、上記の基礎年金拠出金とやらだが、事業報告書には金額が出ていない。で、よくわからないが、この会社は人件費が約2兆4,000億円とある。この中に入っているだろうから、まあ多くてもせいぜい1,000~2,000億円の話ではなかろうかと想像するがどうだろう。専門の方ご存知なら教えていただければ。とにかく、得べかりし法人税よりはずっと少ないのではないかと思われるのだ。しかもこれをいうなら、ぜひ預金保険料も考えていただきたい。最近のニュースではどうも1,000~1,500億円ぐらいとあるから、さっきの基礎年金拠出金を帳消しにするくらいはありそうだ。そういえば保険のほうでも契約者保護機構への拠出金を負担していなかったな。これも国が無償で「保証」を提供していたからいらなかったようなもので、つまり国民負担だ。
つまり、税金を使ってない独立採算だという主張は、法的にまちがってはいないのだろうが、著しくミスリーディングだと思う。もともとそういう制度だったわけだし、別に公社けしからんとかいうつもりはないのだが、税金使ってないから民営化は必要ないという議論は成り立たない。これだけの税金を使っても官営を維持すべきなのか、を問うのがスジではないだろうか。
あと蛇足だが、民間は信用できないみたいなコメントをする政治家もいたりするが、少なくとも資本主義を標榜する国の選良ならそういう物言いは口が裂けてもするべきではない。この国の経済は、民間企業で成り立っている。責任感と使命感をもって業務に邁進する企業でだ。民間企業が信用できないなら社会主義国へ行ってもらいたい。
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Comments
利益のうち5割を納付する国庫納付金を、郵政が払っていると言う主張には、どう反論されますか?
Posted by: ひろし | August 25, 2005 06:09 PM
ひろしさん、コメントありがとうございます。
ええと、記憶が正しければ、公社はまだ国庫納付金を払っていないんでしたよね?自己資本積み立てのためとか。ふつうの会社は、税金を払ったうえで自己資本を積み立ててるんですよね?猶予があるだけでもものすごい優遇だと思いますが、今積み立てる余力があるとすると、過去の余力はどこに行っちゃったのでしょうか?それと、法人税ではなくて国庫納付金ですから、いざというときには裁量の余地が残っています。ある種プットオプションですね。
私は郵政問題について素人ですが、少なくとも「独立採算だ」と胸をはれる状況ではないと思ったので、このように書いてみました。
またいろいろご教示いただければと思います。
Posted by: 山口 浩 | August 25, 2005 06:57 PM