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May 04, 2005

有限責任事業組合(日本版LLP)を用いたコンテンツ・ファイナンスの可能性

2005年4月27日、有限責任事業組合契約に関する法律案が参議院で可決、成立した(経済産業省の該当ページはここ)。

汎用性の高いものでありさまざまな分野への応用が考えられるが、コンテンツ開発のための事業スキームとしても、また1つ新しい可能性が生まれたと考えることができる。という意味で、自分の勉強のためのメモ。

有限責任事業組合は、民法上の組合制度の特例であり、(1)出資者全員の有限責任、(2)内部自治の徹底、(3)構成員課税の適用という特徴をもっている。英国の類似の制度にならって俗に「LLP」と呼ばれていたが、正式にこれを略称にするのだろうか。

コンテンツ製作時の資金調達スキームとして有限責任事業組合はどうなのか、少し考えてみる。

(1)
まずいえるのは、有限責任性によって、個人が個人単位でプロジェクトに参加することがよりやりやすくかもしれない、ということだ。民法上の組合はいわゆる任意組合である。コンテンツ製作でよくみられるいわゆる製作委員会方式はこの任意組合で、上記のとおり構成員の無限責任がその特徴となっている。
もちろんコンテンツ製作プロジェクトにおいては、収益の下方リスクはかなり大きいが、損益が底なしのマイナスに落ちる事態はあまり考えにくい(その前に中止するだろうし)が、それでも「無限責任」は、クリエーターやプロデューサーが個人として参加するには少々重荷だろう。かといって、匿名組合方式では、有限責任ではあるものの意思決定には参加できないなどの問題がある。

(2)
そこでカギを握るのが、内部自治だ。上記の事情から、一般的に製作委員会においては、個人のクリエーターは直接参加するのではなく、製作委員会からの「委託」を受けるかたちになる。もちろんこれでも制作について任されるほどの実力があればいいわけだが、スキーム上「蚊帳の外」であることにはちがいない。そういうことが問題になるのはトラブルが生じた場合であるわけで、法的スキームとして考えるなら、やはり個人が参加した場合にきちんと意思決定に参加できるしくみになっていることが望ましい。
この点で、有限責任事業組合では内部自治なので、個人で構成員として参加しても意思決定に参加できるというだけでなく、各構成員の権限や義務を個別に決めることができ、したがって金を多く出した者が強くなりすぎたりしないようにできるというのが大きなポイントだ。ひょっとして、これが日本においてハリウッドみたいなプロデューサーシステムが成立するきっかけになったりしたら面白い。また、プロジェクトのカギを握るような重要なクリエーターやプロデューサーだけでなく、もっと現場レベルのクリエーターなんかも、貢献度に応じた利益分配が受けやすくなるかもしれない。

(3)
この種の組合形式は構成員課税だから、構成員が直接損益を認識できるという利点があるが、長期的に著作権等の権利主体となるには、少なくとも現状では少し問題があるように思う。コンテンツ事業の場合、コンテンツの開発段階と完成後では、事業に対する各構成員の関与の度合いが大きく変化することが多い。完成後のコンテンツは著作権その他の知的財産権だから、その収益力を最大に活用することが問題となる。権利を買い取って収益を得る企業の参加も考えられる。
この際最大の問題となるのは、組合を法人化したい場合だ。組合方式のままでは構成員の入れ替えは面倒だし、そのコンテンツのために継続的に働く構成員に対しても、給料ではなく分配というかたちでしか報酬を支払うことができない。有限責任事業組合を法人化する際、組合はいったん解散され、組合資産にキャピタルゲインが生じていれば、課税されてしまう。この点は会社法のほうで今度導入される合同会社(LLC)から株式会社への転換なら課税は繰り延べされるわけだが、組合から会社への転換では課税繰り延べはできない。
この点は、法人格と構成員課税が両立しないという日本の大原則が働いている。経済産業省ではもともとアメリカのLLCと同じように、日本版LLCである合同会社制度においても構成員課税を採用しようと試みたのだが、大原則に抵触するとのことでかなわなかったようだ。どうも税制というのは杓子定規というか硬直的というか、なんだか本末転倒な印象を抱くことがよくあるが、これもその例だと思う。

とすると、有限責任事業組合を使ってコンテンツ開発を行う場合でも、完成後の権利主体となる企業(ないし特別目的会社など)を構成員として参加させたり、コンテンツ完成後に組成するなど、他のスキームと併用するようなスタイルのほうが現実的かもしれない。

コンテンツ製作支援について経済産業省は実にさまざまな政策を打ち出していて心強いが、実際にそれが活用されていくかどうか、見守っていく必要がある。この業界の多くが中小、というよりも零細企業であり、これまで財務らしい財務とは無縁のままにおかれていたことも充分配慮していくべきだろう。

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Comments

最近は特定のコンテンツに投資する投資組合からのお誘いも多いですが,このLLPとの違いを簡単に言うとどういうことになるのでしょうか?やはり投資家と従業者との違いということになるのでしょうか?

Posted by: 俊(とし) | May 04, 2005 08:06 PM

俊さん、こんにちは。
いわれる投資組合とは、おそらく匿名組合だと思いますが、その場合個人出資者は営業者に対して口出しする方法が法的にありませんし、営業者が他の事業を営んでいる場合、それとの倒産隔離もありません(最近は別会社にするものが多いのでいいのですが)。
逆にLLPは何もしない純粋な「投資家」は参加できませんが、組合員の「義務」の内容は組合内で決められるので、ごく軽い義務を負わせることによってクリアできると思います(具体策は、夏ごろといわれる施行までにははっきりすると思います)。
という意味で、おそらく実際の差は組合内部における「発言権」の差、ということになるのではないかと想像します。

Posted by: 山口 浩 | May 04, 2005 08:27 PM

山口浩さん、おはようございます、

大変興味深い記事をありがとうございます。参照されているリンクの先で、

>経営(業務執行)への全員参加

という箇所がありました。これは米国のLLPとかなり違う意思決定の方式ではないかと感じました。もし不勉強の勘違いでしたら、ご指摘いただければ幸いです。

Posted by: ひでき | May 05, 2005 07:08 AM

山口さん,御回答ありがとうございます.これからは映像コンテンツの制作には,XX制作委員会に代わってLLPが増え,この業界は活性化されてくると考えてよいでしょうか?

以前,大物外タレの音楽コンサートの誘致に投資する匿名組合からのお誘いもあったのですが,それにも応用可能ですよね?

Posted by: 俊(とし) | May 05, 2005 08:26 AM

コメントありがとうございます。

ひできさん
ご指摘の通りで、日本版LLPは英国のLLPに近いものとなっています。詳しい方に理由を聞いた気がするのですが、忘れてしまいました。すいません。思い出したらご連絡します。

俊さん
製作委員会方式に代わってLLPが普及するかどうか、現段階ではわかりません。「プロ」の企業は、既存のコンテンツ製作スキームである任意組合にそれほど不満を持ってはいないようにみえるからです。ただ、今後クリエーターの立場を強くしていく方向をめざそうとすると、彼らをどのように製作スキームにかませるかが問題で、LLPはその1つの方法にはなりうるのではないか、と思います。個人資金の活用のために、というのは私の考えで、そのために具体的にどうしたらいいか、いろいろ考えています。
外タレコンサート誘致プロジェクトにも当然応用できるでしょうが、これを使えば万事OKといった類のものではないので、どうやって使っていくかをこれから皆で考えていかなければならないと思います。

Posted by: 山口 浩 | May 06, 2005 03:35 AM

大変参考になりました。ところで、製作委員会方式は英語で何というのですか。欧米ではこんな方式は取られてないために英訳がないのでしょうか。

Posted by: ノビル | August 11, 2007 07:08 AM

ノビルさん、コメントありがとうございます。
製作委員会という表現は日本独自のものなので直訳はあまり意味がないと思います。よく使われる任意組合はgeneral partnershipに近いので、一般的にはpartnershipでいいのではないかと思いますが、製作委員会方式といった場合には単なる資金調達のしくみという要素だけでなく、事業の進め方なんかまで含めたものかと思いますので、ちょっと舌足らずな感じもします。
個人的には、Japanese film parnershipとでも呼んだらどうかな、と考えてますがいかがでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | August 13, 2007 11:03 AM

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