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May 28, 2005

司法試験制度改革に関する暴論

「ロースクール」というのがある。日本語だと「法科大学院」だ。司法試験だけで法曹にふさわしい人材を選別できるのかとか、そういった問題意識から導入されたものだと理解している。期間をかけてきちんと教育したうえで、試験の合格率をこれまでより高くしよう、ということだったはずだが、必ずしも当初考えられていた状況にはなっていないようだ。

何を今さらという類の議論だが、一度書いておきたいと思っていたので、遅ればせながら。

当初のふれこみでは、法科大学院卒業生の司法試験合格率は7~8割前後と考えられていた。法曹人口の大幅な増加を図るというふれこみもあった。しかし実際には、どうも2~3割ぐらいになりそうだという。主な原因として、法科大学院が想定以上に多く作られたためだという。昨年の終わりごろ、法科大学院の学生たちが、合格者増加を求める署名運動を始めたと報道されていたが、その後どうなったのだろうか。

これまで司法試験の合格率は2~3%前後だった(参考)。2~3割なら大躍進ではないか、という意見もある。一方、「7~8割」を期待して進学した人たちからすれば「それはないだろう」ということになる。Googleで検索したものをぱらぱらと見ていて思ったのだが、法科大学院生たちの窮状に対して、現役の法曹の方々や、法律に関係した仕事をされている方は、どうもあまり暖かい態度ではないようだ。「やむをえない」なんてのは穏やかなほうで、「そんな甘っちょろい奴らは法曹に不向き」なんていうのまで見かけた。

別に法科大学院生の肩を持とうというわけではない。「7~8割」がめどといったって、法科大学院の設置自体を認可するのは文部科学省だし、両省の間でどうも充分な連携がなされていないようだということは、あらかじめわかっていた。このままでは実際の合格率は7~8割を大きく下回るだろうということも、早くから指摘されていた。「約束がちがう」という学生側の主張は、「そもそも約束ではなかった」「みてりゃわかるだろう」という反論の前では、確かに説得力が弱い。

しかし、だからといって「現状やむなし」だけで片付けられるのだとしたら、ちょっとちがうんじゃないの、と言いたくなる。2つ頭に浮かんだことがある。まず、合格率の問題だが、表向きには質の問題のように扱われているが、実のところ司法修習所のキャパシティがボトルネックになっていることをみんなが黙っているのはなんとも釈然としない。質の問題は、「質」を明確に定義できない以上、結局は人数の問題になる。法科大学院の教員となるべき人材が不足して充分な体制がとれないために、合格者の質の低下を招くおそれがあるといっているようにも聞こえるが、それは試験をきちんとすればすむ話だ。想定した水準に達していない受験生を落とせばいいだけなので、できが悪くて合格率が7~8割に達しなかったのなら、当該法科大学院や当該不合格学生にとっては問題だが、司法試験制度全体にとっての問題ではない。

つまり、人数の問題とは、法科大学院の学生数の問題ではなく、司法試験の合格者、ひいては養成プロセスの最終段階である司法修習所の収容人数の問題であるように思われる。要するに、キャパシティの問題を質の問題にすりかえているわけだ。司法修習所のほうも収容人員を増やすための体制が整わないということなのだろうが、ならば問うべきは、合格者枠増大に伴う受験生や修習生の質の低下ではなく、修習所で教鞭をとれる水準の現役法曹ないし法律教育者が少ないこと、つまり「現役」の人々の質の低さ、ということにならないか。

もう1つ頭に浮かんだのは、難しいとされていて、社会的な責任の重いもうひとつの仕事、医師になるための国家試験との比較だ。こういう議論はきっと他でもされているだろうが、書いてみる。調べたところ、日本に医師は約25万人(歯科医師を加えると約34万人)いる(参考資料)。医師になるためには、医科大学(年限6年。つまり法学部を出てそのまま法科大学院に行った場合と同じ年数だ)を卒業して、医師国家試験に合格しなければならない。合格後に修習所のようなところがあるわけではないが、研修医のようなかたちで実習を行うのだと聞いている。

で、医師国家試験だが、2005年2月実施の第99回医師国家試験の場合、受験者8,495人に対し、合格者は7,568人で、合格率は89.1%だ。ちょっと考えてみてほしい。変な比較ではあるが、医師と弁護士と比べて、一国民として、どちらによりたくさん勉強してほしいか、どちらにより優秀であってほしいかと聞かれたとしたら、大多数の人は「医師」と答えるのではないだろうか。何しろ医師は「命」を直接扱うのだ。より信頼できる存在であってほしいではないか。ならば、弁護士の国家試験である司法試験が、医師国家試験よりもはるかに合格率が低いことに、疑問を持たないか?もちろん逆にいえば、医師免許がそんなに簡単でいいのかとも思うが、それにしても、司法試験は不必要に難しすぎるのではないか、というのが正直な感想だ。

ひとくちに「医師」といってもいろいろで、大学病院にいるような専門医もいれば、地域の人たちのかかりつけ医もいる。別にかかりつけ医が優秀でないというつもりはないが、広い範囲をカバーする以上、個々のテーマについての知識や技量が専門医より薄くなるのは恥ずかしいことではないだろう。こういう区別を、もっと法曹関係者も意識していいのではないか。専門外なのでよく知らないが、「質の確保」といったときにどのくらいの水準を想定すべきかについて、充分な議論はなされたのだろうか。すべての弁護士が「専門医」である必要はない。「かかりつけ弁護士」のような存在を想定して、それを念頭においた合格水準の設定をすることはできないのだろうか。

要するに何がいいたいかというと、法科大学院をめぐる問題というのは、あちこちに顔を出している「実は法曹人口を増やしたくない」という態度の裏返しなのではないか、ということだ。この問題は本来、法曹人口が少ない、という認識からスタートしていた。国民1人あたりの法曹人数は、アメリカでは日本の約20倍、イギリスだと約10倍ぐらいだったと思う。どのくらいの数が適正なのかはいろいろな状況によってちがうだろうが、少なくとも現状は少ない、というのが共通認識だ。だったらそれなりの方策をとるべきではないのか。つまり、試験の合格者数の話をする前に、司法修習所のキャパシティを増やすにはどうしたらいいかを議論するのがスジだ。もちろん修習所のキャパシティを増やす計画はあるのだが、どうも遅れ気味らしい。となると、既存の資格者たちは、実は自分たちの市場を奪われるのをいやがっているのではないか、質の問題を持ち出すのはその隠れ蓑ではないのか、とかんぐりたくなる。

で、もしこの問題が実は法曹の質の確保の問題ではなく弁護士の失業対策の問題だとするなら、別の方策もないではないと思う。司法修習所を独立行政法人にしてしまえばいい。これで予算上の制約はなくなる。今は司法修習生になると毎月給料をくれるが、あれをやめて、逆に月謝をとるのだ。法科大学院から上納金をとるなんて考え方もありうる。資金力がない学生の門戸を、という議論に対しては、日本育英会あたりにご登場願おう。将来の弁護士の卵たちだ。貸付金の回収に困ろうはずもない。それでも採算が合わないなら、受験対策の講習もやったらいい。公的資格を付与する団体で、養成講座のプログラムを持っているところはめずらしくない。で、弁護士の人数が一気に増加するわけだから、実務家の中から教員を採用することはそれほど難しくないだろう。食いっぱぐれた弁護士をそのまま教員に持ってくるのはどうかと思うが、全体として、人員の確保はそれなりにできるのではないかと思う。

書いていくうちにだんだん暴論めいてきた。このへんでやめにするが、どうもこの問題、表向きとはちがったところに動機がありそうに思える。そのあたりが、傍からみていて居心地の悪いところだ。万事めでたしとなる方策がそう簡単に見つかるはずもないだろうが、現在のように、ただ法科大学院生だけにつけを回すやり方はいかがなものかと思う。

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Comments

 つーか、日本の場合は、そもそも「司法書士」の権限を拡大すれば済む問題のような・・・。離婚訴訟と簡易裁判全般を司法書士のカテゴリーに入れれば、弁護士案件が相当減るので、仕事にゆとりが出るはずだけど。
そもそも司法書士という日本独自の制度を取り入れている段階で、海外との比較は意味が薄れるし。

Posted by: うみゅ | June 06, 2005 11:01 AM

うみゅさん、コメントありがとうございます。
確かに、司法書士制度というのもありましたねぇ。ただ「仕事にゆとりが出る」のは弁護士さんにとって歓迎されないだろうという点は司法試験の合格枠の問題と共通ですね。きっと対立の構図も似たようなものになるでしょう。

ということは、やはりこの問題は「今の」弁護士の問題、ということなんですね。なるほど構図がすっきりしました。ありがとうございました。

Posted by: 山口 浩 | June 06, 2005 12:04 PM

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Tracked on May 28, 2005 12:56 PM

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司法試験制度改革に関する暴論を読んで思ったのは、まぁ寡占的状況を謳歌している業界が参入障壁を上げたりして、自分達の利益を確保するっていうのはよくあることだよなぁ、って思ったわけで。 なんだかぴんときたのは以下の記述。 医者との比較の話なのだが、専門外なのでよく知らないが、「質の確保」といったときにどのくらいの水準を想定すべきかについて、充分な議論はなされたのだろうか。すべての弁護士が「専門医」である必要はない。「かかりつけ弁護士」のような存在を想定して、それを念頭においた合格水準の設定をすること... [Read More]

Tracked on May 28, 2005 02:20 PM

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