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May 24, 2005

RMTの「市民権」 in US

オンラインゲームに関連して、いわゆるリアルマネートレード(RMT)についての議論というのがある。ゲーム内のアイテムやら通貨やらキャラクターやらを現金(リアルマネー)で取引する行為だ。日本のゲーム会社は、こうした行為を歓迎していない。ゲームの世界を乱す、子どもが金儲けに走る、ゲーム会社がコントロールできなくなる、digital sweatshopがある等、概して批判的な論調が強い。しかし現実には、オークションサイトをちょっとのぞいてみればわかることだが、ゲーム内アイテムや通貨、キャラクターなど、かなり広範に取引が行われている。

ウォッチしている「Terra Nova」で、アメリカにおけるRMTに関する議論が最近いくつか出ていた。


アメリカのオンラインゲームでもRMTは活発に行われている。実際、それをテーマにした論文を書いた人もいるのだが、そうした流れはRMTそのものというより、MMORPGの世界を「virtual world」、別のいい方をすれば「現実世界とは別のもう1つの世界」とみる考え方のひとつの例、という位置づけだ。それが「世界」であり、人間が活動する場である以上、経済活動が生まれ、金銭とかかわりが出てくるのはいわば必然、ということになる。もちろんこれに反対する考えの人もいて、経済活動自体はいいが、ゲーム世界の「純粋さ」を保つためにはそれを現実経済と結び付けてはいけない、という主張がなされる。中立的な立場の人は、うまく両方が棲み分けられないか、と考える。

このテーマはTerra Novaではたびたび取り上げられているが、最近出ていたのはこのあたり。

The Unsinkable IGE?
Grimwell on RMT
Unexpected Effects of RMT

最初の記事はIGEの話。知ってる人は知ってると思うが、IGEはさまざまなMMORPGの通貨の両替サービスを行っている。日本語サイトもあるが、日本向けのサービスは「リネージュII」の通貨アデナの現金売買だけらしい。で、ソニーがアイテム市場を開設することで、IGEのようなRMT業者は壊滅的な打撃を受けるのではないかと予測する向きもあったが、実際にはそうはならず、むしろいくつかのMMORPGオペレータと契約して、限定的ながら正当なサービスと認めさせたらしい。詳細がE3で発表される予定だったらしいが、どなたか聞いた方いらっしゃったらぜひ教えていただきたい。

2番目のやつは「Grimwell Online」の記事へのリンク。「There's Gold In Them Thar Pixels! Games & The Law Part 3」は、MMORPG内の仮想世界における財、つまり仮想財に関する「所有権」の問題についての法的な論考だ。ゲーム会社の営利サービスであるという前提からくる限定をもたせながら、ある程度の所有権を認めていこうという主張になっている。Blogだが、内容は本格的な法律学の論文といっていいのではないだろうか。Part 3である以上Part 1もPart 2もある。

3番目のやつは、RMTの経済学的な解釈に関する、Indiana Univ.のCastronova准教授の新説。RMTを、ゲーム内の「報酬(R)」と「挑戦(C)」のバランスを自分の好みに応じて変えようとする行為としてとらえる、というもの。プレイヤー間の経済格差に依存せずに説明できるモデルというわけだ。ふむふむ。ただし、基本的に「島経済」をイメージしているようにみえる。実際には、プレイヤーは仮想世界にだけ住んでいるのではなく、現実世界と行き来しながら生きているわけで、「バランスの調整」は、仮想経済の中でだけ起こっているのではないように思われる。

アメリカにおける今の全体的な流れはというと、RMTがだんだん「市民権」を得つつある、といったところだろうか。ソニーは、日本ではオンラインゲームをやっていないが、アメリカでは「Everquest」を展開しており、オンラインゲーム用のオークションサイト「Station Exchange」を開設するとの報道があったばかりだ。マイクロソフトも新しいXboxにアイテム取引市場の機能を持たせるらしい。で、IGEのような、ゲーム間の通貨の両替を行う企業も正規にゲーム会社と契約するようになってきたというわけだ。

オンラインゲームというと韓国や中国がよくとりあげられる。聞いた範囲だと、韓国では日本よりもRMTがさかんに行われているようだ。ゲーム会社としては不満らしいが、RMTを禁止(完全に排除しようとすれば技術的には難しくない)するとプレイヤーが離れてしまうという理由で黙認、といった感じらしい。中国では、政府が問題視しているといった記事を見かけたような気がする(うろ覚えなのであてにしないでほしい)。

日本だけに絞ると、RMTに対抗する流れというと、アイテム課金方式のゲームの登場だろうか(あ、アイテム課金方式のゲームは他国にもある。念のため)。欲しいアイテムを市場を通じて得るのを「市場経済」と呼ぶならば、アイテム課金のゲーム世界は「計画経済」だ。「生産手段」は「政府」たるゲーム会社が握っている。ゲーム会社の経営面でのインプリケーションはともかく、もし経済的な活動がゲームの楽しみのひとつであるなら、この点において、アイテム課金方式は制約が多いということになるが、どちらが好ましいかを決めるのは、当然ながらプレイヤーだ。

「Terra Nova」の議論に戻ると、RMTをしたい人がいて、したくない人がいる、ということになると、根本的にはそれぞれ別のところでやってくれ、ということしかないように思う。各ゲームについて、RMTに対するポリシーをはっきりさせて、それにしたがって運用すると。ポイントは、ルールを決めるなら、(コスト等の制約はあるにせよ)それに実効性をもたせる措置をとる責任があるのではないか、ということだ。MMORPGのような「仮想世界」を提供するゲームを運営する会社がプレイヤーに対して負う責任は、政府が国民に対して負う責任によく似ている。たとえば覚せい剤の使用を禁じるなら、空港や港には麻薬犬を配置すべきだし、取引現場を押さえて「犯人」を捕まえることも必要だろうが、それと同じことだ。どうしても防げないなら、そもそもRMTができない設計にすることだって技術的には可能なはずだ(アイテム取引の機能をなくしてしまえばいい)。

もちろん、法律の問題やら、子供に対する影響みたいな問題もあるのはわかる。ゲームに対する社会的認知は、まだまだ低いといわざるを得ないし、そうした要素も考慮しなければならない。しかし上記のような流れをみていると、ゲームというものが、これまで考えられてきた範囲を超えて、「ゲーム以上」のものになってきているのかもしれないと思える。新しい現実に対するときには、これまでの考え方だけでなく、「新しい革袋」が必要なのではないだろうか。真剣に考えるべきときが来ているように思う。

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Comments

ウォッチしている「Terra Nova」で、アメリカにおけるRMTに関する議論が最近いくつか出ていた。

Posted by: rmt | March 30, 2011 11:50 AM

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