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May 16, 2005

雑誌目次をみる:「Semiconductor International」

一部に好評の「雑誌目次をみる」シリーズ。今回は「Semiconductor International日本版」。

「半導体技術の明日をつかむ」雑誌、だ。もともとは英語の雑誌なのだが、日本版も作られている。書店で目にしたことのある方はいないだろう。何せ「半導体製造技術者および技術マネジャーだけに対象読者を絞り、無償で配布している媒体」なのだ。当然、内容もプロ向けかつきわめてテクニカルだ。発行しているのはリード・ビジネス・インフォメーション㈱。正直ついていけない内容のものが多いが、なんとかがんばってみる。当然不正確なことを書いているおそれがあるので、内容をあてにしないように。

2005年4月号の目次は次の通り。

と思ったがその前に。目次には出ていないが巻頭コラムもあった。日本版編集長の津田健二氏だ。

Editorial
・海外からの投資額が異常に低いニッポン
  
「ハゲタカファンド」の影に怯える人々に喝!といったところだ。そもそも諸外国に比べて日本には外資があまり入っていないではないか、というご主張。GDPに占める海外からの投資額比率で示すグラフが出ている。

      1990   2000
日本    0.06%  0.17%
韓国    0.3%   2.0%
米国    0.8%   2.9%
仏国    1.1%   3.3%
中国    0.9%   3.6%
ドイツ   0.2%   10.1%
英国   13.5%   37.5%

これは日本より比率の高い国を例に出しているわけだから、日本がこの中では低くみえるのは当然だが、並んでいる国をみると、やはりこれは低いといえるだろう。どうも外資嫌いという人は、人と企業を混同してしまっているようで、外資が入ってきたら日本人が追い出されてしまうといわんばかりだが、実際には逆だ。日本への投資は日本という国に魅力があるから起きることで、それが低いというのは、むしろ「損をしている」と考えるほうが自然だ。そういう現状が誰によって作られ、誰が得をしているのか、少し考えてみたほうがいい。

Cover Story
・65nmに向けたArFレジストの準備が完了

「ArF」はフッ化アルゴンだ。半導体の製造においては、ウェハ(基盤だな要するに)に回路パターンをエッチングのように焼き付けるわけだが、この際にArFのレーザー光を使うものらしい。で、65nm(mm、じゃないよnm、つまりナノメートルだ)というのはその精度を示す指標で、現状の量産レベルでは最先端のものだ。

Feature
・ArF液浸技術にどっぷり漬かる半導体メーカー
・液晶露光中のフォトレジストの膨張を発見
・依然とはびこるラインエッジラフネス問題
・45nm新材料の導入に伴う危険と報酬
・中電流イオン注入装置でUSJ(極浅接合)を形成する方法
・65nm以降のダメージフリー洗浄技術

また「ArF」が出てきたが、今度は「液浸」となっている。パターンを焼き付ける露光の際、投影するレンズと投影されるウェハとの間を純水で満たす技術だ。水は空気よりも屈折率が高いので、より細かいパターンを作ることができるというわけ。これがだんだん普及してきた、という記事だ。で、「どっぷり漬かる」というひっかけになっている。「フォトレジスト」は、そのウェハ上の感光膜のようなものらしい。露光中にそれが膨張してしまうと精度に影響するということだろう。で、焼き付けられた回路パターンの線のふちが甘くなってしまうのが「ラインエッジラフネス問題」ということ。「45nm」は現在研究開発が行われている次世代製品の精度。そのために新しい材料を使うことが試みられているが、問題もあるよ、という話。

Industry Watch
・トレンチファーストBEOLで歩留まりを向上する

「BEOL」は半導体製造ラインの配線工程(Back-End-Of-Line)、「トレンチファースト」は欧米企業が合弁で開発した新しい製造方式と思っていただければ。記事の内容は、私ごときの知識ではとても紹介できない専門的なものなので、割愛。

Technology News
・Emerging Technology
  低コストRFIDタグ作製へ新しい取り組み
  新しい金属酸化膜プロセス
・Wafer Processing
  FinFETトランジスタで世界最小のフラッシュメモリーを作製
・Lithography
  SIIナノテク、65nmノード対応マスクリペア装置を完成
・Yield Management
  45nm配線での信頼性に危険信号
・Inspection, Measurement & Test
  赤外光で「ボトル」トレンチの形状を計測する
・Semiconductor Packaging
  高密度SoPのためのC-SiC
・FPD Technology
  LCD製造の成膜プロセスをAFMで管理する

低コストRFIDタグについての記事が出ている。「作成」ではなく「作製」というあたりが業界ふうなわけだが、ここで取り上げられているのは米企業2社(International PaperとOrganicID)の提携の話だ。International Paper社は林業と製紙の米国最大手、OrganicID社は有機材料を使って印刷可能なRFIDタグを初めて開発した企業だ。現在シリコンを使って生産されているRFIDタグは平均単価25~45セントかかるところを、1セント以下で製造できるようにしようということらしい。東大の坂村建教授によれば、アメリカのRFIDはユビキタスコンピューティングというより単なる在庫管理コスト削減策なのだそうだが、それにしてもこのコストが実現したらTRON陣営にもけっこう「脅威」なのではないだろうか。

Inside China
・2005年:中国ファウンドリの休養期

2005年の中国における半導体製造設備の調達額が対前年比で33.6%減少とのニュースについて論評している。まあ2004年の値は2003年と比べて46%増だったわけなので、異常というならむしろ2004年のほうだろう。世界全体でみても2005年は半導体産業は減速するといわれているから、休養期というよりも、むしろ量より技術を高める時期、といえるのかもしれない。  

Movers & Shakers
・凸版印刷 エレクトロニクス事業本部 
 PM技術開発本部 課長 大瀧 雅央氏 
 非競争領域では業界の連携が必須

凸版印刷は、半導体関連産業においても重要な企業だ。同社のエレクトロニクス関連事業は半導体関連分野とディスプレイ関連分野とからなるが、その合計でみると、2005年3月期の売上予想は3,097億円で、連結売上予想1兆4,300億円の22%を占める。営業利益では433億円で連結の880億円の約半分だ。注目されるのは、タイトルにもあるが、業界の連携について語っているところ。企業間の連携に関する現場の意見としてなるほどという感じ。記録のためにちょっと引用する。

「マスク製造業界はEB描画装置やリペア装置など日本の装置メーカーが中心となって活動している一方で、マスク用製造装置産業の市場規模の1~2%しかない。製造装置メーカーも少なく、一方で開発に必要なリソースが増大してしまっている。今後、マスク製造に関する要素技術で非競争領域のものについては、共同開発やコンソーシアムによる開発活動、そして足かせのない公的資金の注入が必要とされていると思う。」

News Clip
・Intelが独禁法違反と日本公正取引委員会が認定 AMDが公取委支持を表明
・Chartered、TELや荏原製作所を表彰 300mm/65nmプロセスぷラットフォームの提供を開始
・ASMLがIntelにフォトマスク関連技術のライセンスを供与
・米Intel社、Si基盤上に個体レーザーによる増幅器を搭載
・ソニー、高温ポリシリコンTFT-LCDの配向膜無機化に成功
・日立とエルピーダがDRAMの設計技術を共同開発
・NEC、Si基盤上に20GHz動作のフォトダイオードを搭載
・Electronic Newsから:Intel、NOR型フラッシュメモリーを90nm技術で製造
・NECとNECエレクトロニクス、並列プロセッサ技術を共同開発
・SynopsysのDFMツールをGraceが採用
・Novellusがベンチャーファンドを設立
・ソニーなどが新型プロセッサを開発、最新パソコン用に比べ性能は10倍以上
・1月の民生電子機器国内出荷金額は14ヶ月連続プラス、JEITAが発表
・SOITECがSOI技術のGaN基盤への適用に成功
・東芝とSanDiskのフラッシュメモリ用300nm工場が竣工

最初のやつは、Intelの「反競争的行為」についてのもの。公正取引委員会(「日本」とわざわざつけなければいけないところがこの雑誌の性格を物語る)の認定によれば、Intelは「国内PCメーカー5社に対して、各PCメーカーの採用するMPUに占めるIntel製品の割合を100%もしくは90%とすること等を条件に、リベート又はその他の資金提供を約束し、AMDを含む競合他社の事業活動を排除した」ということらしい。この結果、AMDを含む他の競合2社の合計の市場シェアは、2002年の24%から2003年の11%に激減した由(関連記事はこのあたり)。で、インテルは結局、公取委の主張には同意しないものの、この排除勧告自体は受け入れたようだ(関連記事はこちら)。名より実をとる戦略、だな。

もう1つ気になったのは米Novellus Systems社のベンチャーファンドの話だ。子会社としてNovellus Development Companyを2月に設立、にシードキャピタル(「種子資本」と訳している。なんだか面白い)として1,000万米ドルを投じたらしい。既存の技術に投資し、同社の既存製品ポートフォリオを拡大することと、革新的な技術への投資を行うこと、の2つが目的だそうだ。やはり研究開発費の高騰に悩む産業ではどこも似たような動きになる。製薬でもそうだし。コンテンツ系でもゲームなんかはこうした動きが出てもおかしくなさそうだ。考えて見れば、映画のリメークばやりも、「研究開発費」節減の方策、ととらえられなくもない。

New Products
新製品紹介のコーナーだが、雑誌が雑誌だけに思い切り「濃い」。内容には入らず、紹介されている製品名のみ列挙する。

イオン注入装置、電子ビームウェーハ直接描画装置、マスク欠陥修正装置、測長SEM装置、ワイドレンジAFM装置、ナノ空孔計測装置、PVD装置用のDC電源、電子部品試験装置、自動OPC検証ツール、工業用硬質塩化ビニル板、熱変形測定器


というわけで、「素人さん」にはまったく縁のないこの雑誌だが、業界の「熱い」方々には熟読されているのだろう。ああ疲れた。

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