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May 03, 2005

エンドロールをみる:「キノの旅―the Beautiful World」

「エンドロールをみる」シリーズ。今回は「キノの旅―the Beautiful World: I」から、第1話「人の痛みが分かる国―I see you.―」。

キノの旅―the Beautiful World」は、電撃文庫から出ている時雨沢恵一(しぐさわ・けいいち)の大ヒット小説(いわゆるライトノベル)のシリーズだ。ここはファンサイトではないのでこまごまとは書かないが、簡単にいえば、男の格好をした少女「キノ」(これも本当の名ではない)と言葉を話すバイク(「モトラド」と呼ばれる)の「エルメス」がさまざまな国を旅するさまを短編連作のかたちで描く小説、ということになる。その独特の世界観が受け、「女の子」層を中心にかなりの数のファンがいる。その人気ぶりは、小説が2000年7月に第1巻が発売されて以来現在までに第8巻まで出版され、アニメは2003年4~7月にWOWWOWで放映され、DVDでも現在第6巻まで出ていて、最近映画も作られたといった状況からもわかる。

昔、「ジュブナイルもの」というジャンルの小説群があった。その中には有名な作家が青少年向けに書いたものが多くあったような印象がある。たとえば「時をかける少女」は筒井康隆、というふうに。今のライトノベルは、一般の作家ではなく、それ専門の作家が書いているようだ(逆にライトノベルから一般の小説に出て行っている場合もある)。事情を詳しく知らないが、若い人たちの感性をとらえるのに新しい世代の登場が必要だったのかもしれない。ちなみに時雨沢恵一は1972年生まれだ。ライトノベルに関する、Wikipediaによる解説はこちら

この「人の痛みが分かる国」は、原作小説でも第1巻の冒頭に収められている。なぜか知らないが三木卓「星のカンタータ」(なんと絶版!)を思い出す。あの話も短編連作だった。ほとんど覚えていないが、これに似た話があったのかもしれない。関係ないが、さまざまな世界を旅するストーリーそのものは、私としては「銀河鉄道999」でなじみがある。というわけで、なんだかとても懐かしいような、でも新しいようなという、なんとも不思議な感覚にとらわれる。

さて本題。

「エンドロール」といいながら、やはりオープニングロールから。

企画 2
プロデューサー 5
原作 1
キャラクター原案 1
脚本 1
キャラクターデザイン兼
総作画監督 1

この部分で11人。プロデューサーの中に1人外国人らしき名が見える。おそらく製作委員会にも入っているADV FILMSの人だろう。この会社のサイトをみると、「エーディービジョンは、本社をアメリカ合衆国ヒューストンにおきアニメーションや実写の映像制作&販売、関連商品製作&販売、出版物販売をしている会社です。当社はアメリカ(北米)&イギリスで日本製アニメ配給成績・第一位の実績をもっています。」とある。最近は少女マンガが海外で受け入れられるようになってきているというところからみて、ライトノベルおよびそのアニメ化作品についても、海外展開が志向されるのはいってみれば自然な流れだろう。「キノの旅」は無国籍な印象だし、もしその世界観が受け入れられるならば、世界展開にうってつけかも。なかなか目のつけどころがいいといえるのではないか。

ちなみにキャラクター原案は「黒星紅白」(くろぼし・こうはく)というふざけた名(いかにもライトノベルっぽい趣味だ)の方だが、小説の表紙や挿絵を描いている人でもある。ライトノベルは一般にアニメふうのイラストが多用されるのが特徴だから、その絵柄を利用すれば雰囲気をかなり引き継ぐことができる。アニメのキノは小説の挿絵に比べると丸顔だが、描きやすさへの配慮だろうか。

助監督 1
美術監督 1
色彩設定 1
撮影監督 1
編集 1
ビデオ編集 1
音響監督 1
サウンドデザイン 1
音楽 1
オープニングテーマ
 作詞 1
 作編曲 1
 歌 1
アニメーション制作 1
アニメーションプロデューサー 1
プロデュース 1社
「キノの旅」製作委員会
監督 1

ここまでで15人と1社。はいわゆるメインのスタッフ、ということになる。で、ここからがエンドロール。

キャスト
 レギュラー 2
 他 5

キャスト7人。少ない。作品の性格がそうだということもあるが、メインキャラクターは何しろ2人しかいない。で、この話ではそのほかに5人しか出ていないわけだ。もちろんサブキャラの数は話ごとにちがっているが、多くてもせいぜい10人前後だろうか。かなり低予算なのだろう。ちなみにキノの声は前田愛だ。

プロップデザイン 1
原画 10
動画検査 1
動画 14(日本)
    10(韓国)

この部分で36人。別に珍しいことではないが、動画(あとペイントとか)に韓国のプロダクションが入っている。星山企劃という会社だが、ちょっと調べてみると、「劇場版X」、「七人のナナ」、劇場版「ああっ女神さまっ」、「lain」、「NieA_7」、「カウボーイ ビバップ」(TVシリーズ)、「ブギーポップは笑わない」、「魔法使いTai!」、「攻殻機動隊S.A.C.」、「宇宙海賊ミトの大冒険 2人の女王様」、「HARELUYA II BφY」といったさまざまな作品に参加しているようだ。韓国のプロダクションの「能力」について、私は論評する立場にはないが、コアなファンの間では、やや厳しい評もみられる。もしそれが本当なら、韓国のプロダクションに仕事を出す際には、それなりの「配慮」が必要となるのだろう。本作の絵柄は原作小説の挿絵の独特の雰囲気をよく引き継いでいるが、丸顔に変わったキノは、主人公の顔を「安定」させるための工夫なのかもしれない。他にも、シンプルな線で構成された背景や動きを強調しない絵の動かし方などは、原作の雰囲気という面もあるのだろうが、やはり制作上の効率性への配慮があらわれているように思われる。

色指定 1
検査 2
ペイント 1社7人(日本)
     1社13人(韓国)
背景 1社
撮影 2
編集助手 1
編集スタジオ 1社
アシスタント・エンジニア 1
音響スタジオ 1社
音響制作担当 1
音響制作 1社

この部分で5社、28人。

エンディングテーマ
 作詞 1
 補作詞 1
 作編曲 1
 歌 1
音楽制作 1社
音楽プランナー 1

この部分で1社と5人。エンディングテーマは作詞が原作の時雨沢恵一で、キノ役の前田愛が歌っている。当然ながら制作は製作委員会メンバーのポニーキャニオンだ。

オープニング・エンディング・アニメーション
絵コンテ・演出 1
作画監督 1
原画 7(日本)
動画検査 1
動画 2社(日本、韓国)
色指定 1
検査 2
仕上げ 2社
背景 1社+1人
撮影 2

この部分で5社、16人。

アイキャッチ 1
タイトルデザイン 1
宣伝 2
企画協力 2社
製作担当 4
協力プロデューサー 1
アシスタント・プロデューサー 2
制作デスク 1
設定制作 1
制作進行 1
絵コンテ 1
作画監督 1
演出 1

この部分で2社、17人。

製作委員会 5社

製作委員会は5社。ポニーキャニオンのほか、電撃文庫の出版元であるメディアワークス、キャラクタービジネスを展開するキャラクター・アンド・アニメ・ドットコム、海外配給などを行うADV FILMS、そして企画会社GENCO

ここまでを全部合計すると、19社、118人。しかしスタッフはだいぶ兼任になっているから、ネットの人数はもっと少ない。

あれ?製作委員会に広告代理店が入っていない。やはり地上波での放映を予定しなかったからだろうか。だからDVDも安く売れるのかもしれない。全体としてこの作品、なかなかコスト管理をしっかりしている感じがする。作品としての質がどうかはコメントする能力がないが(個人的にはけっこう好きだ)、ビジネス面ではけっこううまくいっているのかもしれない。そういえば、3月末~4月初めに開かれた東京国際アニメフェアで、この作品のセル画が売られていたっけ。これも「ワンソース・マルチユース」の一環、なのだろうか。

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Comments

こんにちは。
アニメは少ししか見たことが無いので何とも言えませんが過去のキノの話は良かったと思います。
キノ可愛かったですしvvvv
しかし自分はどちらかと言えば小説派ですね。
あれを読んでいるともう本当に時間が経つのを忘れます。 

Posted by: 川上智弘 | April 30, 2006 11:31 AM

川上智弘さん、コメントありがとうございます。
時間の流れをあまり感じさせないストーリーですよね。昔話のような。アニメは音楽がけっこう好みでした。いずれにせよ、ファンが多いのもうなづけます。

Posted by: 山口 浩 | April 30, 2006 10:38 PM

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