米Yahoo!、予測市場を開始
米Yahoo!が、3月から予測市場の運営を開始している。
まだ実験段階だ。しかしこれは大きな一歩だと思う。
やるだろうやるだろうと思っていたが、とうとう始めたわけだ。Yahoo!は以前から予測市場に関心を持っていたのだろうと思う。Yahoo!に買収されたOvertureには、予測市場の研究者として有名なDavid Pennock氏がいたのだ。2年ほど前、同氏に聞いたときには「なんともいえない」と言っていたが、企画が通った、ということなのだろうか。2月のワークショップでも、具体的には言ってなかったと記憶している。おかげですっかり見逃していたではないか、とスジちがいの悪態をつきつつ。まあ、聞き逃したのかもしれないし。
この予測市場は、Yahoo! Research LabsとO'Reilly Mediaが行っている研究プロジェクトの一環だ。まだ正式サービスではない。この予測市場のソフトウェアはNewsFuturesが提供している。同社はMITの「Innovation Futures」のエンジンも提供していたりして、なかなか積極的だ。
予測市場のコーナーは、米Yahoo!の「Buzz Index」の中にある。「The Tech Buzz Game」というのがそれだ。
「Buzz Index」の説明は本題ではないので入らないが、要するにユーザーの検索ワードをカウントしてインデックス化し、話題のテーマを探るという手法だ。2000年から行われている(参考記事)。
「Tech Buzz」のほうはこれとはちがうのだが、むろん関係はしている。すでにInternet watchで取り上げられているので知っている人もいるだろうが(見逃していたとは不覚だ。かえすがえすもくやしい)、要するに、新しい技術の価値を予測するための仮想先物市場、というわけだ。新技術に関する予測市場、という意味では「Innovation Futures」や、予測市場の「古株」である「Foresight Exchange」と似ていなくもないが、決定的にちがうのは、予測先物の価値がYahoo!の検索回数、つまり上記のBuzz Indexに連動する点だ。つまり「投資家」は、将来ある用語、たとえば「ポッドキャスティング」の検索回数が将来増えるだろうと思えば、「ポッドキャスティング」予測先物を購入する。予測が当たれば「ポッドキャスティング」予測先物は値上がりする、というしくみだ。人々が多く検索するキーワードは、人々の関心が高く、したがって将来有望、という理屈なのだろう。通常の予測市場では、たとえば選挙の得票率とか、映画の興行収入とかが「原資産」になるが、ここではそれがBuzz Indexとなっている。つまりこの市場は、技術そのものではなく、そのことばの「Yahoo!にとっての重要度」に関する予測を行うという意味で、Yahoo!の企業戦略と整合的な予測テーマとなっているのがミソだ。
「Blogshare」とも似ている、といえなくもないかな。
「予測先物」と書いたが、Yahoo!は「virtual stock」と表現している。この予測証券には下記の通り満期があるし、別のインデックスに連動しているため、分類からいえば「先物」に属するというべきものだ。ただアメリカでも「先物」には若干「投機」みたいなイメージが付きまとうので、なじみやすくするために「stock」といっているのだと思う。まあ、抵抗があるなら「予測株式」でもかまわない。一般的にいうなら、「予測証券」だ。当然ながら、ここでは仮想通貨なので、現金を投資するものではない。アカウントを作ると、自動的に「$10,000」の元手が与えられる。
予測って何を予測するんだ?というと、以下のようなものだ。非常に多岐にわたっている。ここに挙げたのはそれぞれが「市場」で、そのそれぞれの市場の中で複数の銘柄の予測先物が取引されている。具体的にはサイトでご確認いただきたい。
エンタテインメント分野(Music, Movies, Fun and Games)
・Digital Video Recorders
・Massive Multiplayer Online Role Playing Game
・Online Music Services
・Portable Video Game Platforms
・Radio
・Video Game Consoles
・Video Rental
グッズ分野(Gadgets, Gizmos, and Gotta-have-its )
・Droolworthy (HDTivoとかiPod Shuffleとかそういうやつ)
・Mobile Email Devices (Blackberryとかそういうやつ)
・Mobile Messaging
・Portable Media Devices (iPodとかRioとかそういうやつ)
・Rumor Mill (iPod VideoとかSkype-InとかXbox360とかそういうやつ)
・Television (LCDかプラズマか)
ネットワーク関連
・Annoyances (迷惑なやつ。ポップアップ広告とかスパムとかスパイウェアとか)
・Anti Spam
・Broadband (ケーブルかDSLか衛星かWiMaxか)
・Mobile Protocols (3GかCDMAかGSMかHSDPAか)
・Internet Phone
・Wireless Internet (WiFiかWiMaxか)
オペレーティングシステム関連
・All Operating Systems (どのOSか)
・Linux Distributions
・Mac Adoption
・Sun vs. Red Hat
プログラミング・開発関連
・Mobile Development Environments
・Programming Languages
・Web Application Frameworks
アプリケーションソフトウェア関連
・Database
・Instant Messaging
・Open Source Desktop
・Productivity Suite (要するにOffice)
ウェブ関連
・Ad Services
・Weblog Empires
・Weblog Applications and Services
・Browser Wars
・Desktop Search
・Books Online
・Maps and Directions
・Peer-to-Peer File Sharing
・Photo Sharing
・RSS Feed Brokers
・RSS Readers
・Social Bookmarks
・Social Networks
・Web User Interface
・Web Services
・Wiki
この予測市場は、Pennock氏が開発したdynamic pari-mutuel方式となっている(Pennock (2004)。Yahoo!がパテント申請中だそうな)。パリミューチュエル方式(的中させた投資家がすべての投資資金を総取りする。宝くじ方式、とでもいえばわかりやすいか)と連続ダブルオークション方式(一般的な株式市場みたいな方式)のハイブリッド、とでもいおうか。取引が途切れがちになる、運営者側が価格リスクを負うといった、予測市場に関するさまざまな運営上の問題を解決するために考えられたものだ。自動化されたマーケットメーカーが価格を提示するので、取引相手がいないという問題はない。実際の価格の動き方についてはちょっとややこしいので、ここでは省略。空売りができない設定になっているのは、予測市場で問題となる「破産問題」を回避するためだろう。
現在行われているのは、2005年3月15日から7月29日までの「The Tech Buzz Game Summer 2005 Contest」だ。終了時点のパフォーマンスで3人の勝者が選ばれる。1位の商品はMac miniやらなにやらで$2,290相当とか。この点はちょっと残念。もう少し幅広く商品を出してほしいなぁ。このコンテストの終了後に市場をどうするかは決まっていないようだが、結果がよければ(つまり市場全体として予測力があることがわかれば)継続されるかもしれない。そのときには次のコンテストが始まることになるのだろう。ぜひ続いてほしいものだ。
Yahoo! JAPANを始め、日本のポータルサイトはこうした動きをどう考えるだろうか。
ちなみにだが、対象は米国在住の人なので、日本から参加はできても賞品をとることはできない。それでもよい、という方は、ぜひご参加を。
Pennock, David M. (2004). "A dynamic pari-mutuel market for hedging, wagering, and information aggregation." Proceedings of EC'04, ACM.
※追記
梅田さんのblogに取り上げていただいてありがたいと思っていたのだが、浮かれたのかここですでにTech Buzz Gameを取り上げておられるのを見落としていた。なんとも情けない話。失礼いたしました。
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