技術的なアンバンドリングが経営的なバンドリングを必要とする話
渡辺聡さんの主宰する「Emerging Technology研究会」に参加してみた。テーマは「サーバ型放送」。「TV Anytime Forum」副議長の早稲田大学亀山教授のお話。メディアとコンテンツが分離されることでさまざまな可能性が、といった内容。
話を聞きながらつらつら考えた。技術的にはいろいろな可能性があってけっこう。完全にバラ色とまではいかないだろうが、薄バラ色、ぐらいにはいえるかもしれない。
でもコンテンツ企業は?と頭を転じたら、あれ?となった。思いつきの仮説なのでひょっとしたらとんちんかんかもしれないが、とりあえずアイデアのとっかかりとして書いておく。
「TV Anytime Forum」が考えるサーバ型放送に関しては、広告をスキップされるのではないかとか、いやむしろ番組とCMを切り離して提供する手法も考えられるとか、いろいろな議論が出た。そのあたりは、正直事情がよくわからないせいもあって、やや置いてけぼり状態。で、「コンテンツとメディアの分離」というキーワードが頭に残ってしまって、その周辺で考えを泳がせることとなった。
これまで、コンテンツはメディアごとに作られ、送られていた。テレビ局はテレビ番組を作り、ラジオ局はラジオ番組を作る。新聞社は記事を新聞に載せる。映画はもう少し広いかもしれないが、まあおおまかにいえばメディアごと、といっていいのではないか。
で、コンテンツとメディアの分離というのは、それらを切り離して、コンテンツを全体として、あるいはその一部を切り取って、いろいろなメディアで利用できるようにしようというわけだ。それにより収益機会、業界用語でいえばウィンドウが拡大する、というわけだ。そうなると、既存のマスメディア関連企業にとっては新たな機会と挑戦がもたらされる。どんなのがあるかね、というのは研究会での議論のテーマでもあった。
ここからが自分の「つらつら」の中身。
コンテンツをメディアから切り離してさまざまに活用していこうとすれば、権利の調整をしたり細かいビジネスモデルのリファインを行ったり、いろいろしなきゃならない。そういう作業は、もちろん当該コンテンツに関連する企業がその都度集まってやればいいわけだが、なかなか手間がかかる。広告代理店が影響力を行使できるのはひとつにはこの部分を仕切れるからだ。それと、コンテンツがメディアから分離すると、メディアは「コモディティ」になって価格競争にさらされる。メディア企業が自社の競争力を強化しようとすれば、すぐれたコンテンツを確保する必要が生じる。
というわけで、実際には、メディア企業によるコンテンツ企業を囲いこむ動きが活発になっているように思う。つまり、「技術的なアンバンドリングが経営面でのバンドリングを求める」ということではないか。
分野はちがうが、金融分野のことを連想した。金融業界において、サービスのアンバンドリングが進行している。たとえば貸出債権を証券化することによって、金融機関が独占的に提供してきた信用供与というサービスの中で、リスクの引き受けやその管理といったサービスが他へ移っていくこととなる。こうしたアンバンドリングを生んでいるのは金融技術の発展であるわけだが、それと同時に金融のさまざまな機能が持株会社グループの傘下に集約されていく動き(そんなにクリアカットではないが)もみえるような気がする。ここにも、技術的なアンバンドリングが、経営面でのバンドリングを呼んでいるように思われる。
もしこれが的を射た見方であるとすると、その理由は何だろうか。ちょっと考えてみると、どうもこれはおそらく、柔軟性を確保するという目的において同じ方向のことなのだろう。アンバンドリングによってサービスに柔軟性ができるが、企業が実際にそれを実現するためには経営面での柔軟性を獲得しなければならず、バンドリングによってそれを成し遂げようとする、というわけだ。
コンテンツ産業振興の観点から、経営基盤の安定を指向した施策がいろいろ打ち出されている。自前で資金調達して、権利を握って、さまざまなウィンドウを作ってビジネスを展開していこうというわけだが、実際には、これをやるためには、既存のメディア企業との連携を強めなければならず、実際今の動きをみると、一部の例外を除けば、メディア企業がコンテンツ企業への影響力をむしろ強めつつある方向性のほうが強いように思われる。
コンテンツ企業のために、これはあまりよくないと考えていた。結局支配されてしまうではないか、数々の施策はいったい何だったのだ、と。しかし、もしそれが避けられない、少なくとも現状ではよりよい対案がないのだとすれば、今はなんとかうまくやる方法を考えたほうが建設的だ。某有力プロデューサーの話を聞いた際も、「理想的とはいえないが悪いことばかりでもない」という趣旨の発言があった。メディアとの関係を強めることで、少なくとも経営基盤は安定する。METIの思い描くような姿ではないかもしれないが、少しでも現状を改善できるのであれば、それなりに価値はある、というわけだ。
現在のところ、コンテンツとメディアの分離は、既存のメディア関連企業にとって、どちらかというと新たなチャンスとして機能しているように思われる。技術が解決するのは技術的課題であって、経営的課題はまた別と考えたほうがよさそうだ。技術を語るときと企業を語るときは、明確に意識を切り替えないといけないのだな、というのが、今回私が得た最大の成果。そんなこと当然じゃないか今ごろ気づいたのかという方、何をとんちんかんなことを言ってるんだそんなことあるわけないだろうという方、ぜひいろいろご教示いただければ。
The comments to this entry are closed.
Comments