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June 09, 2005

「クールビズ」の経済効果だってさ

第一生命総研が「「軽装励行」の生産波及効果 ~生産波及効果は+1,008億円、名目GDPに換算すれば+637億円」というレポートを発表している。いわゆる「クールビズ」が経済的にも効果があるという話だ。

…ええっと。

執筆されたのは第一生命総研の永濱利廣氏。おお「あの」門倉氏と同年齢ではないか。若手のホープ、だな。詳細は読んでいただくとして、簡単にいえばこういう論理だ。

(1)クールビズにより、サラリーマン1人あたりの支出は平均3万円増える。
(2)自治体・企業職員の12.3%がクールビズの服装をする。
(3)これを集計した直接効果は619億円。
(4)他産業への波及効果を入れると1,008億円。付加価値ベースでは637億円。
(5)この数字は2005年4-6月期GDPを0.05%押し上げる。
(6)仮に自治体・企業のすべてのホワイトカラーに普及すれば、4,475億円のGDP押し上げ効果がある。

…んーとね。

こういうのは「ネタ系経済分析」とでも呼ぶべきだろうか。あまりきまじめにとりあげるのはどうかと思うので、こちらも「ネタ」として楽しませてもらう。

(1)は、こんな理屈だ。

内閣府の試算によれば、「クールビス」関連商品一式として、シャツ、スラックス、靴、ベルト、ジャケット、アンダーウェアを仮定し、これらを大手百貨店で新たに揃えた場合の費用を約13万円程度としている。一方、サラリーマンが通常のサマースーツを新調すると想定した場合の夏物ビジネス衣料の平均的な費用を9 万円程度と考え、差額で4万円程度の支出増を想定している。

で、調べたところ量販店では、支出増はこの半額ぐらいと思われるので、

以上より、マクロで見た夏の軽装に伴う平均的な出費増加額は、大手百貨店と紳士服量販店の中間である約3万円になることが予想される。

と相成ったわけである。いいねこういう「間をとって」的アバウトな感覚。きっと上司と「こんなもんですかね」「まあそんなもんじゃないの」などと話しながら書いたにちがいない、と想像してみる。きっといい職場なんだな。

で、(3)がまたすごい。直接効果(つまりネットだ)が619億円ということは、1人3万円で割れば、1,600万人いるといわれるホワイトカラーのうち12.3%、つまり約200万人が平均3万円よけいに衣料品を購入する、という計算だ。200万人がクールビズの服装になる、じゃない。平均3万円をよけいに「買う」、グロスでいえば6.5~13万円の衣料品を買う、と予想しているのだ。いやすごい効果ではないか。私はクールビズのために新たに衣服を買うようなことは一切していないが、第一生命の人たちは下着まで新しく買うらしい。私は買わないので私の分13万円余分に買っといていただければ。クールビズ用の下着ってどんなだ?というつっこみはおいといて。「ふつうの人」はスーツ以外に着るものを持っていないという想定なのだろうか。そういう人は、そもそもスーツを着続けようとするような気もするが。で、そのスーツが売れなくなると。「軽涼スーツ」なんてがんばってた企業にはちょっとつらいだろうな。

口先ばかりでは失礼なので、データでちょっと裏を取ってみる。13万円はいくらなんでも高いだろう、ということについてだ。「家計消費状況調査」(平成16年平均)から、1世帯あたりの1ヶ月間の消費支出(全国平均)をみると、「雇用されている人」の「男性用スーツ類」への支出額は1,473円、会社などの役員で3,133円だ。12倍すると17,676~37,596円だろうか。もうひとつ、「家計調査報告」(二人以上の世帯)平成16年平均速報からとると、勤労者世帯の被服・履物への平成16年月平均支出額は14,893円とある。12倍で178,716円。とするとなんだな、クールビズのせいで奥さんやら子供やらは今年1年ほぼ着たきりすずめになるってわけだな。こりゃあ父さん肩身が狭い。来年はどうするんだろう。

で、(4)は産業連関表を使って分析しているわけだが、

・・・産業別に見ると、直接効果の及ぶ商業に加え、衣類に関連した製造業、店舗改装等に伴う建設業、衣類の原材料に関連する農林水産業等で大きな額となっている。

だそうだ。へえ「原材料に関連する農林水産業」か。夏だしコットンとか多いんだろうな。ええと日本の自給率はっと。あれ?それに「店舗改装」って、クールビズで何か店舗改装するんだろうか。いやそもそも、産業連関分析ってこういう細かいところには入らないような。この種の特定の要因の効果を測るのはなかなか難しいと思うぞ。カジュアル衣料なんかは中国製が多いから、中国の下請工場なんかは大忙しになるかも。で、日本は?

(6)は、悪ノリとまではいわないが、さすがに行きすぎだろう。正直つきあいきれん。でもまあ、ここまでやるならいっそのこと、さらに押し進めて、ぜひ「冬の重装」をその経済効果の分析とともに提唱してもらいたい。「夏の軽装」があるのだ。「冬の重装」もあって当然ではないか。暖房費を節約するために室温は「10度以下」と決め、皆室内でコートを着るのだ。何せ冬の衣料は夏ものより高い。これはクールビズをはるかに上回る「経済効果」が期待できるはずだ。室内用の動きやすい薄手のコート、目立たないあったか下着、PC操作のじゃまにならない手袋、ブランドもののひざ掛け、体の芯から温まるインスタントスープ、欠かせない使い捨てカイロ。それだけじゃない。省エネ、環境保全につながるだけでなく、室内外の温度差が少なくなるから風邪をひく人も少なくなるし、脳卒中なんかが減って健康保険財政も改善するというおまけつきだ。「クールビズ」のGDP押し上げ効果が4,475億円なら、「冬の重装」の経済効果たるや1兆円、いや2兆円ぐらいいくのではないか。これで景気回復だ!

…さてと。

ともあれ第一生命総研、優秀なスタッフをそろえ、「ネタ系経済分析」という新たなジャンルを確立しつつある。いや決して批判しているのではない。まじめな話、こういうキャッチーなレポートで経済への関心を高めることは、悪くないと心底思う。これでクールビズ普及に貢献すれば、さらにめっけもんだ。今後とも要注目!と推奨しておく。

※2005/8/22追記
環境省が、「クール・ビズ」に続き、秋冬も20℃程度と適切な室温設定で働くことを呼びかけるらしい(ニュース)。「寒い時は着る」「過度に暖房機器に頼らない」ことを訴える。「暖房に頼り過ぎず、働きやすく暖かく格好良い」ビジネススタイルのイメージを分かりやすく表現した名称などを定めるため、22日には小池百合子環境相も出席し、有識者による検討委員会を開催するとか。そういうときの「有識者」って誰なんだろう?

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