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June 15, 2005

意欲も能力もない人々

交通事故の損害賠償訴訟で、逸失利益の割引率について、最高裁が「年5%が相当」との判断を下したらしい(参考記事)。

5%だってさ。へっ!

以下の文章は、少し怒っているので、とげがあると思う。あらかじめおことわりしておく。

5%というのは民法が定める法定利息だ。第404条に、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」とある。遅延利息について定めたものだが、損害賠償の場合にも慣例として適用されてきた。しかし最近は金利が低いことから、下級審においてより低い利率を適用する判例がいくつか出ている。おそらく大半は5%をそのまま使っていて、それ以外の利率を使うのは例外的だったのだろう。今回の事案は、その例外的なケースで、第二審は3%を採用した。割引率が低いわけだから、当然賠償額は高くなる。これに対して加害者側は「法の下の平等」に反するとして上告、今回の最高裁判決に至ったわけだ。

報道によれば、最高裁判決は「法的安定性」や「統一的処理」の必要性を重視したという。事案や裁判官ごとに差し引く割合についての判断がばらばらに分かれることを防いで被害者相互間の公平の確保を図れる、損害額が予測可能になることで訴訟に持ち込まれる前の解決がしやすくなる、などの理由を挙げているらしい。

これはつまりどういうことか。

はっきりしている。裁判官およびそのグループには、賠償すべき額を算出する意欲も能力もないということだ。

裁判は、裁判官が、憲法、法律と自らの良心にのみしたがって判断するものだ。少なくとも日本国憲法第76条第3項にはそう書いてある。むろん判例やら上級審の判断に従うというのはあるのだろうが、事案に応じて裁判官が下す判断を信頼する、信頼に足る裁判官をおくというのが制度の根幹をなす発想ではないのか。

百歩譲って、法の下の平等のために、全国の裁判所で統一の基準を決めるという発想が出てくるのはわからなくもない。金利は、条件が同じなら、日本国内で「ほぼ」「事実上」一定だからだ。ならば最高裁なり何なりが「今の利率はこれこれ」と通達でもすればいい。市場環境にかかわりなく一律に5%と決めることがなぜ平等なのか。市場金利が10%のときに5%を適用される者と、市場金利が1%のときに5%を適用される者が平等だとでもいうのか。私のなけなしの知見をもっていうが、これは平等ではない。彼らがいう「平等」はすなわち、自らが責任を逃れるために、裁判官が「何が平等か」について考えるのを放棄したということに他ならない。

まあ、なぜ彼らが自分で決めたくないかは容易に想像がつく。わからないからだ。あるいはきちんと説明できないから、といってもいい。つまり、能力がないのだ。私は司法修習の内容を知らないが、将来価値を割り引くべき利率の算出方法が修習プログラムに含まれてはいないであろうことは想像に難くない。

別に、わからないことを責めるつもりはない。彼らは法律の専門家なのだ。しかし、もしそうなら、なぜ適用すべき利率を自ら決めようとするのか。たとえば医学分野の裁判において、専門的知識を持つ者の助けを借りて判断することは当たり前に行われているではないか。損害賠償一般についても、同じように考えたらいい。たとえば9歳の男の子が交通事故で亡くなった場合の損害賠償訴訟を考えれば、加害者の法的責任を認定して、その子が生きていれば生涯に得たであろう所得から必要経費を引き、その現在価値を求めるという一連の作業がある。このうち法的に加害者が責任を負うべきかどうかは裁判官の専権事項としても、賠償すべき金額の具体的な算定方法については(もっと限定的にいえば、適用すべき利率の選定について)、外部に専門的知見を持つ者がいるはずだ。

もし上記のように、最高裁なりが全裁判所で統一的に適用すべき利率を決めるようにすれば、それほど大きなコストはかからないはずだ。単純な話、銀行に行って住宅ローンを借りようとすれば、その利率は毎月変動する。どの支店に行っても利率は同じだ。その程度のことだ。前月に比べてローン金利が上がったからといって「法の下の平等」をいう客はいない。「理の当然」だからだ。

裁判官が適用すべき利率について何の考えもなしに5%と決めることは、たとえば医療過誤の裁判において、医師の判断の医学的見地からの適切さを医学的知識のない裁判官が自らの判断で決めることとさしてかわりがない。裁判制度への信頼の根幹をゆるがす問題だと思う。わからないならわからないでしかたがないのだから、いさぎよく認めて専門家の力を借りたらいい。できないことをやろうとするのは、無責任といわれてもしかたがない。

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