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July 29, 2005

私の「失敗」論

試験監督なんてものをすることがあるが、あれはどうにもいたたまれない。他の人が頭を振り絞っている間に自分だけのほほんとしていることの後ろめたさもさることながら、受けている人たちのあせりとかいらだちとか不安とかいったものがあたりに充満しているから、というのが大きい。中には試験中からもうだめだと落ち込んだり投げやりになってしまったりしているような感じの人もいたりして、なんとも申し訳ないような気分になる。

気にするなって、といいたいのだが、なかなかいう機会はないので、一応書いてみる。次にそういう機会があったときのために。

もちろん、試験は重要だ。特に、どの学校で学んだか、どのコースを受講したか、どの資格をとったかなど、形式が重要である場合には、当然ながらそれに関係した試験の結果がすべてといっていい。形式は、ある種の状況下ではけっこうものをいう。だからそうしたものをめざす人が試験で失敗すれば、落ち込むのは当然だろう。

それはそれとして、失敗1つで人生終わるわけじゃないよという、いかにも当たり前のなぐさめ方もある。チャンスはほかにもある。なければほかのチャンスをさがせばいい。だから悪い結果も受け入れよう、というわけだ。そういうなぐさめ方ももちろん悪くないが、私がいいたいのは、もう少し積極的なとらえ方だ。

失敗は、チャンスだ。

特に学校の場合はそうだ。こういう考え方をするのは私だけではないと信じるが、基本的に学校というのは、失敗するためにある場所だ。安心して失敗できる場所。学校の試験にも「失敗できない」類のものがあるのはわかるが、本当に失敗できないものはそうそう多くはない。それに学校は、なぜ失敗したのか、どうすればよかったのか、教えてくれる人がいる。うまくいった人、うまくいかなかった人の例も身近にある。世の中に出ると、そうはいかないことが多い。失敗の取り返しがつかなかったり、大きな被害が出たりすることもある。失敗できる場所つまり学校で失敗したことは、ひょっとしたらむしろとてもラッキーなことだ。「ああ学校でよかった」と。

失敗は、糧になる。

もうひとつ、学校に限らず、私たちは「成功」にこだわりすぎるきらいがあるように思う。成功することが当たり前とか、成功して初めて一人前とか。あたかも成功を強いているかのようだ。逆に失敗は忌み嫌われる。ほんのわずかな失敗でも大騒ぎになる。だから私たちは、失敗にとても弱い。慣れていないからだ。今社会で問題になっていることの少なくともいくつかは、私たちが失敗に慣れていないことから生じているような気がする。失敗するくらいなら初めからしないほうがいい。そういういい方をよく耳にする。もちろん中にはそれがあてはまるケースもあるのだろうが、たいていの場合はちがう。最初からできるものはさして重要ではない。重要なものは難しいから、最初から成功するほうがおかしい。失敗しながら覚え、慣れ、うまくできるようになっていく。最初に失敗しなかったら、後の成功はない。ならば、失敗はむしろすすんですべきだ。

失敗は、人を豊かにする。

さらにもうひとつ。失敗を知らない人は、失敗する人の苦悩がわからない。ほら簡単でしょとかこれくらいは普通ですねとか平気でいったりする。私は自分では「人一倍失敗した人」だと思っているのでわかるが、こういういい方をされると本当に腹が立つ。冗談じゃない。たくさん失敗をしているから、人の苦しみがわかるんじゃないか。それを知らない人は、ある意味で何かが欠けている、とあえて言い切ってしまおう。失敗を知っている私たちは、知らない人たちに比べてより多くを学んでいる。答案用紙に書ける「知識」ではなく、人生を豊かにする「知恵」を。

なんだか妙に鼻息の荒い文章だが、こんなので少しでもなぐさめになるだろうか。上にも書いたが、私もかなりたくさんの失敗をしている。それでもなんとか生き延びているわけで、まあ世の中たいていのことはなんとかなるもんだよ、多分ね、というぐらいのほうが実感がわくかもしれないな。

※2005/7/31追記
最近、Stanford Univ.の卒業式でAppleのSteve Jobsが行ったスピーチが話題になっている(原文はこれ、音声ファイルはこちら、日本語訳はこちら)。「Stay hungry, stay fool」で締めくくられた感動的なやつだ。スピーチにもあるとおり、彼はかなりものすごい挫折を幾度かくぐり抜けている。経営者としては大失敗、といってもいいと思う。そうした失敗がなければ彼のそのことばが生まれなかったかどうかはわからないが、少なくとも、失敗は彼の考えにいっそうの深みをもたらしたであろうことは想像に難くない。失敗が人を豊かにした一例、だと思う。

※2007/8/1追記
上記のSteve JobsのスピーチはYouTubeで見られる。

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