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July 08, 2005

「エンターテナー」たち

日本に来る外国人の3人に1人は「エンターテナー」だという。OECDの「Trends in International Migration(2004年版)」による数字だ。そのあたりに詳しい一部の方(どんな人だよ)はさておき、以下は、私同様、え?と思われた方向けの話。というか、自分用の勉強ノートみたいなもの。


より厳密にいうと、「Inflow of foreigners excluding temporary visitors and re-entries」だ。2002年で合計34.4万人。旅行者などは除いている。そのうち12.3万人が「Entertainer」だと書かれている。1999年は8.2万人だったから、けっこう増えていることになる。ソースは法務省とあるので法務省サイトをみてみたら、「平成16年における外国人及び日本人の出入国者統計について」という資料があって、ここでいう「興行」目的の在留資格にあたることがわかった。推移は次の通りで、少しずつ増えている。

入国者数(興行)
2000103,264
2001117,839
2002123,322
2003133,103
2004134,879

そういえばと思い出した。新幹線に乗る機会がちょくちょくあるが、地方都市に向かう列車の中で、思い切り目立つ、ヨーロッパ系とおぼしき若い外国人女性をしばしば見かけたのだ。1人、ないし数人。荷物はほとんど持っていない。地理に詳しい様子もないし、ガイドブックも持っていない。たいてい、日本人男性がつきそっている。人当たりのよさそうな、それでいてそこはかとなくうさんくさい風体。彼女らはおそらく「エンターテナー」だったのだろう。
   
確たる証拠があっていうわけではないが、こうした中の少なからぬ人々は、いわゆるヒューマン・トラフィッキングに関係していると考えていいのではないか。つい最近も、13歳のタイ人少女を買い受けて230万円でブローカーに売り渡したタイ人と、客を紹介した日本人が警視庁に逮捕された(記事)。この少女は約1年半の間に約200人の相手をさせられ、約400万円を受け取ったものの大半を巻き上げられ、タイに送金できたのは月3万円だけだったとのこと。 

日本は、ヒューマン・トラフィッキングの主な舞台の1つとなっていて、ILOが出した「Human Trafficking for Sexual Exploitation in Japan」という資料にかなり詳しい分析が出ている。警察が把握しているだけでも毎年100人前後の被害者がいるとのこと。大半はタイ、次いでコロンビア、台湾、フィリピン、中国、ロシア、インドネシアなどから。たとえばコロンビア大使館は、非公式な推計として、最大で年間2~3,000人という数字を挙げている。日本に入国するコロンビア人女性の大半、プラス偽パスポートで他国人として入国している人も含めて、ということらしい。

上記のILO資料を読んでいて、どうも国内での語られ方とニュアンスがちがうのに気づいた。たとえばこんなあたり。

"Most Thai trafficking victims come to Japan knowing what kind of work they will be engaged in, . . However, they are not aware of the harsh conditions of work, for example, ten customers assigned to them a night to be able to pay their debt on time."
"Most trafficking victims complain of labour-related violations, which include complaints of the work being different from that in their contract, low wages or non-payment of wages, long working hours, mandatory night work, unsafe or hazardous work environment, and poor accomodation provided by establishments."

なんでだ?と思っていたら、どうも現在ILOをはじめとした国際機関なんかでは、トラフィッキングと売春を分けて考える動きが力をもっているらしい。問題は欺瞞や強制、劣悪な労働条件などであって、売春そのものは合法化されている国もあるし、仕事の一種、という位置づけのようだ。Jeffreys(2002)を読む限り、フェミニストの中に、自己選択に基づく売春を女性のエンパワーメントとみる派とあらゆる種類の売春を女性の抑圧とみる派の対立があって、国際機関などでは前者の一派のほうが強い状況、とある。日本では後者の側の意見のほうが有力のようにみえるが、そのあたりはよくわからない。

最初にこの文章を書き始めたとき、私は「前者」に近い考え方だった。合法化すれば労働条件もよくなるし、当局の目も届きやすくなる。欺瞞や強制はもってのほかだが、あれもひとつの職業ではないか、と。何より、禁止しても禁止しきれるものではないなら、合法化して闇の勢力との関係を断ち切ることから始めたほうが建設的だ、と。しかし上記のJeffreys(2002)では、合法化されたオーストラリアでも違法操業やトラフィッキング、劣悪な労働条件はそのまま残っていて、合法化の「メリット」と思われていることは実際には実現していないという。しかし、じゃあ全面禁止にしたら状況は改善するのか?闇の勢力をさらにのさばらせるだけではないのか?

もとより何かの結論を目指して書き始めた文章ではない。頭の中が混沌としてきたので、とりあえずここでやめる。ただいえるのは、多様な見方、考え方が必要であり、かつ有益であろうということだ。それから、意に沿わない仕事を強制されるのは、この仕事に限らず、男女を問わずいけないということも。


参考文献
Jeffreys, Sheila (2002). "Trafficking in Women versus Prostitutions: A False Distinction." a paper presented at Townside International Women's Conference.

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