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July 05, 2005

暴論:投票しない人には増税したらどうだろう

7月2日に行われた東京都議会議員選挙の投票率は43.99%だった。2001年の前回選挙では50.08%だったから、6.09ポイントも下がっている。97年の40.80%に続く過去2番目の低さだった(記事はこちら)。選挙管理委員会は選挙キャンペーンをいろいろやったようだ(パパイヤ鈴木のCMも見た)が、結果としてはやはり大成功とはいいがたいだろう。

これまでのやり方では選挙離れを防ぐことはなかなか難しいようだ。というわけで久々の「暴論」シリーズ。少し考え方を変えたらどうだろう。

次期衆院選に向けた「中間選挙」なんていう報道が多くあったように記憶しているが、いざすんでみたら、衆院選はまだ先のことだし明確な争点も乏しかったし、と妙に冷静な「分析」が氾濫している。 そんなこと、はじめからわかっていただろうに。ちなみに男女別では、男性42.81%(対2001年比5.43ポイント減)、女性45.14%(同6.73ポイント減)だったそうだ。 男ってのは忙しいのかね、それともずぼらなのかね。どちらにせよ、ほめられたことではない。

ちなみに、毎日新聞の記事に、東洋大学法学部加藤秀治郎教授の話として、「議院内閣制の国政のように、地方議会の議員が首長を選出するのも一つの方法だ。議会選挙の結果で知事が決まるとなれば、関心が高まるのではないか。」という意見を紹介しているが、これは思いきりポイントをはずしている。引き合いに出された国政のほうだって、2003年10月の衆議院総選挙の投票率は小選挙区59.86%(男:59.68%、女:60.03%)、比例区選59.81%(男:59.63%、女:59.99%)でしかない(Wikipediaの記載)。都議選より高いという意見もわからなくはないが、この程度で満足すべきなのか?それにそもそも、「首長」である都知事の前回2003年選挙の投票率が44.94%だった。問題は、選挙のしくみではない。人々が選挙そのもの、投票するという行為そのものに興味を失っているということだ。

この社会で、人に投票を強制することはできない。投票しない自由はある。しかし今は、私たちの「社会」としての選択がかつてないほど問われている時代だ。パイは限られている。誰かに多く配分するためには、誰かの分を減らさなければならない。そういう選択だ。そのために、皆の意見が集約されることが、とても重要になっている。制度として、投票を義務づけることはできなくとも、投票をより強く促すしくみを作ることは、検討されてもいいのではないか。

というわけで暴論。ここはやはり、税金にご登場いただきたい。投票に参加することで税金が安くなるしくみ、というのを作ったらどうだろう。今の財政状況だと、投票しない人に増税、というほうが現実的かもしれない。選挙管理委員会が課税当局と情報を共有することは、前例はないかもしれないが、必要な法改正を行えば、不可能ではないはずだ。投票をしたという情報が直接政府や自治体に伝わるのがいやなら、投票時に「税控除券」みたいなものを渡せばいい。それを申告書に貼れば減免を受けられるといったように。金額は、そうだな、やはり差をつけようと思ったら数万円ぐらいは必要だろう。「サラリーマン増税」とやらは評判が悪いが、これは反対しにくいはずだ。

ちょっと前に、交通違反の納付金の未納者に逮捕をちらつかせたら、納付率が急上昇した、という報道があった。別にこれと同じというつもりはないが、選挙に行かないことで具体的に不利益があるとわかれば、投票率はけっこう上がるのではないか。

調子に乗ってさらに脱線すると、政治への参加は現在の憲法では権利だが、義務にしてもいいのではないか。納税と同じように。納税は金銭による政治参加、投票は票による政治参加だ。似たように扱ってもいいと思う。税を納めなければ脱税で違法となる。今度導入される裁判員制度も、指名されたら断ることはできないのだし、市民の義務としてもおかしくないはずだ。投票への不参加を違法とするのはちょっとやりすぎという感じもするが、よけいに税金をとるくらいのことをやっても、罰はあたらない。投票しない権利は保障されているのだし、人権の侵害ということにはならないと思う。

法律の専門家には「暴論」っていわれるんだろうなぁ。政治家の中にも、投票率が低いままであることを望む人もたくさんいそうだし。でも賛成!という人もきっといると思うので、とりあえず書いておく。

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Comments

山口さん、こんにちは。

昨日の都議選の投票率を見て、実はまったく同じことを考えていました。名付けて「不投票税」。でも「投票控除」の方がポジティブでいいですね。

いくら個々人の意識に訴えようとしても、投票という行為にすでに意義が感じられていないとしか思えない現状を見ると、民意をきちんと反映していると思われるライン(それが具体的には何パーセントなのかはすぐにはわかりませんが)まで投票率を上げるためには、こういうのもやむを得ないのではないか、と思ってしまいます。

Posted by: くりおね | July 05, 2005 01:04 AM

くりおねさん、コメントありがとうございます。
1票では何もできない、と思ってしまうんでしょうね。それが集まると力を持つんですけどね。自分1人ぐらいさぼっても、というのは典型的なフリーライダーです。とすると、「自分の計算」にするためには、個人単位で損得が生じるようにしなきゃいけないということなんでしょう。

Posted by: 山口 浩 | July 05, 2005 01:21 AM

ご存じとは思いますが、オーストラリア(罰金)、ベルギー(選挙権剥奪)など棄権に対して罰則規定を持つ国もあります。

この手の制度は発展途上国に多いようで、我が国には馴染まないという意見もあるようです。「棄権も一つの意思表示」(個人的にはとてもそうは思えませんが)ということを尊重するのであれば、仰るとおり政治に対して責任を積極的に負う行動(投票)をした人にベネフィットを与えるというのは一つ方法だと思います。

Posted by: Flamand | July 05, 2005 04:48 PM

話は違うのですが、第一生命経済研究所の門倉氏、会社を辞めてしまったのか、データが全て抹消されてしまっているようです。「ネタ系」経済論文、読めなくなってしまい残念ですね。ま、あそこのことですから、必ずや後継者が現れるかと思われますが。

Posted by: rascal | July 05, 2005 09:29 PM

コメントありがとうございます。

Flamandさん
途上国に多いんですか。うっすら聞いたことはありましたが、よく知らなかったものですから書きませんでした。勉強になりました。でも「馴染まない」という論理は私には理解できませんね。棄権は白票で表現できるので、投票に行かないことを意思表示と認める必要もないと私は思います。

rascalさん
ええっ!!ショックです。確かにリンクが消えていますね。ニュースのほうをみると、門倉氏のレポートについて書かれたものが残っていたりはしますが。辞めてしまわれたのでしょうか。ありえなくはないですね。そのうちお話を聞きにいきたいと思っていたのですが。別の機関へ移られたのかもしれません。またどこかで活躍してくれるといいなぁ。何かわかったらまた書きます。

Posted by: 山口 浩 | July 06, 2005 01:02 AM

仰りたい事はよ~く理解いたしますが、投票は権利ですから「punishment」よりも「Benefit」が適切と思います。

世界の投票率が下記でご覧いただけます。http://www.idea.int/vt/
地図をクリックするか、右端の「choose a country」で見たい国を選ぶだけです。

ここからわかる事を一つ。
イギリスもアメリカも低投票率で日本と変わらない。つまり、経済的に成熟した国においては「生きる」ことが発展途上国に比べて切実でなく低投票率になる傾向があるといえるのではないでしょうか?
これでもし「徴兵制」が選挙の争点になったらどうでしょう。自分・恋人・家族の生死が争点になりますから投票率はもっと上がると思いませんか?低投票率とは深刻に自我に向き合わなくても生きてはいける、という豊なこの国の現状を反映しているだけのことと思います。

ネットサーフィンをしていると低投票率を嘆く人のテキストが散見されますが、都議選の争点ってなんですか?
ある、あるってしたり顔で皆さん仰ってますが、何でしょう?投票に行かないとどういうリスクがあって行くとどんなベネフィットがあるんですか?誰もここを具体的に述べない事に偽善と薄っぺらい正義感を感じてしまいます。

都政に争点なんてない、と思っていますよ。
都政では民主党と自民党は対立していませんしね。2大政党化の流れを止められないならどっちに入れても一緒でしょう。

私は棄権していませんが、歴然たる事実を一つ提示させて頂くと、都議選なんてのは来るべき国政選挙に対して有能な集票マシーンと成りえる議員を擁立・選挙するだけで、「都政」は争点にはなっていない、ということです。
東京のことを真剣に考えて立候補した人もいます。しかし、それと同じかそれ以上か、国政選挙のときにこいつが役立つかどうかが候補者擁立作業のポイントだった事は「じ・じ・つ」です。
これを否定する人はとってもおめでたいただの政治事情に無知なだけです。

上記事情を鑑みれば随分投票率は高いと思いますよ。

つまり為政者達(代議士・政党職員・後援会と名乗る利権集団)がそもそも「都議選」と謳っていながら「都政」ではなく「国政」選挙を視野に入れて選挙をしている。政治屋としての資質とか、資格とかそんなものは2の次、3の次、もしくは視野になし、です。
それでも都議選に行かなければいけないでしょうかね・・?

今回、無所属で立候補した人は一体何人でしょうか?
世田谷みたいに激戦で無党派も自民も民主も共産もネットもいる所では「全員選挙に行け、行かなきゃ罰金」だってのも心地よく耳に響きますが、大抵の地区は自民・民主・共産の闘いで、まあ出来レースです。
私の選挙区では「都政」なんてことを口にする若者よりも「国政の時に忠実なる集票マシーンになってくれる政治音痴」がいい、とメールのやり方も知らない人が擁立されました。団地とかにいるお年寄りの話を嫌がらずじっくり聞いて「僕は都議です。衆議院選挙では誰それに入れてくださいね」っていうどぶ板選挙を嫌がらずにやってくれるおっさんが、政治をかっこよく語る若者よりもいい、と理由で擁立・当選しました。
これが都議選の実情ですよ。
よくみんな選挙に行ったと誉めてあげたい気分です。低投票率なんて全然嘆く気になれません。「都政」だもん しょうがないよ、と思います。

嘆くべきは、政党人でなければ立候補も当選も出来ないこの現状であり、利権まみれの代議士を選出した選挙民の「無知」でしょう。

私達はもっと政治に関心を持ち、意見を言いましょう。人から薦められた候補者に投票するのではなく自分の目で候補者を見極める努力を怠らないことこそが肝要だと思います。

ちょっと話が飛びすぎましたね。
荒くてすみませんが、言いたい事を理解してくださる事を祈念します。

Posted by: こえだ | July 06, 2005 04:03 PM

こえださん、コメントありがとうございます。
いや評判悪いですね。やっぱりなぁ、とは思います。

>荒くてすみませんが、言いたい事を理解してくださる事を祈念します。

ちゃんと理解しているかどうか自信はありませんが、そう努めています。私は、憲法を変えて投票を義務にしてしまえと思っている人間なので、「投票しない権利」の必要性はよくわかりません。それに今回の話は税の話で、「投票しない権利」自体は守られていますしね。

で、都議選に争点がないという点について、いらだちを持たれているように感じました。私も同感です。ただ、そもそも選挙に争点が必要なのか、についてはちょっと考え方がちがいます。争点がなくとも選挙はやってくる、そのたびに議員たちは試される、そのこと自体に価値があるわけです。組織票しかない選挙だったら緊張感がないでしょう?浮動票がカギを握ってはじめて「民意」が問題になるのです。そうなってくると、自然に何かしら「争点」らしきものが浮かび上がってくるかもしれませんよ。それが面白いという保証はありませんが。

とりあえず私としては、選挙というしくみに絶望してしまうのはまだ早いな、もう少し工夫の余地があるかもな、と思っているわけです。

議論が少しでも盛り上がっていくといいですね。

Posted by: 山口 浩 | July 06, 2005 11:20 PM

大変真摯なお答え有難うございました。
ご指摘の通り、少々感情的になっておりました。色がついたひどい候補しかいなかったので選挙の存在そのものに悪態をつきたくなっていました。

最後に一点だけさらに愚見を失礼したいのですが、「争点がなくとも選挙はやってくる、そのたびに議員たちは試される」
これは正確には「その度に政党は試される」だと思います。議員個人は関係ないと思います。
一般市民の感覚から言えば議員と接触を持つ事なんて何かの運動でもしていない限りないでしょう。つまり議員個人の業績なんて評価のしようが無いのが実情ではないでしょうか?
議会での行動は基本的には政党政治ですから政党の支持に従うわけですし。

確かに現状は組織票の取り込み・切り崩しにのみに論点が置かれていて、市民の一票は蚊帳の外。民主も自民も市民の一票なんて石ころ以下にも見ていません。大切なのは団体・組織の同行のみ。

誰が悪いんでしょうかねえ。

私個人の意見としては、選挙に行かない人と組織の判断に盲従している人も同罪のような気がします。

横道にそらしてばかりですみません。
山口様の意見に不満があるわけではないことにお伝えしますし、別にいちゃもんを付けたかったわけでもありません。
大変失礼を致しました。

Posted by: こえだ | July 07, 2005 04:50 PM

こえださん、コメントありがとうございます。
政党に投票するのか個人に投票するのかに関するご意見、よくわかります。
制度としては個人に投票するかたちになってますけど、まあ現実には政党(所属してなくても事実上所属している人も多いですからね)ですよね、選ぶのは。
私が書いた「議員たちは試される」というのは、議員の立場から考えてみたものです。政党に属していようがいまいが議員一人一人が選挙民の信託を受けたわけですからね。議員は政党人である前に個人として責任を感じてほしい、と思っています。
どの選挙でも、だいたい選挙民の4割くらいは浮動票のようです。ということは、この人たちが考えて行動するようになれば、組織票を上回る力を持つはずです。こうなってほしいがために、彼らが自分自身の問題として投票を考えるようになってもらいたい、というのが本文の意図です。

Posted by: 山口 浩 | July 09, 2005 03:42 PM

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