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「Planned happenstance」とリアルオプション

「Planned happenstance」という理論がある。」「ぷらんど・はぷんすたんす」と読み、「計画された偶発性」という堅い訳語がついているらしい。知ってる人は知ってるだろうが、キャリアカウンセリングの分野で最近注目されている考え方だ。素人の定義など書いてもしかたないが、私自身は、偶然を「味方」にするキャリアデザインのアプローチ、といったとらえ方をしている。

最初にこのことばを聞いたのは数年前だったが、ああこれはリアルオプションだな、と思っていた。いいかえれば、リアルオプションという考え方は、ある意味で、「企業経営におけるplanned happenstanceアプローチ」とでもいえるのではないか、と。

といった話を人前でする機会があったので、そのときに話した内容を思い出しがてら、メモ的にちょっと記録しておく。

Planned happenstanceという考え方は、これまでのキャリアカウンセリングが自分のキャリアプランを「決める」ことにこだわってきたことへの、一種のアンチテーゼらしい。つまりキャリアプランを固めて「目標」とし、それに実現すべき時点を特定して「計画」とする。それをいかに「実現」するかが重要、ということなのだろう。この考え方では、計画が決まっていないことは悪だ。何をすればいいかわからないではないか。それでは状況に流されてしまうではないか。といった具合だろう。

Planned happenstanceのアプローチは、これをひっくり返す。「決めない」ことは「優柔不断」なのではなく、むしろ「柔軟性がある」と考えるのだ。現実の世界では、将来はきわめて不確実であり、最初に描いた将来のすがたとはかけ離れた状態が発生することは決してめずらしくない。そうした状況下であれば、先に計画を決めてそれに固執するような考え方は、ある意味でばくちだ。ポジションをあえて固定しないことによって、将来の不確実な事象に柔軟に対処し、チャンスをつかまえていく。そのほうがいい結果が期待できる、と考えるわけだ。

それは「優柔不断」とどこがちがうのかというと、「happenstance」つまり偶然を呼び込むために今努力する、という行動を伴うところがちがう。つまり、happenstanceは運を天に任せてその訪れを待つものではなく、むしろふだんからあちこちにタネをまいておいて、あらわれたらきちんとつかまえられるように自分の能力を磨いておく、そうした積み重ねが必要なのだ。これ以上素人講義を続けるつもりもないのでこのへんにするが、まあそんなことだろうと理解している。

こうした考え方は、リアルオプション理論のインプリケーションとかなりの部分重なり合う。リアルオプションは、将来の不確実性を前提として、「経営上の柔軟性」の価値を測定するためのツールだ。「柔軟性」とは意思決定事後変更の幅を指す。状況に適切に対応することによって、不確実性の下でリスクを避け、チャンスを獲得する。その姿はあたかもオプションを保有する投資家のようにみえるので、それをオプション理論で評価できる、というわけだ。

リアルオプション理論は、したがって、「意思決定を延期する理論」と称されることが少なくない。あらゆるオプションはある意味で「意思決定を事後に変更する権利」だからその意味でむろん適切な回答ではあるのだが、経営の現場ではとても説得力に欠ける。「待てばいいっていったって、待って投資なんてできるわけないじゃないか」ということになる。まあ実際にそうだろう。「延期する理論」という説明のどこが悪いのだろうか。

ポイントは、ただ「待つ」だけでは単に運を天に任せているにすぎないということだ。偶然に左右されるにせよ、偶然のチャンスをとらえるためには、それなりの「能力」が必要だ。能力を備えるための準備は、待つことができないし、待つべきではない。さらに、偶然といっても、実際には自分の行為が偶然を呼び込んでいる場合が少なくない。たとえは悪いが、宝くじにあたるという偶然は、宝くじを買わなければ得ることができない。偶然のチャンスを獲得するための努力は、ふだんから行っておかなければならない。

たとえば研究開発投資の価値を高めるためには各フェーズでの成功確率を高めなければならないが、それは当該研究者、研究部門の能力に直結している。また将来有望な成長市場のパイをとりたいと思えば、早い段階から参入してノウハウを蓄積したりブランドを築いたりしておいたほうがいい場合は多いだろう。「延期できる」立場を手に入れるために、急がなければならないことがあるのだ。

リスクを保有することに積極的な価値を見出せる場合があることも、重要なポイントだと思う。企業のリスクマネジメントは重要な課題だが、それはリスクを減らすことが唯一の目的ではない。企業の目的はその価値を最大化することにあり、リスクのコントロールはそのための手段だからだ。必要であれば、企業はリスクを保有し、活用していく必要がある。リスクを減らしたつもりが、実際にはリスクを呼び込んでしまうこともある。プラザ合意の直前に10年間の為替予約を行った某社の例をひくまでもなく、環境が変化していく中で保険やデリバティブなどのリスクヘッジ手段を使ってポジションを固定することは、ある意味でそれ自体スペキュレーションだ。

かつて本田宗一郎は、「果報は練って待て」と語ったという。待つためにはまず練らなければならないのだ。偶然はコントロールできないが、偶然に出くわす確率や、出くわしたときにつかまえる能力を高めることはできる。種をしこみ、常に備えることで、不確実性は「味方」になる。その意味でリアルオプション理論は、「企業経営におけるplanned happenstanceアプローチ」と呼ぶことができるのではないか、と思う。

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