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July 28, 2005

ポイントプログラムってマイクロペイメントになるかも

「マイクロペイメント」というものがある。文字通り少額決済手段のことだ。「Millicent」や「CyberCoin」のようなネットワーク型、「BitCash」や「WebMoney」などプリペイド型のものなどがある。今はどちらかというと、プリペイメント型のほうが普及しているようだ。

けっこう便利だろうと思うのだが、なかなか本格普及とはいかないようだ。なぜだろう、とちょっと考えてみた。


普及を妨げている主な要因は、おそらく「メンドクサイ」「利用範囲が狭い」といったところだろう。何しろ少額決済手段としては、ほぼ完全な流通性をもち、きわめて簡単に使用できる「現金」という手段がある。これと比べれば、どんな簡単な手続きでも、新たな決済手段を獲得するためにわざわざ何かするのはけっこう面倒だ。それに現在あるマイクロペイメント手段は、どこででも使えるといった類のものではない。ここではOKだが他ではだめというのでは、現金の代わりにはなりにくい。要するに現金には勝てないのだ。

まっとうなアプローチで考えるなら、これらの問題を正面から解決するやり方を模索することになろう。より簡単な手続きということであれば、すでに多くの人が利用している携帯電話の料金決済ルートを使った決済方法がある。例の「おサイフケータイ」というやつだ。利用範囲も今は狭いが、今後広がっていきそうにみえる。韓国なんかでもけっこうさかんらしい。携帯電話の機能が複雑になってわかりにくくなる、携帯電話にリスクが集中するという問題はあるがそれら以外特段デメリットもなさそうだし、少なくとも携帯電話を使いこなせる層の人々の間では、今後普及してくるのではないか。

ここでは、もうひとつのアプローチを考えてみる。使い勝手において現金と競うのは必ずしも得策ではない。現金とはちがったメリットを提供できるやり方はないだろうか。

というわけで今注目しているのが、ポイントプログラムの類だ。航空会社に限らず、いまや銀行やホテルだって「マイレージ」を出している。携帯電話でも似たしくみがあるし、一般的なMMORPG内の通貨だって、利用状況に応じた一種のポイントプログラムといっていい。昔はポイントカードに利用ごとのスタンプを押してというしくみのものも多かった(もちろん今でもある)が、今は顧客IDにひも付けされたデータとして持たれているものも多いだろう。こうしたポイントを、少額決済の通貨のように利用できないだろうか、考えてみたわけだ。

こうしたものは現金とは明らかに異なる。ポイントは、ある企業での購買活動やその他の活動に付随して顧客に与えられるものであり、顧客の立場からすれば「タダでもらったもの」であるだけでなく、その管理も当該企業との一連の取引関係の中で行われているものだ。だから現金に比べて利用に制限があったりめんどくさかったりすることは、必ずしもデメリットとしては認識されない。意識の上で「ある分だけもうけもん、使わにゃ損」だからだ。

もちろん、自社製品の購入に使えればそれだけでも充分だが、ここは少し欲張ってみたい。つまり、この種のポイントプログラムについて、企業間でその価値についての合意を形成することができれば、ポイントプログラムは「電子マネー」の仲間入りをすることができる。実際、ポイントプログラムは通貨によく似たところがある。たとえばポイントの発行に際して、発行企業は明示的なコストを負担していない。それはポイントを商品に換える際の「値引き」として把握されるしくみだ。しかし受け取る側からすれば、ポイントの価値は発行された瞬間に発生する。これは貨幣になぞらえれば「通貨発行益(seigniorege)」にあたる。ポイントのすべてがいつも商品に交換されているわけではないから、たいていの場合、発行「残高」はある。つまりその分だけ「信用」が生み出されることになる。

最終的に商品に交換される局面は、貨幣になぞらえれば兌換性の問題だ。この時点で企業はコストを「値引き」というかたちで負担することになる。しかし値引きはもともと商慣習としてよくあるものだし、通常のポイントプログラムなら、売上に占める割合もそれほど高いものにはならない。

しかし、もし企業間でポイントの交換が可能ということになれば、企業間での決済が発生することになろう。企業間でポイント発行状況に差がある場合、これは企業にとって(少なくとも短期的には)それなりのコスト負担となりうる。まあもちろんすべてが一度に起きるわけではないし、一方でこのようなしくみが売り上げに貢献することもありうるから、必ずしもデメリットばかりではないとは思うが。

このような「通貨としてのポイントプログラム」は、一般の通貨というよりも、機能としては地域通貨のそれに近い。そのココロは発行の管理が複数いる各発行者に任されている、つまり「中央銀行」がなく「マネーサプライ」のコントロールがなされないということだ。したがって、あらゆる地域通貨と同様、しくみを存続させるために重要なことは、「通貨の規律」を守ること、つまり各発行企業がその発行ポリシーについてきちんと合意し、それを守っていくことだろう。「悪貨は良貨を駆逐する」からだ。ここで、ポイント間の交換比率(つまり「為替レート」だ)を固定にするかそれとも「市場」を作ってそこで変動させていくかは制度設計上の大きなポイントになる。ポイントの「仮想経済」にブレトンウッズ体制が成り立つか?という問題なわけだ。MMORPGの通貨では後者のアプローチがとられていることについては、ご存知の方も多いだろう。

こうしたポイントの「仮想経済」は、一部で提唱されている「信頼通貨」みたいなものとも比較的容易に結びつきうる。アフィリエイトなんかは、ある意味でポイントプログラム的でありまた信頼通貨的でもある。要するに「activity-based」の通貨というわけだ。マルクス主義の残党の皆さんなんかが喜びそうな図ではあるが、イデオロギーと関係なく、こうした新しい可能性に考えをめぐらせるのはけっこう楽しい。

マイクロペイメントができて何が楽しいの?という点に関しては、「マイクロコンテンツ」みたいなことを考えたりしているのだが、長くなるので稿を改めることにする。

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Comments

以前から関心のある内容だったのですが、「マイクロペイメント」の一つの販売経験からいうと、普及阻害の最大の原因はマイクロペイメントのコストが高いことだと思います。 
つまり、貨幣も流通していますがアマウントが大きいゆえに日銀でのシステム維持・管理費用がペイできますが、マイクロペイントだと小額が故にコストが出ないわけです。
マイクロペインメントで最大の成功を収めているのはi-mode課金かもしれません。この成功の要因は、i-modeというベースがあったことや外部の参入障壁の高さもありますが、一番大きかったのは、回収が電話代と一緒に行っていたことだと思います。
しかし流通してほしいなぁ。

Posted by: ヌウ | August 01, 2005 01:22 PM

ヌウさん、コメントありがとうございます。
なるほど、確かに維持管理費用は問題ですね。規模が解決する問題なのでしょうか。ならばなおさら、統合化へ向かうことになるのかもしれませんね。

Posted by: 山口 浩 | August 02, 2005 10:08 AM

先生ご指摘のマイクロペイメントにおけるポイントプログラムとのアライアンスに関しまして、BeePOINTなるポイント決済サービスを見つけました。(http://www.beepoint.net/index.html)
このHPを見る限り、郵便貯金口座をベースとした・・・
■現金→ポイント(チャージ)
■ポイント送金(決済)
■ポイント→現金(キャッシング)
・・・が実現しています。
このサービスについて先生のご意見を拝聴致したく。
私は、このサービスは大手企業の聖域だった決済領域にベンチャーが挑戦している内容だと感じますが如何でしょうか?

Posted by: Koru | December 11, 2006 02:20 PM

Koruさん、情報&コメントありがとうございます。
面白い事例ですね。ぱっとみた印象では、「決済」というより、いろいろな企業がやってるポイントプログラムをアウトソーシングするしくみという感じですがいかがでしょう。この会社の場合は、発行したポイントが明確な負債として認識されるはずなので、それに沿って会計処理と納税をしているのでしょう。法的にどうなのかは専門家でないのでよくわかりませんが、当面これがいかんという明確な点も見えませんね。ただ、大企業ができないビジネスモデルということでもないので、もし今後この領域が伸びていくのであれば、大手の進出は必須と思われます。いずれにせよ、ちょっと勉強してみます。

Posted by: 山口 浩 | December 11, 2006 04:12 PM

BeePOINTに簡単なヒアリングをしたところ、本件は〝ポイントマネー〟という性格で、出資法と郵便振替法に準拠し郵便貯金口座と連動している模様です。現在の窓口は郵便貯金口座だけですが、近々に銀行やコンビニでもチャージ可能(現金化は郵便貯金口座のみ)になるとの事です。発案から4年がかりで現在の形となり、本年9月末からサービスイン出来たとの事です。現在の電子マネーがプリペイの延長で、edyやsuicaなどは未使用分を諦めるしかなかったものが、BeePOINTでは未使用分を現金として戻す事も可能です。これによりチャージのし過ぎも気にする必要は無くなり、今後のECにおけるマイクロペイメント、特に1円以上100円未満といった超小額決済に非常に有効では?と感じます。新聞記事の切り売りなど言われていますが、こういった超小額決済の日本マーケット規模が分かりませんので何とも言えませんが・・・。

Posted by: koru | December 14, 2006 12:30 PM

koruさん
情報ありがとうございます。いろいろ考えて作っているわけですね。私も調べてみたいと思います。小額決済の需要は私もよくわかりませんが、今までなかったために需要がなかったという要素もあるのではないかと思います。その意味では、これからの動向が楽しみ、というわけで。

Posted by: 山口 浩 | December 15, 2006 06:00 PM

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CNET Japan より記事を2点ばかり。 サイバードが複数のポイントカードを「おサイフケータイ」に集約するサービス開始 サイバードは 5 月 18 日、複数のポイントカードや会員証のポイントを一括管理するサービス「Mobile Wallet(仮称)」を発表した。 (中略) サービスは 6 月 6 日より順次利用可能となっており、現在の登録加盟店は「Edy」加盟店の「コロワイド東日本」「セガミメディクス」「たいらや」「ワイズマート」など約 2000 店舗。 インデックス、ポイント交換事業に参入--... [Read More]

Tracked on August 01, 2005 03:07 PM

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