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July 24, 2005

雑誌目次をみる:「塾」

一部に好評の「雑誌目次をみる」シリーズ。今回は「塾」。

学習塾の雑誌、ではない。知ってる人は知っているだろうが、慶応義塾の広報誌(というのかどうか知らんが)だ。いうまでもなく、各界に優秀な人材を送り出し続ける、日本私学の雄だ。私はまったくの部外者で事情にうといのだが、誌名にもみるとおり、どうも「塾」であるということに強烈な自負をもっているらしいのだ、ここは。まちがっても「学生」なんて呼ばない。あくまで「塾生」なのだ。

表紙の「塾」という字も当然のように福澤諭吉。おっと呼び捨てはまかりならん。「福澤諭吉先生」と書かねば。創始者であるこの偉人の名は、今でも塾生生活のすみずみにまで行き渡っているかのようだ。いや実際、この、裏表紙や折込まで入れても42ページしかない冊子の中に、「福澤諭吉先生」の名は計34回も登場する。平均して1ページに1回弱の割合だ。もちろん一般の日本人にもよく知られているし、今や1万円札の顔として国民生活に浸透しているのだが、「塾」内におけるプレゼンスはその比ではないようだ。

2005年夏、第247号の目次はこちら。

別冊折込:平成十七年度入学式記録 大学入学式式辞
大学の入学式における安西祐一郎塾長の式辞がついている。「とりわけ慶応義塾は、あと3年で、近代総合学塾としては日本でほかに例を見ない、創立150年を迎えます。近代化の過程で生まれた日本の総合学塾で、まもなく創立150年を祝う、そういう学塾はほかにはありません」のだそうだ。ふうんなるほど。いやわかるんだが、日本にはほかに「学塾」とよぶべき組織が他にあるのだろうか。そもそも「学塾」の定義って何だ?学校とは何がどうちがうのだろうか。入学式に出席した新「塾生」諸君には自明のことなんだろうが。

演説館:「みんなが……」には要注意
書いているのは社会学研究科委員長の三井宏隆氏だ。要は自己と他者のちがいを自覚することが共生の第一歩というきわめてまっとうなお話だが、「…」でなく「……」であるところに注目してみる。沈黙の時間が長いのだろうか。何か深い意味があるの、かな?

塾長再選・新常任理事紹介
安西塾長が再選、とのこと。履歴をみると、「義塾大学工学部卒業」とある。「慶応義塾大学」でも「大学」でもない。「義塾大学」だ。ここらへんがこだわりどころなのだろう。新任理事8人も紹介されているが、塾長も含め、1人残らず「義塾大学」で学部と大学院を修めている。理事になりたきゃまず「塾生」になれ、ということか。

特集:基本が大切 ライフスタイルを考える
心身の健康に気をつけようという特集だが、「ますます多彩になるキャンパスの食環境」では、各キャンパスのレストランのおすすめメニューを紹介している。三田キャンパスの「山食」の定番カレーもさることながら、やはり出色はSFCのファカルティラウンジに出店したイタリアン「タブリエ」。SFCでは環境情報学部の村井純教授が発起人となった「SFC食生活環境改善プロジェクト」なるものがあるそうだ。「日本のインターネットの父」(なんだか違う評価も聞いたが忘れた)、こんなところにも。

義塾財政の状況
見出しに「健全とは言い難い義塾財政」とある。なになに。「何よりも憂慮すべきは消費収支差額が大幅な支出超過(約81億円)となっていることである」とある。「消費収支差額」というのは「消費収入」(当年度帰属収入から基本金組入額を控除したもの)と「消費支出」(経常的な経費)の差額だが、営利法人とは会計制度がちがうので簡単には比較できないが、この記事を書いている経済学部の清水雅彦教授は「華々しい記念事業計画に現を抜かしている状況ではない」とずいぶん厳しい論調だ。学内で意見の対立とかあるんだろうか?そもそも「華々しい記念事業計画」って何だ?2004年度には三田キャンパス南館が竣工したらしいが、2005年度事業計画の主要なものとして、こんなあたりが列記されている。
・大学(日吉)下田地区新施設(仮称)新築工事
・信濃町地区PETセンター(仮称)建設
・大学日吉キャンパス食堂棟(学生用)改修工事
・医療用画像情報システム(PACS)導入
・SFCにおけるインキュベーション施設整備
・新法人経営システム開発(全塾)
・キャンパス間基幹ネットワーク整備(全塾)
・SFC交通アクセス改善(連節バス導入)
・創立150年記念事業準備事業の展開

なんだかいっぱいある。さまざまなプロジェクトとは別に「記念事業」があるわけだ。これじゃ「現を抜かして」といわれてもしかたない、のかも。

平成16年度塾長賞・塾長奨励賞
6件13名が受賞。団体は将棋研究会7名。「第19回全国オール学生将棋選手権団体戦」で全勝し全国初制覇!だそうな。政策・メディア研究科修士課程1年の伊藤ひとみ君(この「君」づけがいかにもだな)は「高等生物のゲノムだけが持つ重要なシグナル配列を発見」したのだと。…ゲノム?「政策・メディア」でゲノム?いったいどんな大学院なんだろうか?

塾員山脈:金沢21世紀美術館長 蓑 豊君
卒業生のインタビュー。この人は慶応義塾大学大学院文学研究科美学美術史学専攻に開設された「アート・マネジメン分野」特別招聘講師でもある、とのこと。ああそれで選ばれたわけね。銀座の古美術商の家とはいかにも慶応っぽい出自だ。金沢21世紀美術館は2004年4月に開館したらしい。現代美術専門の美術館だそうだが、1年間で70万人の来館者を集めたとか。いやなかなかなもの。ただこの種の施設は2年目以降が正念場。今年は「勝負の年」、だなきっと。

FRONTIER:SFCのインキュベーション活動について
インキュベーション施設建設の話と活動の話。書いているのは環境情報学部の国領二郎教授。SFCの中に「SIVアントレプレナー・ラボラトリー」というのがあるらしい。

塾内ニュース
インフォメーションボード
半学半教

「半学半教」では4人の教授の研究内容が説明されているが、やはりこの中でも3人が慶応義塾大学の卒業だ。出身者を採用するのは他の大学にもよくあることだが、ここまで「純血」なところはめずらしいのではないか。もちろんそれぞれ立派な方なんだろうけど。

ステンドグラス:福澤諭吉と「食」

食の近代化への貢献、について書いている。肉食や乳製品、パン食、ビール、カフェオレ、カレーなどさまざま。とにかく「福澤先生」オンパレード。新聞「時事新報」に料理記事を載せ、牡蠣フライやサラダなんかも紹介したとか。

サークルNOW
一貫教育校の広場
MEDICAL OFFICE
BOOK WINDOWS
萬来舎

「慶応義塾この一冊」は柴田利雄「福澤諭吉のレガシー(贈りもの)」。出版社は丸善だが、Amazonには出ていない。自費出版なのだろうか?

全体を見て思うのだが、「福澤翁に見張られている感」というか「見守られている感」が強烈だ。それと、「福澤語録をひもとけばあらゆる問いへの答えがある」的な感じも。それらはこの一冊だけでもひしひしと伝わってくる。こういうのって何かに似ているとしばらく考えたのだが、どうも宗教系の大学に近い感じがするような気が。「福澤教」、とでもいえばいいのだろうか。いや別にそれが悪いといっているわけではないので念のため。実際、この大学で学んだ人たちが日本の重要な部分を担ってきたわけだし、上記の「遍在」感や「万能」感も、そうした実績に裏打ちされているのかもしれない。

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