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August 03, 2005

株価がしばらく上がり続けると上昇トレンド、という話

最近さるところで、株式評論家の講演を聞く機会があった。私は知らなかったが、高名な方らしい。なんでも国内大手証券から外資系証券に移り、大活躍の後に独立されたのだとか。この種の職業の人のまとまった話を聞いたのは初めてだったので、たいへん新鮮に聞くことができた。

講演自体は最近の株式相場動向についてというよりは、あるセクターが今後狙い目とかそういった話だった。どのセクターかについてはここでの本題から外れるしあえて書かない。「当り屋につけ、曲がり屋に向かえ」という相場格言の話が出てきたが、要は自分で予測するな、もうかっている人のまねをしろ、ということか。どこかで読んだ、新任の学校の先生が「私の目標は全員を平均以上にすることだ」と言ったとかいう話を思い出したりした。それができりゃみーんな大もうけだ。それに、相場格言通りなら、その評論家ではなく「もうかっている人」の話を聞くほうがいいね、などとも考えたが、そういうのは無粋なつっこみだな。

で、この方、1982年以降の日経平均の推移グラフを配って、今株価は12,000円あたりが壁になっているが今年後半にかけてそれを超えて上昇トレンドに入るかもしれないとかいう話をしたのだが、グラフをみていると、1989年12月の38,915.87円から右下がりの直線が書き添えてある。チャートをやる方はご存知の上値抵抗線というやつだ。で、この線からみると、現在の水準は抵抗線ほぼ接するようなあたりにいる。(以下、チャートとか日経平均の動きとかをある程度わかっていないと理解しにくいかもしれない。グラフをつければわかりやすいんだろうけど。)

グラフでは、上値抵抗線が2005年以降のところにも伸ばされていて、今後も下落傾向にあるかのようにもみえた(ことわっておくが、私はチャートについてほとんど何も知らない)ので、言っていることと合わないと思って質問してみた。

「ここに右下がりの直線が書き添えてありますが、今後も下落傾向にあるということですか?」
「いやこれを抜けてくれば株価が上昇するんです」
「株価がこの線を抜けてくるということですか?」
「抜けてくれば株価は上昇するということです」
「抜けるんですか?」
「可能性があるということです」
「抜ければいいんですか?」
「いやちょっと抜けただけではだめで、しばらく上昇が続いてこの線を相当程度抜けてこないと上昇トレンドには入りません」

あのー。

私の理解では、「上昇トレンド」とは、「上昇する傾向がある程度続くこと」をいう。株価が上値抵抗線を完全に超えてしばらく上昇を続けたとしたら、by definitionでそれが上昇トレンドだ。つまりこの評論家センセイのおっしゃることは、「株価がしばらく上がり続けると上昇トレンド」ということになる。それって、「株価が100円から200円になることを『株価が上がる』という」というのと同じ、定義なんじゃないの?これってチャートの世界だと通る理屈なのか?

興が乗ったので、少しレトロスペクティブになってみる。1989年12月に38,915.87円で最高値を記録した日経平均は、1992年8月には14,309.41円で底値を打った後1994年6月に21,552.81円まで上げ、そこでまた反転して下落を始める。よって、1995年ごろの時点で上値抵抗線を書いたら、1989年12月と1994年6月を結んだものになるだろう。1995年7月に14,485.41円で底値を打った株価は再び上昇を始めるわけだが、1995年暮れごろまでに、上記の上値抵抗線を完全に破ったはずだ。つまり上記の「理論」に従えば、「上昇トレンドに入った」わけだ。しかしこの理屈ではその後どこまで上昇するのかは何も説明されない。株価はその後1996年6月の22,666.80円をピークに再び下落に転じた。ここまでを「上昇トレンド」と呼ぶのだろう。同じことは1999年にも生じた。1998年10月に12,879.97円で底を打った後上昇に転じた株価は、1999年前半ごろまでには、1989年12月と1996年6月を結んだ上値抵抗線を超えて大きく上昇した。このときの「上昇トレンド」は、2000年4月まで続いている。

もちろん説明として矛盾してはいないのだが、どうも言いくるめられた感じが消えない。要は「株価が上がっている期間を上昇トレンドという」ということではないか。これって何かを説明したことになるんだろうか?これも分析っていうより定義だよねぇ。せめてトレンドの転換点を見極める役にでも立てばいいのだろうが、評論家センセイの話はそこらへんを巧妙に避けてるし、はっきりいってわからないのだと思う。実際、私が今回上値抵抗線を超えるのかどうか聞いても「可能性がある」としか答えなかった。可能性がある!当たり前だ。株価には上がる確率と下がる確率と変わらない確率しかないのだ。そんな答えならこのサイトの左サイドバーに居候しているVirtual Economistの「サカキバラ」だってできる(たぶん)。

私はチャートの類にはまったくの素人なので、解釈をまちがっているのかもしれない。知らないことがあるのかもしれない。この分野にも専門家の方々がたくさんいるのは承知しているから、きちんとした理屈はあるんだろう、きっと。ご存知の方、ぜひご教示いただきたい。しかしもし私の理解がまちがってないととすると、株式評論家という商売、けっこうおいしいぞ。さてどっちなんだろうか。

※このサイトの左下にある「Disclaimer」を併せてお読みいただければ。

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Comments

僕は株やってますが、山口さんのおっしゃってる疑問は正しいものだと思いますよ。僕から見れば、チャートの御託は後付の説明です。
チャートを信奉する人にとっては、そうでもないみたいですけど。

Posted by: ひろ | August 04, 2005 01:09 AM

ひろさん、コメントありがとうございます。
なるほど、株やってる人でもいろいろご意見があるわけですね。まあ後から説明をつけるのは株に限ったことではないですけどね。私としては、評論家氏のあまりといえばあまりな回答に絶句して「私は何かとんでもないかんちがいを犯しているのではないか」と心配だったので、安心しました。

Posted by: 山口 浩 | August 04, 2005 02:05 AM

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