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September 02, 2005

ネット利用に関し公職選挙法を改正すべきであるという主張

選挙におけるブログおよびその他のインターネットの活用を阻んでいる公職選挙法を改正すべきではないかという議論が、ブログ界隈で広がってきている。「週刊!木村剛」には、公職選挙法第143条を引き合いに出した「ちょうちんは良くて、ブログはダメなのか?」という記事が出ているが、確かにブログを書いている身として、せめてちょうちんぐらいには扱ってもらいたいと思うのは人情だ。

chochin私も、公職選挙法を改正すべきであるとの論陣に参加したいと思う。ここでのシンボルは、やはりちょうちんだろう。というわけで、お恥ずかしい限りだが、画像を作ってみた。といっても、Yahoo!に登録されたフリー画像を利用して、文字を入れ替えただけのものだ。商業利用でなければ再利用OKらしい。プロの方がもっとちゃんとした画像を作っていただければそちらに乗りかえたいのだが、それまでの場つなぎとして。


公職選挙法は選挙運動に関して詳細な規定をおいている。まさに微に入り細に入りで、これまでよほどいたちごっこが続いてきたのだろう。そのとばっちりがインターネットにも及んでいる。明記されているわけではないのだが、幅広い禁止規定にひっかかるおそれがあるとして事実上制限されている。

素人が条文の細部を語ってもしかたがないので、基本的な論点についてだけ、考えてみる。

現在ブログ界隈で起きている議論は、次の2つに分けられると思う。

(1)候補者がブログをはじめとするインターネットをその選挙運動に利用することを許容すべきだ
(2)候補者や運動員でない一般人が、ブログをはじめとするインターネットにおいて、選挙期間中に政治的見解を表明したり議論したりすることを許容すべきだ

当然ながら、この2つは実際にはけっこう近いところにある。候補者本人や運動員が一般人として事実上の選挙運動を政治的見解の表明などのかたちで行うことがありうるからだ。しかしそれでも、この2つは一応分けて考えるべきだろう。一般ブロガーとしては、最低限(2)が実現すればいいわけだ。

具体的にどうするか。法律の専門家のご意見がどうだかは知らないが、私としては、公職選挙法第148条(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)の中に、個人のブログにおける表現活動を含めるのがいいのではないか、と思う。 ビラが35,000枚以内とかそういった制限規定の中にブログを位置づけようとすると、どんな表現形態なら許容できるかとか1日のアクセス数を制限すべきだとか、くだらない制限が加えられそうな気がするからだ。

自民党の世耕広報対策本部長代理は「(ブログは)メディアとして、無視できない存在になっていると私たちは実感している」と語ったそうだが、もしそうなら、マスメディアと同等に148条の対象にするよう要求すべきだろう。148条は、この恩恵を受けられる主体を事実上既存の新聞社、雑誌社等に限っているが、ここを緩和してもらえばいい。専門的見地からの反論はいくらでも考えることができるだろうが、ここはバランスの問題として、メリットのほうがデメリットより大きいと主張したい。

メディアとして考えるのには、実はもう1つ理由がある。メディアの一類型として位置づけようとするものであれば、メディアが負うべき社会的責務の一部をも負う必要があると思うからだ。少なくとも、明らかな虚偽で人をあざむこうとする言論や、単なる罵詈雑言は、こうした保護の対象とすべきではない。選挙という重大な局面における言論であることをふまえれば、マスメディアと同等とまではいかなくとも、表現者は選挙以外の場合よりも少しは重い責任を負ってもいいのではないか、という気がする。

148条第3項では、制限を免れるメディアの条件を規定している。

一  次の条件を具備する新聞紙又は雑誌
イ 新聞紙にあつては毎月三回以上、雑誌にあつては毎月一回以上、号を逐つて定期に有償頒布するものであること。
ロ 第三種郵便物の承認のあるものであること。
ハ 当該選挙の選挙期日の公示又は告示の日前一年(時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙にあつては、六月)以来、イ及びロに該当し、引き続き発行するものであること。
二  前号に該当する新聞紙又は雑誌を発行する者が発行する新聞紙又は雑誌で同号イ及びロの条件を具備するもの

ブログもこれに類似した条件で決めてはどうか。たとえば:
・毎月1回以上更新しており、告示より1年以上前から開始していること
・固定した管理人がおり、内容を管理していること
・犯罪などに関し捜査機関に情報を提供する等の条件に同意したプロバイダのサービスに基づくこと
こういう条件を満たしたブログ、メールマガジン、掲示板などについては、これを「新聞紙又は雑誌」とみなす、みたいな。

虚偽や罵詈雑言をすべて排除するのは難しいかもしれない。そこから先は、リテラシーの問題ではないかと思う。国民の情報リテラシー向上は別途策を講じていくべきだが、それが不充分な状態にあることを理由に、表現の自由を制限するのは本末転倒ではないか、というのがここでの主張だ。

もちろん、望ましいことばかりが生じるというわけではない。虚偽や罵詈雑言を除いたとしても、おそらく候補者陣営による選挙運動や一般市民の政治的見解の表明を目的とした電子メールやブログのコメント、トラックバックなどが激増するだろうからだ。こうした選挙関連のスパム類似行為をどう考えるかは、ひとつのポイントとなろう。民主主義や表現の自由の代償として甘んじて受け入れるか、あるいはなんらかの基準を設けて規制を継続するか。私たちのこうむる迷惑や、不適切な言論が世に氾濫することによって適切な選択が行われなくなるリスクと、自由な意見の表明の機会が保証されるメリットのどちらをとるか。考えどころだ。特にブログをメディアとする考え方からすると、スパム類似のコメントやトラックバックを、送信者の意図に反して削除していいのかという問題は、けっこうシビアな論点となるように思う。

上記は、素人である私がわずかの時間で考えた思いつきにすぎない。実際には、もっといろいろな配慮、さまざまな議論が行われるべきだろう。細かいところにこだわるよりも、おおまかなところで合意できるラインをさぐっていく柔軟なアプローチが必要だと思う。とにかく、現行の規定が実態にそぐわないばかげたものであることは確かだ。この点に関しては、もっと強く主張していくべきだと思う。

選挙用標準提灯[ちょうちん] 和紙 手書き付まったく余談だが、選挙で使うちょうちんというのはちゃんと専用のものがあって(左写真参照)、けっこう高いがなかなか立派なものだ。写真のものは直径41cm×高さ72cm、和紙製で18,900円。ご所望の方はぜひ。

※2005/9/9追記
「週刊!木村剛」の記事「IT選挙推進協議会で公職選挙法を改正しよう!」にとりあえず賛同の意を表明したい。こういうときは大同団結が必要だ。最大公約数をさぐる努力と、突破のために力を結集する努力が重要と考える。できることがあればご協力したい。という意味をこめてトラックバック。

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Comments

やまぐちさん、おはようございます、

およばずながら、自分のブログにリンクを晴らせていただきました。ご確認いただければ幸いです。

Posted by: ひでき | September 02, 2005 09:39 AM

ひできさん、ありがとうございます。

Posted by: 山口 浩 | September 02, 2005 02:57 PM

はじめまして。146条に関する記事をTBさせていただきました。私見では、木村さんのように、わざわざ148条をもちこまなくとも済むと考えています。もちろん、現行法は改正されなくてはならないと思いますが、ひとまず現行法でもネット選挙運動は可能だとの解釈を記事にしました。よろしければ、ご覧下さい。

Posted by: sleepless_night | September 09, 2005 07:32 PM

sleepless_nightさん、コメントありがとうございます。
ご紹介いただいた記事はすでに読んでおりました。たいへん参考になりました。私としては、最終的に「ネットでの選挙運動ができるようになる」ことが実現できれば、そこに至る手段にはこだわりません。ただ「解釈」というのは、判例で定着しない限り、たとえ官庁であっても確たることはいえないのが実情だと思います。裁判をしようとすれば誰かが「犠牲」にならなければならないし、時間もかかるし、確定まで不確実な状態が続きます。だったら法律で、疑問の余地がない程度に明確な規定を作ってもらうよう運動するほうが早いのではないか、というのが私の考えです。少なくとも今のところ、議員諸氏の賛同を得る可能性はありそうに見えますし。
いずれにせよ、形式にこだわるつもりはありません。ともあれいい状態になればいいですね。

Posted by: 山口 浩 | September 09, 2005 10:41 PM

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