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September 27, 2005

「legacy」か「main stream」か

FPNで「米国の参加型ジャーナリズム=ダン・ギルモア氏を囲んで」なるイベントがあった。ギルモア氏は94年から2004年末まで、シリコンバレーのサンノゼ・マーキュリー・ニュースのコラムニストを務めた人で、「その世界」では有名な人らしい。数々のジャーナリズム賞を受賞。 05年にベンチャー「グラスルーツ・メディア・インク」を設立、サンフランシスコ・ベイエリアを舞台としたオンライン・コミュニティー「ベイオスフィア」を開設したそうだ。以上、FPNサイトにあった同氏プロフィールの受け売り。

最近、著書「ブログ:世界を変える個人メディア」の翻訳が出版されたとかで、日本のブロガーと意見交換したいと来日された由。「時事通信の湯川氏が司会(と通訳、だな)となって形式で、米国の事情の解説や、来場者との質疑応答などが行われた。

内容については、他の方がご紹介されるであろうから、私は気軽に感想など。

質疑応答が大半を占めたため、まとまった話ではなかったというせいもあるし、私を含め質問する側の質の問題もあったのかもしれないが、内容は、あまり「驚き」や「発見」に満ちている、という感じではなかった(いい質問ができなかったという点については、参加者の1人として、ギルモア氏に申し訳なく思う)。参加型ジャーナリズムとマスメディアとの関係のあり方やマスメディアの将来、ネットでの議論のあり方など、ブログまわりの議論にふれていれば、だいたいどこかで出会ったことのあるようなコメントが多かったように思う。

では有益ではなかったのか。とんでもない。とても有益だった。

なぜか。

まず、「日本にいる私たちは、アメリカに比べて、それほど遅れてもいないし、ずれてもいない」ということがわかった。ギルモア氏が運営している「Bayosphere」では、有効なメールアドレスを登録しないとコメントできず、基本的に実名主義なのだそうだが、それって日本でもいくつかのサイトで見られる方式だ。聞けばアメリカのブログもよく「炎上」するのだそうで、建設的な議論をするためにこのようにしたらしい。つまり、いろいろちがいや遅れているところもあるのだろうが、おおまかには日本の状況は、アメリカとそれほど変わらないということではないか。

思えば、パソコン通信、2ちゃんねるなど、私たちにもネットでどうコミュニケーションするかについての「長い経験」がある。ネットの中で起きるべきできごとの大半を、私たちはすでに経験しているということなのだろう。

もうひとつ、議論の中で気づいたのは、ギルモア氏のメディアに対する「自然体の」態度だ。メディアとしてのブログを過大評価せず、マスメディアを特別視しない考え方、ということになろうか。日本のジャーナリズムは、どうも自分たちの仕事をいたずらに聖域化したがる傾向にあり、ブログのような新しいメディアに対してやや過剰反応しすぎなのではないか。

また一方で、ジャーナリストの中には、既存マスメディアへの失望やあせりからか、必要以上に攻撃的になったり、その将来に危機感を煽ったりする人もいるように思う。別に湯川氏がそうだというのではないが、印象的な対比があった。既存マスメディアをさすことばとして、湯川氏が「legacy media」ということばをしばしばキーワードのように使っていたのに対し、ギルモア氏は一貫して「mainstream media」ということばを使っていた。この差は重要だと思う。「legacy」という言い方は「古臭い、本来淘汰されるべきものが残ってしまっている」というニュアンスをもっているように思うが、「mainstream」という言い方は、今後もマスメディアが社会に果たすべき役割は変わらない、という見方を反映している。

マスメディアが「mainstream」であることと、マスメディアでないブログのようなメディアが育つこととは、おそらく相容れないものではない。どちらもそれぞれの役割をもっている。もちろん、既存マスメディア企業にとっては、これまでのビジネスモデルに変革を迫られたりするだろうし、それによって企業経営や事業規模にも影響があるかもしれない。それは個々のジャーナリストにとってはそれなりの脅威かもしれない。しかしそのことを、メディアのあるべき姿の議論にからめてしまってはいけない。そんなところだろうか。

その意味で、一番必要なのは、ジャーナリズム論を等身大の目線で考え直すことなのかもしれない。私はその分野は素人なのだが、今の議論はどうも「ジャーナリズム道」っぽくて堅苦しい。それがメディア企業ないしそこで働く人々の「聖域化」のために使われているのでは、とまで書くとちょっと意地悪すぎだろうか。きっとギルモア氏のような存在は、アメリカのジャーナリズムの中でも「異端児」なのではないかと想像する。その意味でも日本とアメリカはそれほど離れていないのだろう。日本のジャーナリストの皆さんがギルモア氏のように肩の力の抜けた自然体でジャーナリズムを語るようになったり、新しいやり方を試してみたりするようになったら、少しは状況は変わるだろうし、ひょっとしたらその部分ではアメリカを追い越せるかもしれない。甘いだろうか?

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Comments

こんにちは。
私はイベに参加できませんでしたが、エントリを拝見し、その様子をとてもよくうかがい知ることができました。
私は、例えば木村剛氏といったあたりが、TV や新聞などの「legacy media」と blog とが対峙するという主張を繰り返していたことにかねがね違和感を感じていたのですが、ダン・ギルモア氏の意見は、その違和感を払拭してくれるような気がしました。
まあ、深謀遠慮を経ずとも、「legacy media」あるいは blog とて、それぞれが単なる手段ないしは technology に過ぎないのは明白であり、それらは社会的に十分に並存可能であるし、あるいは相互に補完し合う役割を担うこともあるのだな、というふうに感じました。
私としては、とくに自身の言説を担保することを推奨・歓迎するような「エセ・市民ジャーナリズム」を煽るといった一部に見られる傾向には気をつけねばならないな、と思います。批判精神を失ったマンセー blog ばかりでは「legacy media」と比肩することすらおこがましいですからね。

Posted by: McDMaster(マナル店長) | September 30, 2005 08:34 AM

McDMasterさん、コメントありがとうございます。
ためにする議論がよくないのはどこでも同じですね。それに、世の中そう単純にはできてないですから、○か×かという二元論はけっこうつらい場合も多いです。固有名詞はともあれ、たくさん出回っている情報もよく吟味しないといけないのはその通りだと思います。

Posted by: 山口 浩 | September 30, 2005 05:48 PM

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