FRB次期議長:ダークホース台頭か?
ちょっと前になるが、10月3日付の日本経済新聞に「次期FRB議長、同門対決」なる記事が出ていて、その最後に、「アイルランドの電子投票市場」なるものが登場していた。曰く「各候補の支持率はバーナンキ40%、フェルドシュタイン27%、リンゼーとハバードがほぼ20%」と。
上記記事で紹介されたものは、「投票」ではない。リアルマネーを使った一種の予測市場だ。やや煽りっぽいタイトルをつけてみたが、今、ちょっと面白い動きが出ているので、書いておく。
まず最初に、予測市場が「投票」といかにちがうかについては、こちらを参照。「電子」と「市場」はまあ合ってるわけだが、どうしても「投票」という発想から逃れられないんだな。
ここでとりあげられた予測市場は、このサイトのサイドバーにもリンクがある「TradeSports」だ。アイルランドの企業「Trade Exchange Network Limited」が運営していて、スポーツ関連の予測をやる「TradebetX」とそれ以外のテーマを扱う「InTrade」に分かれている。予測証券はある予測が実現するか否かを予測する「勝者総取り型」だ。リアルマネーを使えるのは、この会社がアイルランドにあるからだが、ここで扱っている予測テーマの少なからぬものはアメリカに関連するものとなっているし、実際のところ取引も米ドル建てだ。2008年の次期米大統領選挙に関するものもあるが、まあ今話題としてホットなのはFRB次期議長のほうだろう。
ちなみに、このサイトの左下にこの「InTrade」のクォートを出そうとしているが、私の知識不足でまだうまくいっていない。それから、TradeSportsに日本から参加することは技術的にはおそらく可能ではあろうが、法的に問題がある可能性があるので、お勧めしない。
さて本題のFRB次期議長に関する予測証券だが、記事に出た4人だけでなく、実際には10人が「証券」として取引されている。日本時間10月10日午後10時41分(イギリス標準時午後2時42分)時点の市場概況はこんな感じ。名前のリンク先はTradeSportsの当該予測証券の概況ページだ。グラフは売買価格の推移。価格は0-100なので、数値がそのまま主観的な確率を示す。
証券 | 買い | 売り | 最終 |
バーナンキ | 33.1 | 36.9 | 34.9 |
リンゼー | 15.0 | 19.0 | 16.5 |
フェルドシュタイン | 17.0 | 18.9 | 16.0 |
マクティア | 1.1 | 2.9 | 2.0 |
ハバード | 16.0 | 18.3 | 16.4 |
ファーガソン | 0.3 | 2.0 | 1.0 |
テイラー | 1.0 | 2.0 | 1.0 |
コーン | 2.5 | 4.0 | 4.0 |
ジョンソン | 4.9 | 8.5 | 6.0 |
ルービン | 0.5 | 2.0 | 1.0 |
その他 | 6.3 | 8.9 | 6.5 |
ビッド=アスク・スプレッドがけっこう大きいものもある。やはり不確実性が高いからなのだろうが、リアルマネーがかかっているだけに「真剣」でもあるんだろう。日経の記事と比べてバーナンキ、フェルドシュタイン、リンゼー、ハバードはいずれもや値下がりしている。じゃあ誰が値上がりしてるのかと思ったら、Manuel H. Johnsonと「その他」だ。いずれも今は価格自体は高くないが、ここ最近値を上げてきている。この市場は今年5月20日に開催され、上記4氏はそのときから取引されているのだが、Johnsonは8月2日、その他は10月4日に「追加」されている。どういった経緯かわからないが、なんらかの必要性があったのだろう。ダークホース、といったところだろうか。
私自身はFRB次期議長の予測というテーマについてなんらの専門的知識も重要情報も持ち合わせていない。ただ上記の予測市場の状況だけからみると、(1)現状ではバーナンキが有力であること、(2)しかし新しい候補が現れた可能性があること、といった予測が成り立つようにみえる。
予測市場の利点の1つは、予測数値に対して誰も責任をとる必要がないということかもしれない。専門家の予測は、まちがった場合にその専門家の名声を落とすから、誰しも慎重になる。明確なことをいえる人は誰もいないし、実際断言しているものは見たことがない。しかし予測市場の場合は(世論調査もそうだが)、全体の意見の集約だから誰かが責任をとるとかいう性質のものではない。だからはっきり誰が有利、とかいえるわけだ。
結果がどうなるかはともあれ、ちょっと面白そうなテーマだし、あと約4ヶ月なので、これからしばらく追いかけてみることにする。
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