「ブログ:世界を変える個人メディア」
ダン・ギルモア著、平和博訳「ブログ:世界を変える個人メディア」、朝日新聞社、2005年。
先日この人の講演を聞く機会を得たこともあるし、たまにはブログっぽいアフィリエイト色全開の書評など。
やれビジネスブログだブログマーケティングだと騒がしい昨今の情勢では、「ブログ」という書名はなんだか商売っ気いっぱいにみえがちだ。帯で「脱構築せよ!」とアジっている人も商売っ気いっぱいだし。というわけでなんだか誤解されそうな雰囲気だが、最近よくあるブログビジネス書の系統ではない。
さらにいうと、実はこの本の約半分はブログに直接関係すらしていない。原題は「We the Media」で、まあ「我らメディア」ぐらいになるだろうか。ブログを含むパーソナライズされた新しいメディア技術が私たちにもたらすチャンスと脅威や、ネット時代におけるジャーナリズムと権力の関係などを幅広く扱っている。中でも、著作権問題にからめて「他人の成果に依存しながら自分の成果は他人に与えない」という産業界が根源的に抱えているジレンマをくっきり浮かび上がらせているくだりは面白い。
読んで感じるのは「俯瞰することの大切さ」だ。書かれていることの中には、ネットまわりの情報に日頃接していれば先刻承知のものも多くある。豊富な事例も「あああの話ね」というものがけっこうあって、「なんだ新しくないじゃん」という評価を聞いたこともあるような気がする。そう、その通り。この本は「スクープ記事」ではなく「解説記事」なのだ。新しい情報を紹介することに価値があるのではなく、過去に遡って現在の姿を説明したり、他の分野で起きていることを参考にしたり、現在起きていることから将来の予測を行ったり。視点は一貫して高い位置にある。「ブログがはやってるぞどうする」と大騒ぎするのではなく、「ブログがジャーナリズムをどう変えていくか、それは私たちを幸せにするか」を冷静に問う。全部がこういう本である必要はないが、こういう本はぜったい必要だ。
必ずしも「中立的」ではない。ジャーナリストだし、ジャーナリズムに関する記述は、「内部者」としてのそれといってもいい。ただ、日本によくいる(アメリカにもいるんだろうきっと)「高邁なるジャーナリズムをネットの連中と一緒にして汚してくれるな」派とは一線を画していて、ネットのもたらす便益をきちんと把握しようとしているという意味で、バランスがとれている。
ちなみに原書はクリエイティブ・コモンズのライセンスの下でネットに公開されていて、無料でダウンロードできる。出版後の訂正や改訂もそちらで行われている。
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