« FRB次期議長:コーン氏急浮上 | Main | 「ボーダレス・ワールド」を思い出した話 »

October 23, 2005

「市場」というゲーム

予測市場に関心をお持ちの方の中には、このサイトをよく訪れていただいている方がけっこういる。「読んでるぞ」といったお声がけをいただくことがあってわかるのだが、さまざまな分野の方がいる。ところが、不思議なことに(実に不思議なことだと思うのだ)、ゲーム業界の方からは、(ほんのわずか例外はあるが、だいたいにおいて)ほとんど反応がない。もちろん、お気づきの方もたくさんいらっしゃるとは思うのだが。

というわけで、少々「挑発」してみようと思う。わざとらしく、高飛車に。

なぜ気づかないのか。予測市場はMMOGだということに。

このサイトでは、いつもは注釈をつけずにこのことばを使っているが、今回はつけておく。「MMOG」とは「多人数参加型ゲーム」(Massively-Multiplayer Game)を意味する。よく「MMORPG」というのも出てくるが、こちらは「多人数参加型ロールプレイングゲーム」だ。わざわざ書いてないが、どちらもオンラインゲームであるという前提で話を進める。

まず、仮想通貨を用いた予測市場はオンラインゲームであるということについて。NewsFuturesHollywood Stock Exchange、日本だとはてなアイデア総選挙はてなで行われているようなサービスは、参加者にオンラインで仮想証券の売買を行わせるものだ。そこで使われる通貨単位は仮想のもので、なんらかの意味で実体的な価値を持つものもあるが、直接現実通貨とはつながっていない。したがって参加者のうちの少なからぬ部分は、一般的な意味での利益動機ではなく、どちらかというと「楽しみ」のために参加する。つまりゲームだ。オンラインゲームの中には、将棋やらパチンコやらといった、いわゆるカジュアルゲームといったジャンルのものがある。予測市場はこのジャンルにやや近いかもしれない。ただその場限りで終わるほど「カジュアル」なゲームではないし、多人数が一度に集まるという点でもちがうのだが、いわゆるRPGのようなものと比べると「ゲーム世界」及びそこでとりうる行動がきわめて限定的である点は共通している。

次に、オンラインで行われる予測市場の多くは多人数参加型だという点について。予測市場の中には、比較的少人数で行われるものもありうるし、実際にある。研究目的で大学なんかがやるものは、費用の点からたいていそうだ。しかし民間企業のサービスとして行われている予測市場は、より多くの参加者を求めることが多い。参加者が多いほうが取引が活性化して市場メカニズムがよりうまく働くし、だいいち楽しい。この点は実はかなり重要だ。少人数の参加者で市場を運営するためには、個々の参加者が積極的に取引を行う別途のインセンティブが必要だったりする。しかし多人数の参加者が集まってどんどん取引が行われている状況があると、参加者はより参加しやすくなるし、また参加したくなるものだ。人だかりがあれば「何だろう?」と思う、そんな感じだろうか。Hollywood Stock Exchangeには毎週2万人の参加者があるし、確か登録アカウントは数十万のレベルだったと思う。総選挙はてなの参加者は1,000人強、仮想通貨ではないがIowa Electronic Marketsの参加者は3,000人ぐらいと聞いたことがある。詳しく知らないが、典型的なMMORPGの場合、1サーバあたりの最大参加者数は5,000人ぐらいだろうか。それと比べても、それなりに「匹敵する規模」といえるだろうと思う。

というわけで予測市場はMMOGなわけだが、もう1つおまけにいえば、予測市場はシリアスゲームでもある。シリアスゲームとはゲームをゲーム以外の社会的に有意義な目的のための手段として用いるものをいう。典型的には教育目的のゲーム、医療目的のゲーム、特定の政治的主張をサポートするためのゲーム、新兵募集や軍事教練のためのゲームなどがある。予測市場はそれ自体として娯楽となりうるゲームだが、それと同時に、その結果が将来予測として利用できるという意味で、シリアスゲームの一種だ。

このように考えることで何がいいか。

まず強調したいのは、市場というものがそれ自体でゲームたりうるということだ。これが将来ゲーム業界のキラーコンテンツになる、などとは夢にも思わないが、ひとつのアイデアではありうる。予測市場は現実とのつながりがあるから、マーケティング的には面白い使い方ができるはずだ。

それから、既存ゲームの設計の問題として。現在サービスされている実際のMMPRPGの中でも、資産の取引を行えるしくみをもつものは多いが、市場らしい市場を備えたものはまずみかけない。Bartleあたりにいわせると、MMORPGはたいてい中世っぽいから取引スタイルも中世ふうでいいということになるのだが、いっちゃ何だが本当の中世の商取引は発達した市場やロジスティックスのシステムがあったのみならず、保険あり、先物あり、為替ありとテクニカルにももっとずっと高度だった。典型的なMMORPGにおける取引なんかは、いってみればまるで縄文時代レベルだ。便利にすると面白くなくなるという意見もあろうが、すべてのゲームが縄文時代である必要もないように思う。

さらに、シリアスゲームとしての使い方について。予測市場のしくみを使って、市場そのものを学ぶこともできる。たとえば今、学校で株式などの資産運用に関する教育が行われていて、証券会社などがよく仮想株式取引ゲームなどを提供している。しかし一般の学生、生徒にとって、自分が見たことも聞いたこともない会社の株式を取引することは、必ずしも楽しい経験ではないかもしれない。もちろん、現実の企業について調べること自体も学習ではあるのだろうが、市場そのもののしくみを学ぶのであれば、より楽しめるテーマの市場を設計したほうがいい。たとえば、日本テレビとテレビ東京のどちらの業績が上がるかを考えるより、「名探偵コナン」と「ポケットモンスター」のどちらの映画が売れるかを考えたほうがきっと楽しい。

というわけで、ゲーム業界の方ももっと予測市場に関心をもっていいのではないか、という宣伝めいた主張が結論。思い切り我田引水っぽいが、ちょっとお考えいただければと。

|

« FRB次期議長:コーン氏急浮上 | Main | 「ボーダレス・ワールド」を思い出した話 »

Comments

こんばんは。
予測市場がゲームであるという認識はそれほどとっぴではないと思いますよ。ゲーム業界人である(あった、かな)桝山寛氏が過去同じようなテーマで企画展をしたりしたり、エンターテイメントとしてのデイトレをゲームにしてたりしています。
http://www.ntticc.or.jp/Archive/2001/Credit_Game/index_j.html
http://www.ntticc.or.jp/Archive/2001/Credit_Game/Works/creditgame_a_j.html

ご存知でしたら蛇足でした。それでは。

Posted by: dotimpact | October 24, 2005 12:06 AM

dotimpactさん、情報ありがとうございます。
アジったつもりが自分の無知をさらけ出す結果になったわけですね。しかし情報を得られたあわけですから、書いたかいはあったというものです。
この企画、実現に至らなかった(至らなかったんですよね?)のはなぜなんでしょうね。早すぎたんでしょうか。そのあたりが気になります。

Posted by: 山口 浩 | October 24, 2005 09:19 AM

http://prediction.jp/
で、'07年11月から日本語向けの多人数参加型予測市場に挑戦している会社があります。市場設計のミスで、開始時の参加者をずいぶん失った様ですが。

Posted by: A-11 | December 03, 2007 03:42 PM

A-11さん、コメントありがとうございます。
ご指摘のサイトのことは了解しております。先日「群衆の叡智サミット」というイベントを開催していて、私も呼ばれましたので。専業の企業は日本では初めてですから、うまくいってほしいと思いますね。

Posted by: 山口 浩 | December 05, 2007 11:25 PM

予測市場ゲームの特徴として、もう一つ付け加えて欲しいと思った事を、今更気付きました。
予測市場の挙動をシミュレーションするのに必要なサーバーの処理能力は、宇宙のシミュレーションの実装に必要な処理能力と同じだと。

普通のMMOGでは、ゲーム世界の挙動を、全てサーバーコンピュータで処理します。だから、大抵のFPSでは髪の毛の先やつま先に何十発も銃弾を当てることで人を殺すことができるし、4or8方向でしか移動出来なかったりします。このように現実世界よりも挙動を単純化しないと、ゲーム世界の挙動を計算するとき、サーバーコンピュータの処理能力が足りなくなるからです。

予測市場の場合、現実世界の単純化が全く行われません。サッカーの試合結果を出すときですら、素粒子の振る舞いどころか、我々の物理学の知識では未知の仕組みまで考慮された結果が使われます。

勿論、予測市場が単純化をしない理由は、計算機シミュレーションで結果をはじき出すのではなく、現実に起こった結果を観測して用いるからです。このため実際の予測市場は、マトモなMMOGよりもはるかに能力が少ないサーバーで運用されています。

しかし、「現実を観測して動くシステム」というのは、現実世界をコプロセッサとして実装したシステムとも言えます。このため、予測市場の挙動をシミュレーションしようとすると、「宇宙シミュレータ」が必要になるのです。従って、予測市場の複雑性はMMOGの中でもトップクラスと言え、ロボットプレイヤーを実現出来るような攻略法が存在しません。

恥ずかしげもなく「ロボットの使用は利用規約違反です」と叫ぶMMOGがありますが、その叫びが「自分たちの運営しているMMOGは、ロボットでも攻略できるぞ!」と同値なのを、彼らは自覚しているのでしょうか? 予測市場は、人間がまだ最強を維持している、数少ないゲームの一つなのです。

Posted by: A-11 | July 12, 2012 06:50 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「市場」というゲーム:

» ランキングとゲーム理論 [weblogconcent徒然草冠【参】]
「情報とエントロピー」と大上段に出て、引っ込みがつかなくなりつつある「ランキング」への関心だが、ゲーム理論に逃げ道があるかも知れないと気づいた。 気づかせてくれたのはH.Yamaguchi.netの最新エントリ だ。 ブログを利用する方法についてweblogconcentの発想に近い... [Read More]

Tracked on October 24, 2005 03:29 AM

« FRB次期議長:コーン氏急浮上 | Main | 「ボーダレス・ワールド」を思い出した話 »