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October 30, 2005

「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」に対する意見書

日本新聞協会が10月21日に出した「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」なるものがある。要するに、被害者の実名をマスメディアには知らせよ、匿名で報道するかどうかはメディアが判断する、という申し入れだ。

わからなくはないのだが、なんだかとても違和感がある。というわけで、ちょっとちゃかしてみようと思った。以下は新聞協会の意見書をパクって作った、新聞協会への意見書だ。半分冗談だが、半分はマジだ。

意見書

2005年10月30日

社団法人日本新聞協会 殿

「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」に対する意見書

山口 浩

内閣府犯罪被害者等施策推進会議犯罪被害者等基本計画検討会宮澤浩一座長に対し貴協会が提出した「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」において、「警察による被害者の実名発表、匿名発表について、『個別具体的な案件ごとに適切な発表内容となるよう配慮していく』としている、Ⅱの第2の2『安全の確保』中の(2)のエ項に、日本新聞協会は反対し、削除を求める」とした部分について、私は一国民として反対し、削除を求める。被害者を実名で報道すべきかどうかについて、マスメディアに判断の全権を与えることは適切でない、と考えるからである。

実名報道の可否についてマスメディアが全権をもって判断する状態では、その判断が適切に行われたかどうかにについて、外部からは容易には確認できない。検証を行うためにはマスメディア以外の者が本人や周辺から取材することが必要であるが、それではそもそも匿名とした理由が失われる。国民の知る権利において、マスメディアが国民より上位に位置する理由はない以上、国民が知るべきでないとされた内容をマスメディアが知るべき理由はない。私が匿名発表を求める理由はここに尽きる。マスメディアが事件や事故を正確に、客観的に取材、検証し、報道するかどうかが検証できないために、匿名は欠かせないのである。

発表された被害者の実名をそのまま報道するかどうかをマスメディアに任せることは、国民の知る権利とはまったく別の問題である。警察にはすべて実名を発表することを求めつつ、被害者の安全にかかわる場合はもちろん、プライバシー侵害や何らかの二次被害のおそれがあるかどうかについて、マスメディアが独断で決めることは、マスメディアを国民よりも、また政府よりも上位におくエリート主義である。新聞協会の意見書は「被害者から要望があれば被害者と誠実に話し合い、警察が被害者の声を仲介する場合は警察と真摯(しんし)に協議する」と主張するが、「要望」がある状態とはすでに問題が発生した状態であって問題発生の予防にはならず、また実際これまでマスメディア各社は、二次被害など不適切な事態繰り返し引き起こしてきた。

被害者の実名は、プライバシーの核をなす情報である。それを国民に知らせるか知らせないか、マスメディアに最終判断を任せていいのだろうか。私は、法律によって縛るならともかく、マスメディアが、国民にかかわる情報を、外部の監視なしで随意にコントロールする社会に不安を覚える。

事件・事故の報道を受けて、広く社会全体でその悲しみや怒りを共有し、社会が一体となって背景にある原因を考え、再発防止、根絶に向け取り組むことは必要だが、そのために実名は必要なものではないと信じる。その使命を果たすために、報道に起因する諸問題については、これまで報道機関が自主的、自律的に判断すべきこととされてきたが、マスメディア相互の監視も充分ではなく、結果の責任もまたしばしばあやふやにされてきた。彼らのこれまでの「努力」の結果が度重なる報道被害を生んできていることをみれば、マスメディアは国民の信頼を得ているとはいえず、現段階で国民がその主張に賛同できる状況にないことは明らかである。

「犯罪被害者等基本計画案(骨子)に対する意見書」は、被害者に対する主として行政の対応についてのマスメディアの考えを集約したものと、われわれは理解している。しかし、事件・事故の発表という行為において、行政とマスメディアは等しく監視されるべき対象であり、上位に立つ「知る権利」の守護者ではない。さらにこの問題は、国民の目にふれる情報を強力にコントロールしているというマスメディアの特権に深くつながる問題でもある。この項目が「国民の知る権利」という文脈で一方的に取り上げられていることに、強い違和感がある。

実名・匿名発表について、マスメディアは警察と等しく監視されるべき対象だという議論は、これまでマスメディア内部ではまったく行われていないし、残念ながらこのままでは今後も期待できない。このような状況から、意見書からこの項目を削除し、まずはマスメディア内部で論議を尽くすよう求める。

以上

※注
原文にかなり引きずられた文章であり、実は、必ずしも完全匿名報道主義というわけではない。政治家や官僚など、いわゆる「権力」の監視においてはかなりの部分で実名で報道されるべきだと思う。しかし「第四の権力」たるマスメディアの監視は誰がやる?という点に関して、新聞協会の意見書は「自分でやる」というのが基本的立場と理解したが、自主性に任せるという発想なら、政治家や官僚のチェックにマスメディアが必要な理由と矛盾する。この「他人の監視は自分がやる、自分の監視も自分がやる」という態度が、強烈な違和感の原因であり、上記の文章はその点を主張することに主眼をおいているので、そのように了解いただけると助かる。まあ、あまり硬くとらえず、「なんか都合よすぎませんか?」といいたいのだな、ぐらいに考えていただければ。

しかし、本質的な部分として、一般の犯罪被害者について、あるいは加害者について、実名報道と匿名をどのように使い分けたらいいかについては、国民の間でももっとちゃんと議論していかないといけないと思う。プライバシーの保護を強く主張することによって、権利侵害に対するマスメディアや社会一般からの「支援」を受けられなくなるリスクをも抱え込むからだ。当然、逆の場合もある。どちらを選ぶか、間をとるならどのへんにするか。われわれにとっても、他人事ではない。

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