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October 28, 2005

コンテンツファンドで気をつけておきたいこと

わかっている人には当然、の内容だろうが、必ずしもそういうケースばかりでもないように思われるので、書いてみる。

コンテンツファンドの「投資家保護」といったときに、2通りのニュアンスで語られているように思う。

コンテンツに限らず、あらゆる投資についていえることだが、リスクにもいろいろある。ここではその中でも、主なものとして、「キャッシュフローの変動リスク」と「倒産などのリスク」の2つを考えてみる。「キャッシュフローの変動リスク」はそのプロジェクトから得られるキャッシュフローの金額に関する不確実性、「倒産などのリスク」はそのキャッシュフローが本来約束されたようには戻ってこない危険性、とでもいおうか。

法的な意味での「投資家保護」とは、基本的には後者だ。本来プロジェクトからのキャッシュフローに不確実性があることは当然であり、それを前提として投資家は投資するものだ。ファンドのスキームの組み方にもよるが、ある程度のキャッシュフローの変動リスクを投資家に転嫁することはほぼ大前提であると考えていい。だから、結果としてプロジェクトが思ったほどの業績を挙げられず、リターンが思ったより少なかったとしても、それ自体はいたしかたない。ただし、倒産などのリスク、たとえば制作会社が途中で倒産したために本来関係なかったはずの対象作品の権利まで奪われてしまったとか、そういったリスクからは投資家を守らなければならない。単純な匿名組合方式はこの意味での投資家保護が弱く、必ずしも素人向きではないとされてきた。最近信託が注目されているのは、この点の投資家保護を比較的低コストで実現できるからだ。

しかし、では投資家に事業リスクを全部負わせていいのかというと、必ずしもそうともいいきれない。金融商品の販売にはいわゆる「適合性の原則」というのがあって、顧客の知識や資力などに適合したものを薦め、「顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けること」(証券取引法第43条)があってはならないとされる。要するに、無知につけこんでハイリスクな商品を売りつけたりしてはいかんというわけで、本来売る側が個々の投資家について考えるべきものだが、コンテンツファンドの個人向け市場の現状に鑑み、市場育成の観点から、商品設計の時点で一定の考慮をすべきという思想がある。この点、コンテンツファンドの先駆者となった諸企業、たとえばジャパン・デジタル・コンテンツ信託㈱みたいなところでは、アイドルファンドでのダウンサイトプロテクションとか、「バジリスク」ファンドでの優先回収とかにみるとおり、けっこう意識しているようにお見受けする。

こういう観点からすると、最近発売された北斗の拳ファンド(正確には「北斗ファンド」)は、やや「難易度」の高い設計となっているといえるかもしれない。同ファンドのしくみについて説明するのが目的ではないので省略する(ぜひサイトをお確かめいただきたく)が、ざっと資料をみたところでは、制作側は著作権信託、投資側は合同運用指定金銭信託を使っていて、倒産隔離など、倒産などのリスクの面での投資家保護はきちんとしている。一方、キャッシュフローの変動リスクの面をみると、リターンは作品からのキャッシュフロー全体が対象となっており、たとえばDVD許諾の権利料についてはまだ決まっていないなど、リターンの確定にはやや時間を要するしくみだ。また、特段のダウンサイドプロテクションは設定されていないため、興行成績やDVD売上が極端に悪い場合には、かなりの目減りがありうる。

それからもう1つ。対象作品は新たに制作される「北斗の拳」シリーズの劇場用映画3本、OVA2本の「ポートフォリオ」だが、どれも「北斗の拳」シリーズであるということから、いわゆるリスク分散にはあまりつながっていないとみるのが妥当だろう。同じ作品のシリーズであるこの5作品は対象顧客層が重なっているからだ。もちろん「北斗の拳」はかなりのヒットを飛ばしたキラーコンテンツだが、劇場用映画3本で約6,000円、DVD作品5本で20,000円(4,000円×5本)と想定すると、全部買えば26,000円かかる。損益シミュレーションでみると、申込手数料を差し引いて元本確保となるレベルは、想定にもよるが、たとえば映画が3本とも15億円前後の配給収入をもたらし、かつDVDが5本とも20万本ずつ売れるといった感じだ。そんなに低いハードルではないと思う。

別に北斗ファンドを批判しようというものではない。そもそも不確実性を含んだ話だし、「北斗の拳」シリーズの根強い人気や最近のリバイバルものブームなど、追い風もある。それに、私個人としては、日本人投資家はもっとリスクを楽しんでもよいのではないか、と考えている。1口10万円だし、当るも八卦、当らぬも八卦でいいのではないか、と。ただそれは、すべてをわかった上、同意した上での話だ。本当に当たり前の話だが、投資をされる際にはぜひそこにどんなリスクがあるか充分お考えいただき、納得して投資していただきたい。

あとはケンシロウやラオウの活躍に期待するのみ。
あたたたたたたたたっ!

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Comments

毎日山口さんにツッコミ入れるの(ボケか?)がでんすけで恐縮です。

さて本日は、このファンドを売る営業マンとして邱永漢氏+グリコ集めの森永氏vs山口さんとの勝負はどうかな?と考えました。

いつの世も勝者は前者系でしょうかね?

Posted by: でんすけ | October 28, 2005 09:19 PM

でんすけさん、コメントありがとうございます。
私はこのファンド自体に反対ではないので、そこんとこよろしく。ファンの人が応援する気持ちで買うのが一番ではないかと思います。エンドロールに名前が出るんですから。スキームはきちんと投資商品のかたちになっていますが、買う人がどんな気持ちで買うかは別物ですからね。でも、コンテンツファンドの将来のためにもぜひ成功して欲しいものだと思います。

Posted by: 山口 浩 | October 29, 2005 03:14 AM

>私はこのファンド自体に反対ではないので

ええ、優良営業マンと理解してました^^。

でもコンスタントに売るのはダンさん儲かりまっせ営業だと。

Posted by: でんすけ | October 29, 2005 07:45 PM

でんすけさん、コメントありがとうございます。
投資家側のリテラシーがとても重要だと思います。少なくとも現在のコンテンツファンド市場では、だまそうという売り手よりも勝手に誤解する買い手のほうを心配しなければならないと思います。

Posted by: 山口 浩 | October 30, 2005 11:24 AM

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