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November 17, 2005

2001年の三賢人問答

以下は、平成13年2月27日(火曜日)に開かれた、第151回国会の衆議院予算委員会公聴会の議事録の抜粋だ。5年近く前になるわけだが、なんとも隔世の感がある。このまま忘れてしまうのはもったいないので、ここで改めて読み返してみようと思う。

この公聴会では、8人の公述人が登場してそれぞれ意見を述べ、質疑応答を行った。ここで抜き出したのは、このうち以下の3人だ。

野村総合研究所主席研究員 リチャード・クー君
野村総合研究所上席エコノミスト 植草 一秀君
KPMGフィナンシャル株式会社代表取締役社長 木村 剛君
(「君」というのは、国会ではこう呼ぶらしい。なんとも「いかにも」っぽいな。もし中山きんに君が出席したら、「中山きんに君君」と呼ぶのだろうか)

当然ながら、肩書きはいずれも当時のもの。懐かしい名もある。今は業界復帰を果たしたようだ。実力のある人だから、やがてまた表舞台に出てくるだろう。

実はこのほかにも連合の鷲尾会長とか政策研究大学院大学の大田助教授とかが公述人として興味深い話をしているのだが、ここはまあこの3人ということで。関心事は「景気回復のための処方箋」についての議論だ。知ってる方は知ってると思うが、前二者は当時、「景気回復を優先せよ。財政政策を発動しなければ景気回復は難しい」と主張しており、最後の木村氏は「まず不良債権処理を進めないと景気回復はできない」と主張していた。

私は後者の考え方に近い意見だったのだが、前者の意見にもそれなりの根拠があり、説得力がある主張だったと思う。同じことをこうまでまったく逆のとらえ方で語れるとは。前者の立場からは、「財政政策の発動が有効であったにもかかわらずこれまでは途中で緊縮財政に転じてしまったために挫折してしまったのだ」となり、後者の立場からは「いくら財政政策を発動しても、不良債権が残ったままだから効果がないのだ」となる。

現時点では「不良債権を先に処理する」のほうが正解だった、とみえるのだが、前者のお2人はきっとちがった評価をしているだろうし、それもそれなりの説得力があるだろうと思う。このとき議論された2001年度予算では、2000年度予算(補正後)と比べて緊縮型となったわけだが、その後数年間は税収不足のため「結果として」国債発行額が30兆円レベルを大きく上回って推移したのだから、ある意味「財政政策で下支えした」といえなくもない。それでも、この時期に進めた不良債権の(亡国とかいわれたが、とりあえず今のところ滅んじゃいないぜ)処理が最近の景気回復に貢献しているのは疑いようもないし、「国は助けない」ことをはっきり見せつけたおかげで企業は自力再建へ向けて進んだ、というのもはずれていないと思う。要するに、専門家の間ですら意見が分かれうる問題だということだ。

それだけに、かつてこのような論争があったことを忘れてはならないと思うわけだ。

以下の議事録は、議事録本文から文章を抜粋してつないでいるだけで、加筆はしていない。「…」は中略を示す。一応全文を読み、発言の趣旨を曲げないように注意して抜粋したつもりだ。そのうえで、重要と思われるあたりを太字にして下線を引いてみた。

しつこいようだが、2001年の発言だ。当時の時代状況を思い出しつつお読みいただきたい。あ、ことわっておくが、この3人が直接国会の場で論争したということではない。それぞれ別個に自分の考えを述べ、質問に答えたというものだ。念のため。


○クー公述人

・私は、今の状況は、バランスシート不況という何十年に一回起きるか起きないかという極めてまれな不況に陥っているんではないかという気がします。
・戦後からそれこそ一九八〇年代の最後の一日まで、日本経済というのは二つの大きな車輪で回っていたような気がします。それは、高貯蓄と高投資という二つの車輪であります。
ところが、一九九〇年のそれこそ最初の一日から、株価の暴落に始まる資産価格の暴落という事態が発生しました。
・企業の場合は、…必死に債務超過の状況から脱却しようという形で借金返済に回っているわけであります。
・これをみんながやりますと、当然消費は落ち、投資は落ちることになります。このような悪循環、これがバランスシート不況ということではなかったかという気がします。
・本来であれば大恐慌になっても不思議はなかったわけで、先ほど申しましたように、一九三〇年代のアメリカ、こういう全く同じような状況になって、大恐慌に陥ってしまったわけであります。
・…日本の場合は、…民間がお金を使えなくなっている中で政府が使ってくれたということで、当初財政黒字を出していた政府が、景気が悪くなる、そうすると景気対策を打つという形でこの穴埋めをしてきた、それが今まで日本経済を支えてきたのではないかという気がします。
・財政をやったからすぐ景気がよくなる、…私も一時そう思ったことはありますけれども、実際の財政の役割はそうではなかった。
・ここで所得を切ってしまいますと、借金返済の原資もなくなるわけで、そうなると連鎖的に先ほどお話ししましたような事態が発生してしまう。
・そういう観点から見ますと、今回の予算、私はもう少し上乗せしていただきたいという気がします。五兆円から十兆円ぐらい真水部分で上乗せしないと、今アメリカ経済の急速な減速、それにIT関連が勢いを失っているという、半年前だれも想定していなかったような事態が発生しているわけですから、ここはそれなりの対応が必要ではないかという気がします。
・いつごろ日本の財政を再建の方向へ向けるべきかという御質問だったと思いますが、私は、まず、日本のバランスシートの全体の状況は、あと二年ほどすれば大分改善に向かうのではないかという気がしております。
・一九九七年…から五・八年、つまり二〇〇三年のちょっと手前までというくらいの計算になります。
・バランスシートがきれいになっても企業がキャッシュフロー経営にこだわってしまったら、これは日本の財政にとって大変な問題になります。
・…そういう事態に陥らないようにするためにも、…構造改革、規制緩和で、バランスシートがきれいになった企業が、どうしてもこれは投資しないと大きな損をするだろうと思うくらいのビジネスチャンスをつくっていく、そのような規制緩和、投資環境の改善というのがぜひ必要ではないか。
・確かに、財政がここ十年間いろいろな形で出たわけですけれども、なかなか経済が元気を取り戻さなかったということで、財政はきいていないのではないかという指摘がたくさんあるわけですけれども、…もしもやっていなかったら恐らく日本は大恐慌のシナリオになっていたと思います。
・中身は、これはよければいいにこしたことはないわけですけれども、そのいいプロジェクトが十分見つからない。そういう意味では、…このバランスシート不況という局面では、量の方が質に優先するという事態であると思います。
・九七年から五・八年、ということは二〇〇三年ぐらいまでこういう状況を、とにかく財政で景気を下支えする、所得を下支えしてくれば、その所得を原資に皆さん借金返済を続けて、バランスシートは一九七〇年から八六年までの平均的な姿に戻るんではないか。
財政赤字だけでつぶれた国はほとんどありませんが、それにおびえて金融政策を動員してつぶれた国、これはたくさんあります


○植草公述人

・一九九二年以降…株価が暴落した局面が今回含めまして五回ございます。この五回の株価急落局面は日本経済の危機というふうに表現された局面であります。
・この五回の局面にいかに対応してこの危機を乗り切ってきたかということでありますが、…過去四回の株価急落局面はいずれも、財政を中心としまして財政金融政策、マクロの政策で対応しております。
・景気対策の累計が百四十兆円に及び、依然として日本経済の低迷が続いているということから、景気対策は効果がない、財政赤字を累増させるという弊害が強調されておりますけれども、実際に過去の動きを細かく検証いたしますと、景気対策そのものは極めて有効に効果を発揮しているということが観測されるわけです。
・それでは問題はどこにあったかということでありますけれども、…日本経済の改善が始まり、株価が上昇し、景気回復が七合目から九合目まで差しかかる、そういうところに至った時点で、時期尚早に景気を悪化させる政策対応がとられている。これが日本経済長期低迷の本当の原因になっているということであります。
・昨年春以降の展開でありますけれども、森政権発足後、ごらんのとおり株価が大幅に下落をしておりますけれども、今回もやはり過去の事例と同じように、マクロの政策が緊縮方向に大きく方向を転換したということが事態の悪化を招いている、こういうふうに考えております。
・…トータルの財政規模は、ごらんのとおり、昨年からことしにかけて約五兆円の減少になるのではないかということで、財政政策がかなり踏み込んだ緊縮の姿になっております。
・日本経済が景気回復の七合目に差しかかって、これからいよいよ景気回復軌道に乗るかという時点におきまして量の面でこのような圧縮策をとりますと、過去繰り返してきたような事態の悪化が生じてしまう…
・昨年四月以降の株価の下落は、先ほど申しました金融政策の方向転換、そして財政面からの緊縮政策の決定、これを映した動きになっているということで、日本経済をしっかりと回復軌道に乗せるためには、景気回復が七合目に差しかかった時点で時期尚早の引き締め策をとることは適切ではないのではないか、私はこのように考えているところであります。
・残念ながらそのような政策対応にはなりませんで、現時点としましては、この後景気が再び下方圧力を受けていく、そういう懸念が強いのではないか、このように考えております。
・金融問題の解決が先である、こういう見解がしばしば聞かれるわけでありますが、私は、この見解は誤りだというふうに考えております。
・日本で最大の問題は現在、金融の問題であります。資産価格の下落が進行し、特に債務を抱えた主体が苦難に陥っている状況にあります。この状況から抜け出すためには、一言で言いますと、資産価格の全般的な下落に歯どめをかける、これが最も重要な点であります。
・現在のように、景気の悪化、それに伴います資産価格の下落傾向に歯どめをかけない中で金融問題を処理しようとしましても、それは事実上不可能ではないか、このように考えるわけであります。
・正しい処方せんは、まずフローベースの経済活動を改善の軌道に誘導する、二%なり三%なりの経済成長軌道をまず確実に確保する、これを優先すべきであるというふうに思います。
・景気回復軌道の確保によりまして、株価の方向に大きな変化が生じてまいります。恐らく一年程度のタイムラグを伴いまして、不動産価格の下落にも歯どめがかかる。こうした形で景気の改善をまず誘導し、その上で資産市場の方向に明確に方向転換を実現させれば、その上で金融問題の解決も可能になってくる。
金融問題の処理が先ではなく、景気を回復軌道に誘導することがまず求められている というふうに思います。
・財政の問題については三段階の対応が必要だと思います。まず第一には、景気回復を優先し、税収の回復を図る。景気回復に安心感が持てた時点で、五年程度の時間をかけて歳出全般の根本的な見直しを行う。これには、一般財政あるいは社会保障財政あるいは公共事業、さまざまなテーマがあると思います。これらをやり終えた段階で、最終的には私は増税ということも必要になるというふうに思います…
・私は、…余地は非常に限られておりますが、短期金利の引き下げ、あるいはいわゆる量的な金融緩和ということを検討すべきだというふうに思います。
・しかしながら、現在のように非常に経済が停滞している状況におきましては金融政策の有効性というのは非常に限定的でございますので、この金融政策の措置とあわせて、財政面から景気を支援する政策を併用する。これによりまして、世の中に資金需要が生まれ、資金需要が生まれる中で金融緩和が維持されますと、マネーサプライの増大が生じていく。その結果、現在のこの深刻なデフレスパイラルに陥りかねない状況が是正されるというように思います…
・この十三年度予算は、十二年度の補正後で比較いたしますと七・九%の減少ということになっておりまして、そういう点では、実績ベースといいますか、既に策定の終えております補正予算の編成後の状況で比較しますと、…十三年度予算は、補正後に比較してかなりの緊縮色になっておりますので、回復軌道に向かい始めた日本経済に対しては、かなりマイナスの影響が出るのではないか、そういうことを懸念しております。


○木村公述人

・日本の不良債権のGDPに占める比率は相当高いということを言わざるを得ないわけでございます。六%内外という数字、これは海外から見ますと相当厳しい局面にあるというふうに思っております…。
・お金は余っているのになぜ景気がよくなってこないのか、…これは、…銀行の貸し出しがふえない、この一点に尽きるわけでございまして、…お金はどこに行っておるかといいますと、国債をどんどん買っておる、こういう形になっておるわけでございます。
・お金と本当の経済規模の比較を見ていただきますと、あのバブル期、ジュラルミンで現ナマを買ってそれで土地を売買していたときよりも、実はGDPで見ますと日本のマーケットにお金はあふれておる、そういう数字が出てきておるわけでございます。
・本当であれば、国債がたくさん出て国債の値崩れが起こってもおかしくないところなんでございますけれども、お金が余りにも大量に供給されているがゆえに、しかも銀行が、本来の機能である貸し出しをふやすということではなくて、国債を買うことによってその機能を代替していることによって、国債を買う人がたくさんいらっしゃる、そこで微妙に均衡しておるというのが日本の危うい現実であるということでございます。
・日本の経済は…例えて言えば、水道管の中にごみが詰まっておる、そのごみを取り除くことなしに日本の経済が円滑に動くことはあり得ません。ぜひ、ごみである不良債権をきっちりと処理し、そのためには財政というカンフル剤、金融という輸血というものは必要だという局面もあると思いますが、この不良債権問題を処理することなく日本の本格的な景気回復がないということをお願い申し上げて、私の公述とさせていただきます。
・私の評価は、単純なマクロ財政政策で今回の景気の不況を乗り切ることはできないというのが私の見方でございまして、不良債権問題を片づけることなくマクロ政策のみに頼った場合には財政の問題も出てくる可能性は大きい、そう思っております。
・残念ながら、銀行危機あるいは不良債権問題に直面した国というのはたくさんございます。世界の三分の二の国が経験しているわけでございます。この三分の二の国は三年から五年で問題の発見から処理まで終わっておるわけでございますけれども、その方法は二つしかございません。一つは、抜本的な処理、すなわちハードランディングをやった後にV字形回復をする。もう一つは、景気をよくすることによって問題債権をなくしていくという方法でございます。
・先ほど申し上げた三分の二の国はすべて前者でございます。日本のみが後者の対策をとって、十年たっても出口が見えないという状況でございますので、…残念ながら、デフレの影響を甘受してでもこの手術は進めなければならない。
・手術のない財政出動、手術のない金融緩和は、害悪あって一利もないと考えております。
・確かに、景気を回復させてから不良債権を片づけることができれば、私はそれが一番望ましいと思います。日本はそれを試して十年間むだに棒に振り、しかも不良債権をふやしておるという現状を、日本以外のほかの国は憂えておるということでございます。
インフレターゲティング論につきましては、…学説的な問題のみならず、恐らく委員会の先生方におかれましては、実務的に本当に可能なのかという点を追求する必要が私はあろうかと存じます。
・インフレターゲット論を言われる方々は、日本銀行の政策能力に対してかなりの疑問を示していらっしゃいます。バブルの発生もとめられず、バブルの崩壊もコントロールできなかった中央銀行に、なぜインフレというものをコントロールできることを望まれるのか、私は理解ができません。
・不良債権の処理というのは、残念ながら、相当痛みを伴う外科手術でございますから、人間だれしも避けたいと思うのは、官僚たれ、あるいは人々のことを考える政治家の先生であれ、なかなか決断するのは厳しいと私も思うわけでございますが、この十年かかって、そして公表不良債権ですら減らないという現状を目の当たりにして動かなければ、これは政治家ではないと私は考えておる次第でございます。
・そのためには、その際に起こるデフレプレッシャーに対してどうやって国民を守っていくかというところをあわせてやっていただきたい。
・不良債権の裏側には不良債務者、問題企業があるわけでございますが、問題企業の経営者はリストラをすることによって何とか生き延びている一方で、リストラをされた労働者は何もカバーをされておらないという状況にあるような感じがいたします。
・そのあたりの不公平感が醸成される前に、必ず政治家の方々が何らかの対策を打っていただける、私はそう信じております。

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