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November 18, 2005

比較的低コストでそこそこ有効な談合防止策に関する思いつき

成田国際空港の電機関連工事をめぐる談合疑惑で、2005年3月までの5年間に発注された大規模電機工事の指名競争入札の平均落札率が、予定価格の97.19%、との報道があった。今日から本格的な捜査が始まったとか。

またか、やっぱり、などというお決まりの感想が出てくるわけだが、なんか工夫の余地はないのか、と考えてみたりもする。

談合に関しては、契約方式に工夫の余地があるのではないかと考えていて、書いたものが来年公表される予定(共著。ただいまゲラ修正中)なのだが、それはけっこう大がかりな変更を提案するものなので、それはそれとして、もっと「手軽」にできそうな対策はないものか、などとつらつら考えたりすることがある。特にペナルティについては、よくある「○ヶ月間の指名停止」というのがなんとも中途半端な感じがする。

今回の件で注目したのは、成田国際空港㈱側が「過去5年間では6社以外に入札と落札の実績はない。技術的にこの6社しか契約できない工事だ」としている点。技術的に制約があるために、典型的な対策である一般競争入札化が難しい。こういう類の工事は少なくない。

「他の会社には任せられない」という事情はわかるが、それが弱みになって企業側の開き直りを許している、ということはないか。この6社を排除したら工事ができなくなる。それは困る。だから厳しい措置はとれないにちがいない、と。

課徴金は有効なペナルティとは必ずしもいえない。課徴金を課したところで、このクラスの企業にとってはさほど痛い金額でもなかろうから、という理由もあるが、もっと問題なのは、課徴金というペナルティはいったん発覚した以降は避けようがなく、事後の行動パターンを変えるインセンティブにならない、という点だ。

ではどうするか。

原則に立ち返って、発注者のほうが強い、ということを思い出そう。本当に発注をやめたとして、より深刻な状態になるのは企業のほうのはずだ。これは一種のチキンレースといえる。勝ち負けはどちらが本気かで決まる。ならば発注側が「本気」でやればいいのだ。

具体的には。

簡単なことだ。ひとたび入札が発覚したら、「同じ企業」の入札を二度と認めない、とはっきり決めればいい。1ヶ月入札停止とか、3ヶ月とかいっても、その間だけ発注者側が発注を延期する結果になるだけのことで、企業にとっては痛くもかゆくもない。ここはやはり「永遠に」でなければ。

じゃあ発注先がなくなってしまうではないか、となるわけだが、「同じ企業」かどうかを、「社名」「本社所在地」「取締役、監査役その他の役員」の実態で判断するというのはどうか。当然、その対処の優劣をその後の入札に関係させればいい。旧社名を連想させる社名か、旧経営陣を事実上処遇していないか、そういうことを「審査」の対象にする。

このようにすると、談合が発覚した場合、その後の入札に参加したければ、企業は社名を変え、本社を移転し、役員を総入れ替えしなければならない。これが実務上どれほどのコストを要するか、どれほど重大な事態であるかは、企業にいれば誰だってわかる。しかしそれをすれば、元通り入札に参加できるし、より徹底的にやったほうがその後の落札の可能性は高くなるのだ。日本に数社しかなければ、もともと落札の可能性は高いのだから、やらない理由がない。社名を変えるのがいやだからとか、役員を辞めさせるのがいやだからといって入札に参加しないとなれば、株主が黙っていないはずだ。

ここで6社間に競争が起きるのではないかと思う。この点については、おそらく談合はかなり難しいだろう。組織の事情は企業によってちがうからだ。で、談合に加担した企業の全役員は、その企業にいられなくなる。たとえ反対しても。知らなくても。そうなったら、全く関与していないのに辞めさせられる役員と、原因を作った役員との間に訴訟すら起きるかもしれない。これはその後の談合に対するかなりの心理的抵抗を生むのではないか。

もちろんこれで万全などというつもりはない。どんな対策にも抜け穴はある。具体案はともかく、ここで本当にいいたいのは、なんとかしたかったら本気にならなければだめだということだ。腰の引けた姿勢でチキンレースはできない。厳しすぎるという批判については、これまで根絶できなかった責任はどうする、と問いたい。業界の「自助努力」にはもう期待できないのだ。

なんとも不毛な思いつきだな、と自分でも思うが。

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Comments

山口浩さん、

現在の日本政府の深刻な状況下では、入札制度の改善により談合をなくすことを徹底すべきだと信じます。また、私自身がそのように行動していきたいです。いろいろ複雑な問題を含んではいるものの、確実に談合をなくすことにより政府の支出を減らせます。確かに経済活動と貨幣の蓄積の量というのははすべて相対的であるのだと昨晩考えていたので、「こっちにいくところをあっちにかえる」という程度の問題かもしれませんが、国の体制がメンテナンス型に移行しなければならない今日パワーバランスが大きく変わる必要性があると考えます。

嗚呼、なんかまとまりせん。すみません。

Posted by: ひでき | November 20, 2005 04:33 PM

 自称「軍学者」の兵頭二十八氏が、米国が昔から連邦陸軍工兵に、高い技術力とマネージメント力を与え、パナマ運河建設やTVA、政府関連建築等においてゼネコン的役割を果たさせて来たのは、
民間土建業者による独占・寡占・談合、ひいては政治力発揮への抑止力・対抗策としての面がある、と主張されています。

条件は違いますが、ご参考までに。

Posted by: MUTI | November 21, 2005 02:29 PM

コメントありがとうございます。

ひできさん
やはりこういうのは「本筋」ではないですよね。他の産業で普通にできていることをなぜ建設業界ではできないのか、業界の方は真剣に考えていただきたいと思います。政府の支出を減らすことよりも、日本の資源配分がゆがんでしまっていることのほうが懸念されます。

MUTIさん
ゼネコン国有化論、なんですかね。興味深いご意見です。現在の日本ではなかなかとりにくい手法とは思いますが、なぜ陸軍だと問題解決になるのかは面白いポイントだと思います。何と比較するか、にもよるのでしょうね。

Posted by: 山口 浩 | November 21, 2005 10:33 PM

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Tracked on November 18, 2005 11:44 AM

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Tracked on November 19, 2005 07:59 AM

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