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November 12, 2005

少年犯罪より成人の犯罪のほうが問題だと思う

ちょっとでも調べた人ならすぐにわかることだが、「最近は少年犯罪が増えている」とか、「少年犯罪が凶悪化している」とかいう類の主張は、根拠がない。「最近の若い者は」的な議論と根は同じで、年長の世代が偏見をもって言っているふしがある。居酒屋の繰言ならいいが、公的な場であまりに氾濫するのは正視に堪えがたい。いいかげんにしてもらいたい。

データ的にいうなら、法務省の「犯罪白書」の推移をみればすぐわかる。平成16年版でみると、「<第4編> 少年非行の動向と非行少年の処遇」には

少年刑法犯検挙人員は,平成13年以降増加が続いており,15年は20万3,684人(前年比0.6%増)であった。人口比(10歳以上20歳未満の少年人口10万人当たりの検挙人員)も,13年以降上昇し,15年は1,552.9人であった。

などと書いてあったりして、そこだけみると「やぁたいへんだ」となるわけだが、白書というのは毎年読む人を対象にしているので、その記載はせいぜい直近の数年を関心の対象としている。「図表8 少年刑法犯検挙人員および人口比の推移」で長期トレンドをみると、検挙人員は1970年代前半と同水準で、1980年代と比べればざっと3割以上低いことがわかる。

もう少し詳しい情報が「少年犯罪データベース」に出ている。このサイトは個人で作られているようで、どういう趣旨かはわからないが、みたところデータはある程度信頼のおけそうな感じなので、そのまま使う。統計をみると、殺人事件は統計の出ている1946年以降最低の水準に低下しているし、強盗は1960年代後半と同水準、暴行や傷害、窃盗も減少している。増加トレンドがはっきりしているのは横領ぐらいではないか。横領も犯罪にはちがいないし、それはそれで「なんだかなぁ」という感じだが、少なくとも「特に最近は少年による信じがたい凶悪な犯罪が増えてきている」などというコメントが誤っていることはわかる。

上記のサイトではこのほか過去のニュース記事などから少年犯罪の報道なども拾っていたりして、anecdotalにも昔から少年が「信じがたい凶悪な犯罪」を犯してきたことがわかる。どうも、少年犯罪そのものとは別に、「少年犯罪を問題視する」という社会現象が存在しているようだ。

要するに、今の少年は、過去の少年、要するにテレビなんかで「最近は少年犯罪が増加して」などとしたり顔で語っている輩の年代と比べて、より多くの犯罪を犯しているとはいえない。「最近の若い奴らは」というなら、1980年代に10代であった今の30~40歳前後の人々のほうがはるかに「少年犯罪者の多かった世代」であるし、最も少年による殺人の多かった1960年前後の少年は今の団塊の世代とその周辺にあたるのではないか。この世代の方々は今の少年よりよほど「凶悪」だ、ともいえる。

もちろん、少年人口自体が減少しているとかいろいろな事情があったりもするのだが、犯罪全体の件数(つまり、成人の犯罪を含むということ)でみると戦後全体でみても最高水準に近いという事実からして、少年犯罪の社会におけるウェイトは、少なくとも高まってはいない。「犯罪白書」の「<第4編> 少年非行の動向と非行少年の処遇」にはこんな記載がある。

15年における少年一般刑法犯検挙人員は,16万5,973人(前年比2.3%増)で,少年比(検挙人員総数に占める少年の比率)は,41.3%であった。少年一般刑法犯検挙人員は3年続けて増加しているが,少年比は成人検挙人員の増加に伴って低下している。

はっきりいえば、今の社会にとってより大きな問題なのはむしろ成人による犯罪ではないか。検挙者の年齢構成についてのデータはなかったようだが、まさか「かつて犯罪を多く犯していた世代が今も多く犯罪を犯している」なんてことはないだろうね。…なんだかこわくなってきたので、このへんでやめておく。

※追記2005/11/12
いうまでもないが、少年犯罪問題への対策が不要だと主張しているわけではない。ただ「最近の少年は過去の少年に比べて特に凶悪になっている」とかいう議論はおかしいといっているだけだ。この種の議論をすると、すぐ「教育が悪い」「金銭万能の世の中を改めるべき」「マンガやアニメ、ゲームなどの影響が」「最近は女性が強くなって」みたいに、それぞれ自分の関心事にくっつけて精神論みたいのをぶつ人が少なくない。その中には根拠があるものもあるのだろうが、少なくとも、まず実態を確かめて、きちんと調査、分析して、それから語るようにしてもらいたい。テレビや新聞などの公的な場で、何も知らずに自分の印象だけでえらそうにご高説をぶつのは、社会にとってむしろ害悪だと思う。以上、念のため。

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Comments

こんにちは。

ご指摘の、「それぞれ自分の関心事にくっつけて精神論みたいのをぶつ」というのは、心理学的には各々自分の中にあって認めたくない傾向を他人(ここでは少年)に投影して、それを排除しようとすることで自らを正当化・防衛しようとする機制かと思います。

で、多くの場合こういうメカニズムをあまり質の良くないジャーナリストが煽ると。

USでの同様の構造を、バリー・グラスナーというUSC教授が著しています。「アメリカは恐怖に踊る」というタイトルで邦訳が出ています。

Posted by: よす | November 13, 2005 11:43 AM

よすさん、コメントありがとうございます。
「防衛機制」っていうんでしたかね。特にテレビは、予算をけちってるのか知りませんが、問題には素人であるテレビタレントを文化人扱いしてくだらないコメントをとってますね。これで「公共性」とかよくいえたもんだと思ったりしますが、それはおいといて。
どこの国にもある現象だとは思います。本のご紹介もありがとうございます。

Posted by: 山口 浩 | November 13, 2005 12:06 PM

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