政府資産と債務管理
議事録要旨はこちら。木村氏がとりあげていたのと同じ2005年11月14日開催の平成17 年第25 回経済財政諮問会議だ。木村氏はそのうち政策金融改革に関する部分をとりあげていたが、私は政府資産売却と財政再建に関する議論をご紹介してみることにする。以下は議事録の抜粋であり、加筆・訂正は行ってない。「…」は文中の省略箇所を示す。ポイントを思われるところは太字・下線で強調してみた。
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平成17 年第25 回経済財政諮問会議議事要旨
1.開催日時:2005年11月14 日(月) 17:30~19:06
2.場所:官邸4階大会議室
3.出席議員: 議長 小泉純一郎 内閣総理大臣
議員 安倍晋三内閣官房長官
同与謝野 馨 内閣府特命担当大臣(経済財政政策)
同 竹中平蔵総務大臣
同 谷垣禎一財務大臣
同 二階俊博経済産業大臣
同 福井俊彦日本銀行総裁
同 牛尾治朗ウシオ電機(株)代表取締役会長
同 奥田碩トヨタ自動車(株)取締役会長
同 本間正明大阪大学大学院経済学研究科教授
同 吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授
臨時議員 中馬 弘毅 行政改革担当大臣
同 川崎二郎厚生労働大臣
(議事次第)
1.開会
2.議事
(1)公務員の総人件費改革について
(2)政策金融改革について
(3)社会保障制度改革について
(4)政府の資産・債務管理について
3.閉会
(中略)
○政府の資産・債務管理について
(本間議員)
・資産・債務管理の強化の必要性について…、6月の「基本方針2005」で、資産・債務の在り方について基本方針を明らかにするということが明示された。諮問会議においては、今月を目途にこれをとりまとめていただきたい。
・今日たたき台として提出しているものは、2つ項目を立てている。1つは、政府の資産・債務規模の縮減について、もう1つは、政府の資産・債務の管理の在り方についてである。
資産・債務の規模、量の問題について…我が国は、バランスシート上700 兆円規模の大きさを誇っている。これは、対GDP比でアメリカの10 倍ぐらいである。
・今回、基本方針として、政府の金融資産残高の対名目GDP比を今後10 年間で概ね半減させるという長期的な目標を求めている。その上で、金融資産だけではなく、実物資産においても売却可能な国有財産について精査をし、一層の売却を進めるよう努力すべきと書いている。
・金融資産及び実物資産のスリム化を積極的に加速する努力を要請している。もちろん、谷垣議員が主張されるように、外為資金や年金の寄託金等は一定の政策目標を持っているので、これについてスリム化しようというようなことまで申しているわけではない。
・第2は、政府の資産・債務の管理の在り方についてである。政府の資産・債務の管理については、…今年5月18 日の論点整理に基づき、外部有識者の協力を得てワーキンググループを設置した。
・ワーキンググループの検討結果について、簡単にその要点を紹介したい。
・…庁舎等の国有財産について、保有するか、売却して賃借するか等を検討する必要性がある…。
・…庁舎等の国有財産の売却を検討する際には、証券化等の手法の活用を検討すべきである。…残高の大きい金融資産についても証券化をして…いくということが必要であろう。
・…財政制度等審議会の国有財産制度部会…での審議結果も踏まえて、国有財産の管理処分の効率化を進めることや、リースバックの適用についても検討していく必要性があると考えられる。
・…国債管理部門の専門家集団としての一層の向上を努めるべきであろう。
(谷垣議員)
・金融資産の…100 兆円を優に超える規模の減額…は…大事な目標であると思う。
・金融資産の主要な部分は財政投融資であるが、…今、ストックはピーク時の7割程度となっている。…金融資産残高の名目GDP比を今後10 年間で半減させるといったことを長期的な目安として、財政政策としての役割を勘案しながら、今後残高の縮減を図っていきたい。
・国有財産行政においては、…売却可能な国有財産の一層の売却促進に努める。…先週、財政制度等審議会から中間答申を頂いたが、その内容については、…民間議員の御指摘とも方向は沿うものであると思っている。
・こういう方向に沿って、…次期通常国会へ法案を提出するため、国有財産法等の改正案の作成作業を急ぎたいと考えている。
(竹中議員)
・今日、この民間議員ペーパーを見て少々驚いた。今まで民間議員が言っておられたことから見ると、かなり控え目な御提言ではないか。
・難しい問題があることは私も理解しているが、果たしてこういう目標で国民は納得するのだろうか。
・金融資産に関しては、…今の努力を10 年間続けたら…、ほとんど自然体で実現してしまうのではないか。前回総理が高い目標を掲げようとおっしゃったので申し上げるが、もっと高い目標を示さないと、今後、税負担等々を議論するときに、国民は納得できないのではないか。
・不動産等々の売却について、2点申し上げたい。
・1つは、「民間ができることは民間で」という前提があるが、実は今、政府はある種不動産業をやっているのだと思う。問題なのは、そのために多数の人員を割いているということである。
・…財務局のかなりの方は国有財産管理を業務としている。財務局で総数4,600 人ぐらいと聞いているが、うち1,000~2,000 人ぐらいの方が不動産管理を行っている。
・実は郵政民営化においても、郵政公社を民営化すれば、それを管理していた郵政行政局というのは要らなくなって、その分、政府が軽くなるわけで、そういう効果がものすごく大きい。不動産管理、国有財産管理という点に関しては、非常に大きな数の人員が携わっている。
・…例えば、泉ガーデンタワーという東京でも有名な超高層マンションが建っているが、そのすぐ隣にある宿舎が、8階建て、9階建てなどと有効利用されておらず、…国民に納得してもらえない…、と思う。
・…あの一等地を国が宿舎として使っているために、本来だったら40 階建てを建てられるところが8階建てとなり、9~40階までの東京のリソースが有効活用されていないという非常に重要な経済的側面がある。
・…ワーキンググループの中では良い意見が書かれており、金融資産のみならず、政府全体の資産を対象にすべきではないのか、そして、政府自らが庁舎等の国有財産の売却を進め、政府の姿勢を明確にするということ。そして、貸付金等を証券化することによって資産を圧縮するとともに、債務を削減することが可能。先ほど本間議員が言われたように、国債管理に関する専門家集団の結成に努めるべき。
・3番目は、特別会計も大胆に取り組むべき。この問題は、…政府の姿勢をかなり強烈に示していく必要があると思う。
(与謝野議員)
・…土地を含めた不要不急の国有財産をちゃんと処分をして、財政再建に資するようにすることが重要。その点では民間議員の提言は、…非常に大胆で高い目標だと思って…いる。
・11 月中のとりまとめを予定している基本方針において、資産残高の対名目GDP比を今後10 年間で概ね半減させるという長期的な目安を示すことについては、概ね合意があったが、御指摘があったように、何を半減させるかについてはさらに検討をしたいと思う。
(竹中議員)
・金融資産に限定しない、より明確な目標を、ぜひ諮問会議で議論していただきたい。
(与謝野議員)
・ただ、バランスシートだけ見ると、年金で預かっているお金などがみんなバランスシートへ計上されており、そういうものを除いたものでないと半減目標というのは出来ないのではないかと思う。次の機会までには、何を半減目標にするかということはお示ししたいと思う。
(竹中議員)
・ぜひお願いします。
(本間議員)
・御指摘を踏まえて、より明確な整理をさせていただきたい。
(牛尾議員)
・資産・債務の実態をできるだけ多くの機会にオープンに示すことが問題の解決にプラスになると思う。
・現段階でオープンにできるものは一度オープンにしてみる。その結果、皆が関心を持つことが大事であるので、そういう点も考えたら良い。
(与謝野議員)
・次の機会には、何を半減するかについて検討を進めて御報告申し上げ、基本方針のとりまとめ案について議論をさせていただきたい。
(小泉議長)
・国有財産の売却や管理には民間の視点が必要じゃないか。
・眠っている国有財産があるぞと、民間に売れば売れる、使えば使える。
・役所別の宿舎をもっと統合的に有効に考えたらいいのではないか。
(谷垣議員)
・国有財産法をきちんと精査し改正して、効率性とか、今のような視点を入れていくことを考えないと、現状の国有財産法ではなかなか動けない。そこはよく詰めて考えていきたいと思う。
(小泉議長)
・どうしたらできるか、現行法ではできないのだから。
(谷垣議員)
・現行法では難しい。
(本間議員)
・報告書…に、…「民間の専門家の意見も十分に聞きながら一層の検討を行い」ということを入れている。
・財制審の国有財産の部会には、例えば不動産の専門家などが不十分…
・…あらゆる施設あるいは官舎等をチェックするといった大規模な調査をし、民間の視点でどういう形で証券化あるいは建替えしていくかという計画を作っていく段階にある。
(小泉議長)
情報を出すことです。
(本間議員)
はい。
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まあ、新聞等で報じられている内容と変わるわけではないが、微妙な言い回しでかわそうとする人々と、これまた微妙な言い回しで追求する人々の攻防戦のようすがよくわかる。実物資産の売却にはかなり抵抗感があるようで、しかもそれを表向きにはあまり認めたくないらしいので年金資金なんかにかこつけたり、国有財産法の問題を持ち出したりしているわけだ。やはり公務員住宅はたいへんな「特権」なのだろう。
それから、財産があるがゆえにそれを管理する人員が必要となっているという指摘は重要だと思う。売却後の処遇とか定員問題とかに直結するからだ。この点に関して竹中大臣は郵政民営化も同様としているが、郵政民営化を議論している際にはまったく触れられなかった点だ。可決前にはデリケートすぎて言えなかったのだろうか。
牛尾議員がいうとおり、実態をできるだけオープンにすることが重要だと思う。本来テクニカルな問題だから、専門家の検討にゆだねなければならない部分が多いのはしかたがない。とすれば、素人からみて最も信頼できるのは、きちんと説明してくれるほうではないか。説明がなければ「何か裏に事情があるのでは」とかんぐりたくなるのも無理はない。
11月22日には、第26回経済財政諮問会議が開かれたはずだ。与謝野議員が「次の機会までに」とした、政府資産半減目標の中に何を含めるかの議論がなされたのだろうか。議事録の公表を楽しみにしていよう。
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