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December 21, 2005

金もうけ主義は「経済至上主義」ではない

ひとつはっきりさせておきたい。

最近多いのだが、たとえば耐震強度偽装問題で、件の業者を「経済至上主義」とかいったりすることがある。しかし「経済」ということばをこういうときに使うのは、まちがっている。コスト削減のために必要な鉄筋を抜いたりするのは、断じて経済至上主義でも経済優先でもない。もちろん「経済設計」でもない。

ああいう使い方において「経済」ということばは、「金もうけ」とほぼ同義だろう。いいたいことはわからなくはないが、「経済」と金もうけはちがう。「経済」とは、おもいっきり簡略化すると、「効率的な資源配分」のことだ。目的は人の効用(要は「満足」ということだ)を増進すること。当然、資源には制約があるから、その制約の下で効用をいかに最大化するかを考える。

「金もうけ」は、効率的な資源配分の結果である場合もあるが、そうでない場合もある。安易なやり方は、人をだます方法だ。いってみれば情報の非対称性を利用して、虚偽のコストを示すことによって自分だけの利益を増やすことであるわけだが、これは効率的な資源配分ではないし、そもそも安定的な「均衡」でもない。虚偽がばれれば、業者の信頼は失墜し、二度と復活はできなくなる。ばれるリスクは、無視できないほど高い。そもそも持続可能性がないのだ。これがなんで「経済至上」といえようか。

確かに経済を考えるとき、「金」の問題は避けて通ることができない。アフラックダックに教わるまでもなく、「お金は大事」なのだ。本来、経済学において貨幣の存在は必ずしも必須ではないが、まあ通常貨幣価値で測れるものを対象とすることがほとんどであることも確かだ。で、それに対して、金では測れないものがある、そういうもののほうが大事だ、という考え方もある。そういう人は「経済至上主義」だとか「経済優先の考え方」に対して批判する。そういうのは、まだわかる。現在の経済学が対象としていないものをより大事だと考えるならば、経済を至上の政策目標とする政治はさぞかし不満たらたらだろう。

耐震偽装問題のような問題は、それとは明確にちがう。人をだまして、社会全体の資源配分をゆがめるやり方だ。こういうものは断じて「経済的」ではない。震度5強の地震で倒壊するおそれのあるマンションが「経済的」なわけがないではないか。ごっちゃにすると、話がわかりにくくなるだけでなく、議論をまちがった方向に誘導するおそれすらある。

以上、以後お間違えなきよう。僭越ながら。

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Comments

>社会全体の資源配分をゆがめるやり方
社会全体の資源配分を見たところ、
最近の社会はものすごくゆがんでるような気がします。
「生産してる価値=収入」ってそこら中で崩壊してる気がしませんか?

気のせいだったらいいのですが、
事実だったら何が悪いんでしょうか?
どうすれば改善するんでしょうか?
そもそも、「生産してる価値=収入」である状態を目指すことが生産性を最大化するんですかね?
私は省エネ派なので、生産性が高くてもエコロジカルじゃなきゃ嫌です。

Posted by: taka | December 21, 2005 09:30 PM

takaさん、コメントありがとうございます。
定義にもより、またみるタイムスパンによっても異なりますが、今より社会の資源配分がゆがんでいた時代はたくさんありましたね。そこら中で崩壊していても、昔よりましということはよくあります。
世の中にはさまざまな人がいて、エコロジーを気にする人もいれば気にしない人もいます。社会として合意できる線はどこかをさぐっていかなければなりません。でもエコロジーを追求すれば資源配分は適正になるかというと、必ずしもそうとは限りませんし。
難しいですね。でもどんどん議論していくべきだと思います。過去の人たちに比べて、私たちはより長い歴史から学ぶことができます。これをやればすべて解決!という名案はなかなかないと思いますが、少しずついい方向に動いていければいいですね。

Posted by: 山口 浩 | December 22, 2005 04:12 AM

エコロジカル(A) と 効率的資源配分(B)
本来は AはBの部分集合ではないでしょうか?

効率的資源配分というとある資源制約
のなかで それを目一杯使って最大のアウトプットを出すということでしょうが、エコロジカルというのが資源を大切にするという概念(違いますか?)とすればそれはAの部分と思うわけです。問題はBは本当にやってしまうと地球上で生物が存在できなくなるということだと思うんですが。。(全部使っていいとすれば、です。当然資源も再生産するわけですが、時間価値を考えると少しずつ再生されるものを将来消費するよりも、今有るものを一気に消費した方が価値は大きいということになりそうな。。。)
なので問題は、効用を最大化せずに政策介入でどうやってエコロジカルなセカンドベストを達成するかではないでしょうか?

Posted by: 森三津彦 | December 22, 2005 05:43 PM

森三津彦さん、コメントありがとうございます。
人によっては、BがAの部分集合、と考える人もいるかもしれませんね。人の考え方はいろいろですから。
資源配分については、人間にとって、どれぐらい先までを現実としてとらえられるかがひとつのカギかもしれませんね。今すべてを消費してしまうほうがいいのか、残すとすればどのくらい残したらいいのか。将来にはリスクもある。消費CAPMですねぇ。

Posted by: 山口 浩 | December 22, 2005 07:20 PM

口語で俗に「経済的」「リーズナブル」と言うと単に「安い」ことを指しますよね。
山口さんのおっしゃる「経済至上主義」は「優れたコストバランス」のようなものでしょうか。
世間の「経済的」「リーズナブル」のイメージがちょっとずつでも変わっていくと良いですね。

Posted by: maki | December 24, 2005 07:04 PM

makiさん、コメントありがとうございます。
日本のほうが顕著だと思いますが、どうも金にまつわることは汚い、という風潮がありますね。
本文にはああ書きましたが、やはりアフラックダックに教えてもらわないといけないのかもしれません。

Posted by: 山口 浩 | December 24, 2005 10:41 PM

いつぞやは、ランキングと情報エントロピーについて貴重なコメントをいただきありがとうございました。別ブログで経済誌至上主義と例の誤発注について書きましたので、トラックバックさせていただきました。

Posted by: weblogconcent | December 25, 2005 02:39 PM

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