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December 10, 2005

空売りの数量制限があったらよかったのに

みずほ証券の誤注文問題だが、株式市場にはうとくて、どうもよくわからない。

きっと誰かがもう書いているだろうと思うのだが、発行済み株式総数の42倍にもなる売り注文をシステム上排除するしくみがなぜなかったんだろう?

空売りには価格制限がある。個人投資家の小規模なものは別だが、一般には直近公表価格以下での空売りはできない。だから今回のケースでも1円ではなく572,000円での売却になったわけだ。「馬鹿だなぁ」と笑えるのはもちろん部外者だからで、みずほ証券の方々には「しゃれじゃすまねぇよ」という話だろう。

みずほ証券には従業員教育だとか執行の手順とか売買システムとか、さまざまな問題についていろいろ批判がよせられているだろう。もちろんそういう批判は逃れられまい。ただ、だからといってそれ以外のところにまったく問題がなかったかというと、必ずしもそうではないのではないか。

ここでは、証券取引・決済のしくみ自体にも問題はあったのではないかという点について書きたい。一般に誤注文はその注文を出した当事者がその責任を負うのが当然だ。その結果として会社が破綻することになろうと、プロである以上それは「自己責任」以外の何者でもない。しかし、今回のように決済が事実上不可能であるようなケースは、決済システム全体への信認を傷つけるという意味で、システム全体の問題という要素もある。それに、以前にも似たような事故はあったのだ。価格と数量のとりちがえというのは、さまざまな組み合わせがありうる。もっとひどいことが起こりうる、誤発注した会社だけの問題ではない、という認識になってもおかしくはなかったはずだ。

一般論として、空売り制限は市場をゆがめるから必要最小限にすべきだと考えるが、それにしても、1社が一度に発行済み株式総数の42倍もの数量の空売り注文を出したとして、それを排除すべきではない理由というのは、どう考えても見出せない。誰がどう考えてもまちがいに決まっているではないか。どうも市場の人というのは、相場操縦とかそういうのはえらく気にする割に、注文ミスに関しては無頓着のように思える。プロだから言い訳がきかないというのはその通りだが、一方でこういう混乱は、いってみれば百害あって一利なしだ。簡単な対応で避けられるなら、やっておいてもばちはあたらない。

1社が1つの銘柄について一度に出せる空売り注文の上限を発行済み株式総数以下にする、なんていう制限は、取引の柔軟性を失わせることはないのではないかと思う。新規公開会社ではなく大きな上場会社だったらこれでも相当な金額になりうるわけで、かなりゆるゆるの制限だから、これで充分かどうかは議論の余地があるだろうが、ともあれ今回のように執行が事実上不可能な売買が成約するような事態が発生するリスクはかなり減らせるはずだ。

東証として、今回の責任問題もさることながら、将来に向けた方策を今後早急に検討したほうがいいと思う。

最後にみずほ証券の方々には慰めにもならないフォローを。ジェイコムでまだよかった。これがもしガンホーあたりで、「1株を248万円で売り」が「1円で248万株を売り」だったりしたら最低でも6,000億円の損失とかだろうし、ネットバブルのころのヤフーなら株価1億円超だったから、損失1,000兆円(!)を超える、なんてこともありえた。どっちにしてもみずほ証券の株主資本の額を軽く上回る。その瞬間に破綻確定、ではないか。それに比べれば、最大1,000億円なんて。…これ以上逆撫でするのは控えよう。同社は日本のコンテンツファイナンスにおける中心プレーヤーのうちの1社だし、つぶれてもらっては困る。ご健闘をお祈り申し上げる。

※2005/12/12訂正
12月11日、東証がシステムの不具合を認めた。「大量の1円売り注文を、値幅制限の下限である572,000円の売り注文として「みなし処理」を実施したが、これに対し約定処理中の注文が存在した場合に不具合が生じる」とのこと。11月のシステム障害の件も併せ、東証の社長の進退問題になるようだ。とりあえず取引システムに不具合があったという点で、上記の記事中「東証に責任追及は筋ちがい」は誤りと判明。訂正する。ついでに、東証と並べて挙げた「日本証券クリアランス機構」も関係なさそうなので削除。以上については、お詫び。そのうえで、本文の主旨である「空売りの数量制限」についてはやはり導入すべきではないかと主張しておきたい。「不具合」を修正したとしても、誤注文を受け付けるしくみ自体が残っていては同じような問題が発生しうるからだ。いい機会だから、取引ルールも含めて検討したらいいのではないか。

※2005/12/12追記
Hardcodedさんの「誤発注事件に見る深い闇」にトラックバック。

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Comments

結局のところ、" 想定の範囲外だった " ということに
なってしまうのでしょうか。

私は、通信系のソフトウェアに関わる仕事に従事して
おりますが、往々にして、開発者の "想定の範囲外" 、
(開発者の)常識で考えて "フツーそういう事はしない
だろう...”、というようなのことを、ユーザはやってく
れます。で、いろいろと問題引き起こす訳ですが...

そこで、いつも思うのですが、こういった、事故を未然
に防ぐことは、可能なのだろうか? と。

どんなにレビューをしても、(断言してしまいますが)
必ず見落としがあります。

なので、ミスをしない事も大事なのですが、その失敗を
拡大させないことも重要ですし、失敗してしまった場合
に、同じ失敗を二度と繰り返さないということも重要で
あると思います。

で、今回の件ですが、過去にも誤発注事件があったわけ
ですので、教訓が生かされてないという意味で(ちょっと)
お粗末な感じが否めません。

で、次に思うのは、なぜ教訓が生かされないのだろうか、と。

つらつら思うに、(日本は)失敗の原因を徹底的に究明して
2度と同じ過ちをしないよう決意するよりも、失敗の当事者
をとっとと処罰して失敗(恥)を忘れてしまおうという傾向
があるのではないかと...

私は、進歩というのは、失敗の上に成り立っている、言い方
をかえると、try & error の上に成り立っていると、考えて
いるので、(行き過ぎた)当事者の処罰というのは、どうか
と考えてしまうときがあります。try する人が萎縮して try
しなくなってしまう損失、というのは計測のしようがありま
せんし...

とはいえ、絶対に失敗(ミス)が許されない、例えば、
人の命に関わるような、こともあるので... テクノロジーの
活用というのは(いろいろと)難しいところだと思います。

Posted by: ひろん | December 10, 2005 03:58 PM

ひろんさん、コメントありがとうございます。
いろいろな分野で似たようなことがあるんでしょうね。この分野の場合は、「プロ同士の化かしあい」みたいなところがあるので、どこかが失敗することは「おいしい機会」として乗っかっちゃう風潮がありますね。大手証券会社の中にはジェイコムの発行済み株式総数以上の株式を「買った」ところもあるようだし。
ともあれ、失敗からいかに学ぶかが大事、というのは激しく同意です。少なくとも自分の取り扱う範囲だけでもそういうふうにしたいものです。

Posted by: 山口 浩 | December 10, 2005 09:46 PM

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