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December 02, 2005

これはいったい「報道」なのか?

事情がよくわからずに書くのもどうかと思うのだが、とても気になるので、「わからない」という前提で一応書いてみる。

マスメディアは、いつから「捜査機関」になったんだ?

広島で小学生が殺された事件で、逮捕された容疑者の自宅に、マスメディアがインタビューだか何だかで逮捕前からたびたび訪問していたらしい。テレビ朝日が「独占」と銘打って、その際の映像を公開していたが、聞けば「現場周辺には外国人が多く居住していると聞き、外国人宅を回って聞き込みをした」由。それで今回逮捕された容疑者の家にも行き、遺体が収められていたダンボール箱に合致するガスコンロがおかれているのを見つけたそうだ。

「独占」という点については微妙だ。新聞広告を見ていたら、週刊新潮の記者も、容疑者を逮捕前にインタビューしていたらしい(2005/12/5追記。見出しだけ見たので内容は未確認)。ということは、他にも接触した報道人がいたかもしれない。

ともあれスクープ映像、なんだろう。得意げに何度も放映している。ひょっとしたら警察の捜査にも役立っていたかもしれない。

しれないが。

報道機関が「聞き込み」って何だ?まるで警察ではないか。しかも逮捕後にやるならともかく、まだ逮捕前ではないか。いや別にやっちゃいけない法律はないだろうが、万が一そうした行動で犯人が警戒して逃亡したら、いったいどう責任をとるつもりだったのだろう。警察はそういう行動を容認していたのだろうか?

実はこのあたりについては、以前から疑問に思うところがあった。少し前になるが、日本テレビ系の「真相報道 バンキシャ!」という番組で、おとり捜査まがいのことをしているのを見た。女性を盗撮するために偽のオーディションを企画したグループを摘発、というものだったが、取材班が犯人グループの中に入っていっしょに偽オーディションを企画し、最後に実行する段になって参加を断り、警察に通報していた。

最近の事情はよく知らないが、一般におとり捜査は「犯罪を誘発する」との批判があるから、少なくとも以前は、警察も慎重な姿勢だったはずだ。それを警察でもない報道機関がやるとはいったいどういうことなんだろう。しかもいっしょになって違法行為を企画するってのは。そもそもこれって犯罪の共謀にはならないのか?最終的に参加しなかったからいいってつもりか?

こういう点に関して問題意識をもってる人をあまり見かけないが、筋ちがいなんだろうか。私には、報道なるものの根幹に関わるかなり重大な問題なんじゃないかと思えるのだが。事実を調べて伝えるべき報道機関が、捜査妨害になりかねない行動をとったり、犯罪そのものの誘発に力を貸すとは。ここがわからない。どなたか知っている人がいたら教えてほしい。

※2005/12/5追記
当初書いたときには知らなかったが、この容疑者は、取材を受けた後実際に逃亡を図った由。逃亡先で逮捕されたわけで、まあ「間一髪」だったわけだ。ほらみろ、といばるつもりはないが、これって一部のスタッフの行き過ぎとかそういう問題じゃなくて、報道なるもののあり方に関する根本的な議論が必要なんじゃないか、と思う。この種の問題が度重なっている以上、「自助努力」だけで充分なのか、という点も含めて、社会全体で考えていったほうがいい。

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Comments

私も最近の報道番組全般のあり方に、疑問を感じています。
マスメディアにとって、視聴者が楽しめ、結果視聴率のとれる番組を作ることは、必要不可欠でしょうが、それ以前に、特に報道番組には真摯な姿勢が求められると思うのです。
これらの問題を著名な方々が自然な形で取り上げて、質していくようなあり方があればいいと思うのですが。問題にすらならないところに不安すら感じます。

Posted by: みっちー | December 02, 2005 11:10 AM

確かに同じ思いを感じます。

ただ、記者クラブでの発表されたことを裏づけも取らずに報道することに批判があることも考えると、やはり捜査というか、調べることも重要なように思います。

山口さんが挙げていらっしゃる例は超えてはいけない線を超えているということだと思うんですが、どういったあたりにこの線があるんでしょうね・・・。

Posted by: Ryuichi | December 02, 2005 12:00 PM

コメントありがとうございます。

みっちーさん
今テレビが見えないところにいるのでわかりませんが、日本のテレビはこれに対してまだ何もいっていないのでしょうか。いやわかんないなぁ。容疑者は逃亡を企ててたんですよね?

Ryuichiさん
マスメディアが「裏をとる」ことは当然必要だと思いますが、そのために何を犠牲にしていいかは考えるべきだと思います。誘拐事件は被害者保護まで報道しませんよね?今回の件は、それと少し似たところがあるように思います。取材することによって容疑者が逃亡する恐れがあるときは控えるっていうのではだめですか?別に逮捕後でいいじゃないですか。結局報道は逮捕後だったわけだし。あれじゃただのスクープ狙いといわれてもしかたないように思えますがいかがでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | December 02, 2005 01:32 PM

はじめまして。貴ブログを拝読して記したエントリをTBさせていただきました。お時間がございましたら、ご覧下さい。(ミスで重複TBしてしまいました、申し訳ありません。)

Posted by: sleepless_night | December 02, 2005 10:58 PM

sleepless_nightさん、コメント&トラックバックありがとうございます。
「バンキシャ!」のキャスターの人々の本職に関する点は、正直よくわかりません。利害関係がまずいというのであれば、「参加型ジャーナリズム」なんて存在自体おかしいですよね。誰が番組に出てるかより、何をやってるかのほうが大事なように思えるのですが、どうでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | December 04, 2005 09:35 PM

 わざわざ、お応え頂き恐縮です。
 ご指摘の点につきまして、追記の形で述べさせていただきました。
 至らぬものですが、ご覧いただければと思います。

Posted by: sleepless_night | December 07, 2005 09:01 PM

sleepless_nightさん、コメントありがとうございます。
ええと、うまく表現できていなかったので申し訳ないのですが、要するに、私のいいたいのは、ある番組が報道の名に値するかどうかを論じる際に、それをやっている人がどんなバックグラウンドなのかとか、その人の内心がどうなのかを見るより、実際にやっていることを見るほうが直接的で早いように思う、ということです。「バンキシャ!」のキャスターがCMに出ていようが女優をしていようが、「バンキシャ!」の中できちんと報道の名に値することをやっていればそれはやはり報道なのではないか、そうでなければそれは報道ではないのではないか、ということです。
結論はちがわないようなので、この点にこだわるつもりもありませんが。

Posted by: 山口 浩 | December 08, 2005 03:48 AM

どうでもいいところに突っ込みますが。

昭和初期に騒がれた説教強盗の犯人を突き止めたのは新聞記者でした。
マスコミがスクープ目当てで独自捜査をするのは、最近に限らず昔からではないでしょうか。

Posted by: tripod | December 08, 2005 08:01 PM

tripodさん、ご指摘ありがとうございます。
なるほど、新聞記者が犯人逮捕に貢献、という事例ですね。昔も今も、そういうのがあるわけですね。
tripodさんが仮にこのテレビ朝日の記者だとして、もしこの犯人が逃亡に成功していたとしたら、どう弁明されますか。報道の自由を守るために犯人の逃亡を招いたのはしかたがないことであり、私に責任はない、と主張されますか?説教強盗の件の事情はわかりませんが、「うまくいったからいいものの」という要素があるのではないかと想像します。
その意味で今回のケースは、やはりいくらなんでもやりすぎだろう、と私には思えます。もし昔からそういうものなのだとしたら、もはやマスコミに自浄作用を期待すべきではないですね。

Posted by: 山口 浩 | December 08, 2005 11:19 PM

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