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January 15, 2006

この人に注目!

2006年1月13日付の朝日新聞「私の視点」で「NHK民営化 『公共』の意味まず考えよ」に注目。著者の九州大学比較社会文化研究院助教授の杉山あかしさんにも注目。

「私の視点」というのは、1,300字ぐらいの短いオピニオン欄だ。短い文章でいいたいことを伝えるのはなかなか難しい。いきおい、メッセージを単純化するかハイコンテクストな文章にするかになるわけだが、この人はまあ後者のほうかな。何がいいたいかよくわかんないし。なので私も、できるだけ同じ路線でがんばってみる。

NHK民営化論議について、「このことを考えるための前提となる数字や事実は、国民にほとんど知られていないように思われる」としている。へえそうなのか。してその数字や事実とは?

要約するとこういうことだ。

1 NHKは民放より安い
2 NHKのサービスは民放よりすぐれている

へ?

1は、私たちがNHKに支払う受信料(6,410億円)と、民間企業が広告費として受け取る収入(2兆436億円)とを比較して、NHKのほうが安いといっているわけだ。われわれが財布から直接出して払う受信料と広告主企業が支払う広告費を同列に扱うなかなか大胆な分析。広告主がテレビCMをやめたらモノの値段が下がるとでも考えているんだろうか。チャンネル数を比較しているが放送時間のちがいは比較しないという取捨選択もみごと。そもそもNHKを民放と比較して高いといっている人なんているんだろうか。仮に比較したとしても、NHKのほうが安いって、あたりまえじゃん。内容がちがうんだから。

2は、番組のクォリティの件だ。「NHKの多くの番組の視聴率はおおむね低い」が「一般には質の高いものと意識され、特定の人々に圧倒的に指示されていることも多い」としているわけだが、番組の質と視聴率をダイレクトにつなげるスレスレの論理展開はなかなか大胆。それに、「一般に」は「すべての」とはちがうんだよなぁ。あるでしょ、NHKにも。「◎△×●※□!!」(不適切な表現につき自粛)と叫びたくなる番組が。「一部の人」の支持を質の根拠にするのも、その「一部」って誰かわかんないじゃん。民放の番組はどんな○○番組だって誰かには必ず支持されてるぞ(誰も支持しなきゃ即打ち切られるんだから)。このあたり一連の丸め込み方は職人芸。

ところが結論の部分にくると、とたんに歯切れが悪くなって、「われわれはNHKに、契約者数や視聴率を追いかけさせたいのであろうか。いまそのことが問われている」とか小ぎれいにまとめている。いや、問われているから今問題になってるんですけどそれが何か?そもそも「『公共』の意味」は、われわれより先にNHKが考えるべきことだ。事実上ほぼ税金に等しい受信料で維持される放送の内容がどんなものであるべきかと。NHKは受信料を税金化する案に反対だそうだが、強制手段をとっていないことを言い訳にするのはやめてもらいたい。NHKがきちんと自らを問わないからこそ、国民の批判を受け、政府が乗り出してきたのではないか。

杉山助教授には申し訳ないが、個人の消費選択の問題としていうなら、民間放送の受信に対価は必要ない。それで足りない部分があるから公共放送が必要とされるわけだ。ではその足りない部分とは何なのか?私たちが必要としているのは、公共的性格をもつ放送サービスの確保なのであって、NHKという特定の組織ではない。ほかでできるなら、そっちでやってもらってもいっこうにかまわないのだ。少なくとも私は、私の払った受信料が大晦日のバカ騒ぎの費用の一部に充てられるのを是とはしない。

あまりしつこいのもどうかと思うので、この件はこのへんで。

それよりも気になるのが、この杉山助教授ご本人。九州大学のサイトをみたら、専門は「社会的コミュニケーション 文化研究 社会学」だそうだが、サブカルチャーを研究テーマの1つにしている。科研費の研究のリストにはこんなのが。

科学研究費  他の項目と一部重複している場合があります。
・1995, 奨励研究(A)「パソコン通信による公共圏形成に関する調査研究」, 代表
・2000~2002, 萌芽的研究「 コミック同人誌活動のカルチュラル・スタディズ的研究」, 代表
・2003~2005, 萌芽的研究「おたく文化系コンベンションのカルチュラル・スタディーズ的研究」
・2004~2007, 基盤研究(B)「コミック同人誌即売会『コミック・マーケット』の文化社会学的研究」

文部科学省もなかなかやるではないか。同人誌にコミケだぜ。よく通ったね。これ読んでみたいなぁ。プロフィールには、Niftyのフォーラムでサブシスを経験したともある。今の2ちゃんねるなんかについてもいろいろご意見があるんだろうな。

テレビ出演にはこんなのも。
新聞・雑誌記事及びTV・ラジオ番組出演等
・2005.10,TNCテレビ西日本,10月15日放送の土曜NEWSファイルCUBEにおいて、メイド・カフェについて、大衆文化研究の立場からコメント。.

ほほおメイドカフェね。社会学的にはあれどう解釈するんだろう。まさか「癒しを求める時代」みたいなつまんないコメントはしないだろうしなぁ。ちなみに九州にも天神にメイドカフェがある由。

いや、こちらのほうが圧倒的に面白そうではないか。NHK論議よりこちらで売り出したほうがいいと思うのだが。アカデミックにこの種の問題を語れるのって、今だと首都大学東京の宮台真司さんとかGLOCOMの東浩紀さんくらいしか思い当たらないから、まだマーケットはあると思う。この2人は「彼岸」に行っちゃってて「濃すぎる」から、もう少しニュートラルに語れる人がいれば、政府なんかでも需要が多いはず。地の利をいかして、中国・韓国の萌え文化もレパートリーに入れればさらなる競争優位が。というわけで、今後に期待。覚えておこう。

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Comments

「萌え経済学」の森永卓郎先生もいますね。
結構TVにも出てますから、萌え文化業界の新星かと。(笑)

Posted by: Baatarism | January 15, 2006 12:37 PM

Baatarismさん、コメントありがとうございます。
ええと、森永氏はアカデミックな人ではありませんので除きました。

Posted by: 山口 浩 | January 15, 2006 05:15 PM

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