自分たちでやればいいんじゃない?
米国産輸入牛肉に危険部位がみつかって再び輸入停止となった問題(「米産牛肉、安全確認まで再び輸入停止・危険部位混入で」)で、「輸入牛肉の全量検査「物理的に不可能」 農水次官表明」だそうな。
まあそうだろうね。で、素人考えなんだが、だったら自分たちでやればいいんじゃない?検査。
この問題、もともと科学的に云々という議論と、消費者の不安、政府の思惑という議論という3段階がある。科学的にも議論の余地があるやに聞いたことがあるが、まあそちらはひとまず措くとしよう。科学的な真実はどうあれ、問題の本質はそこではない。
消費者の意識も、実は分かれていると思う。全頭検査した肉でないと信用できないという人もいれば、アメリカ人だって食べてるんだし別に気にしないよという人もいる。つまり問題の本質は政府の思惑だ。政府としては、食の安全を確保するのが政府の役目と認識している(国民の自己責任と突き放すことは自らの存在意義を危うくする行為だし)。理屈で考えれば、安全な肉を望む人と安い肉を望む人とでそれぞれ選べればいいじゃん、ということになるのだが、上記の理由でそれでは政府として都合が悪い。だから前者に寄り添う姿勢をとっているわけだ。
アメリカとの間では、もちろん合意した条件があって、それらを守るという約束を前提として輸入再開となったわけだが、正直いって当初から無理っぽかったのは誰もが分かっていたものの「それをいっちゃあ」といったところだろう。だから案の定というわけだが、アメリカを批判するのもやや気の毒な気がする。もともとこういうのに向いていないのだ。彼らは。日本人の繊細な感覚を想像することすらできないだろう。別にばかにするわけではないが、期待するほうがまちがい、ではないか。
というわけで、仮に、アメリカ側の検査には今後も期待できない、しかも日本側も基準を緩めることはできない、としてみる。どうするか。
ここでユニクロを思い出してみる。ユニクロがかつて大躍進を遂げたとき、その原動力となったのは中国での低コスト生産だった。しかしこれ、ただ中国で作ったから安くできたというものではない。中国の委託先工場で、中国人労働者を使って、いかに日本人が納得する品質の服を作るか。日本人の厳しい目に耐える品質を確保するため、ファーストリテイリングがそのために多くの日本人を監督者として中国に送り込んだことはよく知られている。
これと同じようなことが、今回も必要なのではないか。要するに、彼らに任せてはいけないのだ。自分たちが求める品質を守る体制は、自分たちが主導して整備していかないと。日本向けの牛肉の検査機関をアメリカに作ってしまえばいい。検査員も日本人または日本人が指導したアメリカ人を採用する。さすがに全頭検査をやるのは難しかろう(それをやったらコストメリットがなくなって、なんで輸入してるのかわからなくなる)から、日米で合意した基準に沿った品質が確保されていることを確認すればいい。
今回の件からみて、牛の月齢のチェックも、まあ同類とみるべきだろう。これは各牧場でどうやってるかの問題だから、検査機関が充分なチェックを行うのは無理かもしれない。だったら契約牧場のようなかたちで、日本向けの牛を育てる牧場を指定してしまえばいいのではないか。どうせ日本が輸入する牛肉など、アメリカ国内消費量に比べればほんのわずかでしかないのだ。日本でも、有機栽培の野菜などを契約農場でつくるビジネスは当たり前に存在する。同じことをやればいいだけだ。
もちろんこうするとアメリカ産牛肉の価格は上がるわけだが、そもそもそれを日本の消費者が望むという前提の話だ。それに、ここまでやっても、日本国内産牛肉より多少なりと安くできる可能性は充分あろう。
こういう考え方は、牛肉輸入再開の検討の際にはそもそも議論の対象にならなかったんだろうが、ここまできたら検討してみてもいいのではないか。アメリカも今は弱みがあるから、さして文句もいうまい。セブンイレブンだって、いまや日本側がアメリカ側に経営指導する時代だ。だめかね?
※2006/2/7追記
今日の衆議院予算委員会質疑で、民主党の山岡賢次議員が、日本基準での検査を行うとした米企業に対し、アメリカの農務省が差し止めていて、その裏には米大企業がいるとかいっていた。真偽は知らないがまあいかにもありそうな話。だからこそ、日本側でやる必要があるのではないだろうか。米政府が介入してくるのであれば、契約農場ではなく、日本企業(ないしその子会社等)が直接経営する必要があろう。企業が自分勝手にやるのであれば、米政府にも止めようがないのではないかと思う。日本の企業がどの米企業から牛肉を買うかは自由だし。それは検査基準がどうとかいうこととはまったく別の、企業努力の問題だ。
The comments to this entry are closed.
Comments
解決策としては、よさげですが、政治的に実行しようという意思がないでしょうね(^^;
牛丼業界が画策するかな??
政治力なさそう。。
Posted by: ひろ | January 26, 2006 02:11 AM
ひろさん、コメントありがとうございます。
牛肉を輸入される企業の方々は、見切り発車をしてはどうか、と思ったりします。吉野家の輸入量だけでも、ひとつの検査場を作るぐらいの規模はあるのではないでしょうか。
Posted by: 山口 浩 | January 26, 2006 10:08 AM
初めまして。
以前より拝読させていただいております。
今回のエントリ、まさに思っていたことをそのまんまお書きいただいた感じで、TBさせて頂きました、勝手ながら。
実際の話、どこに実現できない障害があるんでしょう?
素人からすると不思議に思えてならないんですけどねぇ。
Posted by: トパーズ | January 26, 2006 11:24 AM
トパーズさん、コメントありがとうございます。
サイト見せていただきました。
想像ですが、「障害」はアメリカ側なんでしょうね、きっと。アメリカの肉を危険扱いされると国内的にやばいと。企業単位ならそういう問題にならないのは、ご指摘の通り。というわけで、やっちゃえばいいのに、となったわけです。今は日本政府のメンツの問題も出てきてますから、なかなかたいへんだとは思うのですが、なんだか不毛な争いのような気がして。
Posted by: 山口 浩 | January 27, 2006 12:51 AM
おもしろかったです。そうなんですよね。
障害は、食物輸入全般に対する国の立場でしょうか。ぜひ必要だから売ってください、というのではなく、売りたいって言うんだから仕方なく、という姿勢。なので、なぜ日本側の資本を使って pull しなきゃならないんだ、ということになるでしょう。
この企業単位での検査が、売る側の資本によって為されるなら日本側には何の問題もないのでは。でも今度はアメリカ側で障害になる。輸入再開の前、ある米国の企業が、うちは全頭検査やりまっせ、と言ってつぶされましたよね。米国にとっては検査が日本との「科学的ではなく政治的な」合意によって為される必要があるわけで、企業単位でやられちゃうと、安全だということになっている米国国内での足並みが乱れてしまう。
Posted by: きだ | January 30, 2006 04:39 AM
きださん、コメントありがとうございます。
アメリカ政府が自ら動くことは考えにくいですね。とすると日本政府もです。だったら企業が動くしかないのでは、と思います。企業はビジネスのほうが大事ですし。これまでも契約農場みたいなのをやっているのですから、黙認さえしてくれればありうると思うんですがねぇ。
Posted by: 山口 浩 | January 30, 2006 09:25 AM