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January 14, 2006

基金の経営は安泰だな

大和証券SMBCは1月13日、三井住友フィナンシャルグループの株式を誤って売り注文を出したと発表した(ニュースはこちら)。三井住友FG株を三井住友海上保険株とまちがって売り注文を出したもの。損失は報道によれば約3億円とか。

「証券会社の管理体制が問われる」っていうお決まりのコメントがあちこちで聞かれるわけだが、そろそろそういう建前論から離れたほうがいいのではないか。

このところ、証券会社の誤発注が相次いでいる。なんてことを新聞なんかは書いている。昨年の12月8日が例のみずほ証券のジェイコム株誤発注、今年に入って1月4日に日興シティグループ証券で同社社員の個人的取引の際日本製紙グループ本社株を誤発注、で、今回、1月13日の大和SMBCによる誤発注というわけだ。約1ヶ月の間に3件。証券業界はたるんどる!ということらしい。

んなわけないでしょ。

事情を知らないで想像で書いているので、まちがっていたらぜひ教えていただきたい。誤発注は彼らにとってほぼ「日常茶飯事」である、というのが私の確信だ。上記の3件とも、システムの問題はさておき、誤発注自体が発生したのは、いずれも社員の操作ミスだった。取引システムにはむろん安全のための警告機能なんかが備わっているわけだが、これを無視して取引したという点も同じ。警告を無視したのは、それが当たり前だったからだ。事情はどの会社でもほぼ変わらない。要するに、1ヶ月に3件どこかで起きてもぜんぜんおかしくないぐらいのものだ、といみるほうが自然だ。みずほの場合ほど金額が大きいのは珍しいだろうが。

少なくとも、管理体制がなってないけしからん、という態度からは、申し訳ありません以後気をつけますという通り一遍の謝罪しか引き出すことはできない。その「けしからん」という批判自体が組織にとってその被害を最小限にとどめるべきリスクだからだ。それではリスクの存在を前提とした前向きな対応は期待できない。

このところこの種の報道が増えている理由は想像がつく。ひとつは報道の関心が集まっていて、これまでは黙殺されていた記事が表面に出てきたこと、もうひとつは証券業界としてもこの種の事故に対してナーバスになっていて、これまでは公表しなかったようなケースでも公表している、ということだ。事故の発生が増えたのではなく、事故情報の取り上げ方が変わったということなのだ。たぶん。

で、ここからが本題。というかネタなんだけど。

みずほ証券の誤発注事件の際、取引の相手方となった証券会社などを批判する声がよく聞かれた。これを受けて日本証券業協会は日本投資者保護基金の中に、システム障害を防止するための新勘定をつくる案を固め、現在準備をしているはずだ。この基金を、買い注文を出した国内外の証券会社からの利益返上をプールする受け皿とする。集まった資金は証券業界全体の基盤整備や研究調査費用に使うことを想定しているとか。

まあけっこう、な話だが、ここで、批判がどこへ向かっていたかを確認したい。やれ倫理はどうした、CSRはないのか、外資の陰謀だ(どこが!?)とかいろいろあった批判は、いずれも相手の誤発注に乗じたことそのものに対してだった。たとえば与謝野馨経済財政・金融担当相は「誤発注と知りながら、その間隙を縫って自己売買での株取得は美しい話ではない。」と発言したわけだし、大和総研の吉川満・資本市場調査本部長も「証券会社は資本市場を育成する立場にある。誤発注だということがわかった上での取引で得た利益であれば、法的には問題ないとしても、返還すべきだ」などと語っている。要するに、相手の誤発注には本来応じてはならない、応じて得た利益は自分のものにすべきではない、という考えと理解した。

さて、みずほ以降の事故、少なくとも今回の大和の事故も、発生の状況はみずほの場合とまったく同じ構図であることに、われわれは気づかなければならない。つまり今回のケースでも、誤発注に乗じて利益を得た証券会社が、その利益を自らのものとするなら、「美しくない」と批判しなければならないのだ。これが、与謝野大臣はじめ、「美しくない」派の皆さんの意見とならなきゃおかしい。みずほのときに利益放棄に賛成した国内証券会社の皆さんも。

さあ証券会社の皆さん、今回の大和SMBCの誤発注に乗じて得た利益は、投資者保護基金の新勘定に寄付しよう。当然、今後起こりうる誤発注の場合も同様だ。何せ美しくないのだから。

いやそれにしても、投資者保護基金はいい資金源を得た。これなら、資金供給が途絶えることはまずないだろう。みずほのときのような巨額の収入はめったにないとしても、今回のような「少額」の入金はコンスタントにあるはずだ。下手したら、むしろ使い道に困るほど集まるかもしれない。

個人のネット投資家の皆さんも、取引をしていてついまちがった発注をしてしまうことがあると思う。これからはもう安心だ。少なくもその誤発注は、自分の手元には帰ってこないが、相手の手には残らない。誤発注だといいさえすれば、「美しい」証券会社の皆さんが、そこから得た利益を必ずや基金に寄付してくれるだろうからだ。その金は、まわりまわって投資家の保護に役立てられる。いやあよかったよかった。

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Comments

私がキャピタルロスを被った株も「そもそも、あれのカイは誤発注だったんだぞ!」とかたくなに主張すれば基金が補てんしてくれるんでしょうね(爆

Posted by: McDMaster(マナル店長) | January 14, 2006 06:45 AM

McDMasterさん、コメントありがとうございます。
いや、基金は補填はしませんって。あくまで証券業界の発展のために使われるそうですから。間接的に投資家のメリットになる、ということでしょうな。

何なら、投資家同士で誤発注に乗じて得た利益をプールする基金を作って、互助組織にでもしたらどうですかね?交通反則金の互助会みたいのがあったと思いますけど、あれと同じでなかなか難しそうですがね。

Posted by: 山口 浩 | January 14, 2006 11:22 AM

>そろそろそういう建前論から離れたほうがいいのではないか。
本当にこの手のお決まりのコメントにはうんざりですよね。これは多くの人がそういったコメントを期待しているということの結果なのでしょうか?それとも当事者が、多くの人がそういったコメントを期待していると期待しているということなのでしょうか?

Posted by: イプログダイレクトの店長 | January 16, 2006 08:45 AM

イプログダイレクトの店長さん、コメントありがとうございます。
「~が問われる」は新聞記事の定番締めくくりですね。いってみれば「敬具」みたいなものかもしれません。意味的には、一種の婉曲表現でしょうね。「お前らが悪いんだ」「心がけがなっとらん」「責任とれ」「◎△×■※!」みたいなことばの代わりに書いてるんだと思います。
でも、それで問題の本質がすりかえられるのはあまりよくないな、と思いました。読む人は、「~が問われる」で溜飲を下げちゃう可能性がありますが、それじゃ困るわけです。
リスクマネジメントを本格的に導入するして、「失敗学」をちゃんと勉強して、しくみを作っていかないと。それでも根絶は難しいでしょうが、起きたときの対処法、責任のとり方も含めて考えておくことに意味があると思います。

Posted by: 山口 浩 | January 16, 2006 09:33 AM

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