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January 20, 2006

「松井教授の東大駒場講義録―地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る」

松井孝典著「松井教授の東大駒場講義録―地球、生命、文明の普遍性を宇宙に探る」、集英社新書、2005年。

帯に「東京大学では、こんなに面白い講義やってます。あなたも受けてみませんか!」とある。

受けてみたい!みたいぞ!

松井教授の専攻は地球惑星物理学。「惑星科学の第一人者」だそうだ。現在、東京大学大学院大学院新領域創成科学研究科教授。研究内容のキーワードをみると、「惑星集積過程、大気・海洋起源論、惑星の火山の噴火スタ、巨大隕石の衝突、 地球環境問題、生命の起源」とある。「噴火スタ」って何じゃい?グーグルでみてもこのページしかヒットしないから誤変換か?とまあそれはおいといて。

この本は、本郷にある東大大学院で教鞭をとる松井教授が、2005年度前期に久しぶりに駒場キャンパスの一般教養科目「惑星地球科学II」を担当したときの講義録がベースになっているとのこと。生命の普遍性を宇宙に探る「アストロバイオロジー」という分野に属するらしいが、話は宇宙レベルの大きなところから原子レベルの小さなところまで縦横無尽。物理学、生物学にとどまらず、文明論にまで及ぶ。カール・セーガンの「コスモス」()なんかが好きだった人にはたまらない内容のはず。現生人類に繁栄をもたらした固有の生物学的な特徴として、言語能力がよくとりあげられるが、「おばあさん」を挙げる人を他に私は知らない。

「コスモス」は1980年代初頭だったか。あの中には当時の最先端の科学知識が紹介されていたわけだが、あの時代から科学はかなり進歩していて、本書にはえっと驚くような情報がふんだんに盛り込まれている。たとえば、冒頭のあたりに出てくる「地球上の『生物圏』はあとどのくらい存続できるか?」などはどうだろう。「コスモス」のころは、数十億年先、太陽が水素を燃やし尽くして赤色巨星となっていく過程で、熱のために地球上の水や大気がすべて消えてしまうとき、というのが正解だった。しかし今では、それは正解ではない。「5億年ほど先」というのが現在の科学が示す答えだ。理由は、ぜひ本書でお確かめいただきたい。そのメカニズムは、地球温暖化と無縁ではないが、人間による温室効果ガス排出を原因とするあのいわゆる地球温暖化現象のために生物圏が消えるわけではない。読んでいて、私は驚愕のあまり夜中に「マジすか!?」と叫んでしまった。

こういう講義を受けられた東大生は幸せだと思う。今後もこの科目を松井教授が担当するのかどうかは知らないが、もし担当するなら、この講義を受けるために東大をめざす、というのは悪い選択ではない。実際に講義を受けた学生の評価はけっこう辛口のようだが(特に自由意見欄あたり)、これだけの内容を耳で聞いてもなかなか咀嚼しきれないかもしれない。その意味でも、この本には価値があるということになる。

すべての年齢の科学少年(もちろん少女も)におすすめ。

東大をめざしたくなっちゃった方は、こちらなども。

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Comments

即買いしました。

Posted by: いちる | January 23, 2006 10:10 PM

いちるさん、ありがとうございます。
ご堪能ください。
ついでに東大もめざしちゃうとか!?

Posted by: 山口 浩 | January 24, 2006 09:58 AM

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Tracked on January 22, 2006 08:41 PM

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