景気は悪いがデフレは終わり、株価は上がるがバブルではなく、金利上昇すれば株価は下がる、という話
毎回楽しみにしているnikkeibpの森永卓郎氏のコラム「小泉構造改革をどう生きるか」だが、どうも私の頭が悪いのか、第12回「『逆バブル崩壊』がやってくる今こそ株の買い時!~日銀の量的緩和政策解除が最大の懸念~」がよくわからないまま年を越してしまった。
わからないので、自分なりにメモをとるつもりで書いてみた。
原文を要約してみる。以下は、原文から本文の趣旨を変えないよう注意しつつ枝葉の文章を削除していった「幹」の部分だ。加筆や改変はしていない。
現在、ここまで株式市場がよくなったのは、景気が回復したからとはいえない。それは明らかに「デフレ脱却期待」が高まってきたということだろう。たぶん来年中には一気に日経平均2万円まで“高速道路”状態だと思う。
この株高をバブルとかプチバブルという人がいる。この株価はバブルではない。 実はこの株高は「逆バブル崩壊」の過程である。逆バブルとはデフレが解消し、資産価格が一気に上がる現象だ。
1989年12月29日の大納会の日がバブルのピークだった。当時、株価は3万8915円をつけた。いまは1万5500円台だ。割高とは全くいえない。
庶民はいまこそ株を買うべきだ。基本は中長期の分散投資である。後は株主優待の有無だ。お勧めは「乗り物系」「買い物系」「食べ物系」の3つだ。もうタイミングが遅いと思うかもしれないが、まだ間に合う。
最大の懸念材料は日銀が量的緩和政策を解除することである。小泉首相も自民党の中川政調会長も強く解除に反対しているのが救いだ。まだその時期ではないと私も思う。
ここまできてやっと少しわかりかけてきた。要するにこういうことだ。
・株価が上がってきてるが、これはバブルではないからもっと上がるぞ。
・だから株を買え。銘柄は株主優待で選べばいい。
・株価が上がっているのは、景気がよくなっているからではなく日銀の量的緩和政策による。
要するに日銀の量的緩和政策がうまくいってるという評価のようだ。もともとインフレターゲット論者だった同氏としては当然こうなるのだろう。量的緩和は日銀の政策だが、このあたりは政府と協調してやってきたわけだから、小泉政権の批判に日夜邁進している森永氏も、この点に関しては評価しているといっていいのかも。
で、何がわからないかというと、森永氏がインフレターゲット論なり量的緩和政策なりを主張していたのは景気回復のためではなかったのか?という点だ。そもそも景気回復のために何をやればいいかという点に関して、財政政策を発動しようという一派とインフレターゲティングを主張する一派、それに不良債権処理やら構造改革やらをすすめようという一派あたりの対立というのがおおまかな構図だったように思う(あくまでおおまか、ね。どれにも属さない訳わかんない人もいたけど)。で、森永氏はインフレターゲット派だったかと。
量的緩和によってインフレ期待をつくりだすことで消費を刺激し、景気を回復させるというのが筋書きのはず。量的緩和が功を奏してデフレからインフレに変わろうとしていて、景気の先行指標となる株価が動き始めた(しかもバブルではないというのだ)のに、景気が回復したわけではないとはこれいかに。今はまだだけど期待が変わってきたから今後景気も回復してくる、という意味なのか?だったら「時間の問題」なのだから景気回復の兆し、ぐらいにいってもよさそうなものだが。
小泉政権の政策では景気は回復しないといってきた同氏からすれば、そう簡単に景気が回復してもらっては困るのかもしれない。とはいえ、客観的な情勢はだんだん同氏に不利になってくる雰囲気。なんか、微妙に路線変更の布石を打ち始めているように思えるのは気のせいか?
いや、まあいい。情勢を迅速に把握することはエコノミストにとって必須の才能だし、「君子は豹変す」るのも才能のひとつ。むしろ、森永氏が主張するとおり、株式市場については見通しが明るいのだろうという点に注目しておこう。「年収300万」の味方である同氏が「庶民」に対してこれだけ煽っているのだから。
同氏の最新刊がこれ。「スロー投資」だって!煽られたい方はどうぞ。
この種の本は賞味期限が短いのでお早めに。私自身は、こういう類の本を10年くらいたってから読むのが楽しみだったりするのだが(古本屋めぐりの大きな楽しみの1つだ)。
念のためだが、本サイト左サイドバーの下にdisclaimerがある。併せてお読みいただきたい。
Comments
どうも初めまして。bewaadさんの所から流れて参りました。
ネタとして面白かったので要約を流用させて頂き、トラックバックさせて頂きました。(もしご迷惑であればトラバも記事自体も削除致しますのでその旨お手数ですがお知らせ下さい。)
私自身は投資に失敗しても、同じような境遇にある人達の他山の石としてもらえればと思い、その記録もブログに付け始めてたりします。
要約文を読む限り、氏の言い様は決して年収300万円の人々の味方ではないと感じましたので書いてみました。
古本屋巡りの楽しみの一つ、私も同感です。
これからも立ち寄らせて頂きますので、よろしくお願い致します。
Posted by: 名無之直人 | January 05, 2006 01:04 PM
名無之直人さん、コメントありがとうございます。
森永氏の主張については、ぜひ原文をお読みください。私の文章は批判めいてみえます(実際考え方はかなりちがいます)が、この人の実力を認めた上でのものなので、単なる悪口ではありません。ちょっと苦しいのでは?というつっこみのつもりです。
「年収300万」については、同氏は所得再配分政策を強く主張するなど、かなりはっきりした考えをお持ちです。賛否はともかく、庶民の「味方」になろうとする思いはまじめなものだと思いますよ。ご本人の収入はそれよりひと桁大きいらしいですけどね。
古本屋めぐりの同士、とはうれしいです。今、バブル期に「バブルではない」と主張した本を探してます。あのころあんなにあったのに、なんで見つからないんだろう。
Posted by: 山口 浩 | January 05, 2006 03:24 PM
おくればせながら、あけましておめでとうございます。
森永氏の原文、読んでみました。
私の感想ですが... 氏のいうところの、スロー投資と
は... なんとなく、木村剛氏の "投資戦略の発送法"
に書いてある、Grow rich slowly と同じなのかな?
と思いました。だとすると、あおるというより、
どちらかというと、株で1億稼ぐというようなもの
と比べると、まっとうな部類ではないかと。
# 煽るというより、パクリじゃないの?という感想
# でした。森永氏を誹謗中傷する意図は、全くあり
# ません。単なる、個人的な印象です。
# 念のため。
ちなみに、私も、古本屋巡りは好きですが...
この5年程やっておりません。結婚してから
というもの、家のなかのかなりの部分を占拠
している、本の山に対する、嫁の目が厳しい
ので...
Posted by: ひろん | January 05, 2006 04:54 PM
ひろんさん、コメントありがとうございます。
「スロー投資」については、ネーミングがなんとも、ということで「!」をつけてみました。リンク先記事の記載内容は、いってみれば「王道」ですね。ベーシックなものだと思いますから、他の誰かのものと似ていても別に不思議ではありません。投信へのあからさまな不信は、ある意味業界のウラをご存知の上でのものとみましたが、銀行系シンクタンクの方としては「踏み込んだ」ポジションですね。
限られた家のスペースでは、古本屋はある意味「禁断の花園」かもしれませんね。私のところも本の山(文字通り)です。
Posted by: 山口 浩 | January 05, 2006 07:23 PM
森永氏の本文の方読んでみて、悪質な煽りでは無い事は分かりましたが、いろいろと肝心な点で感覚がずれているのは、もう実際の収入と所有資産レベルが違うので仕様が無いのですかね・・・。(追加突っ込みはトラバ記事の方に追記しておきました)
確かに最近の本屋にはバブル期は続くという本は消えてますが、デフレでも日本は繁栄するとか、200X年ハイパーインフレが来るとか、日米崩壊とか、予言された日付が過ぎた今からそういった本を古本屋で発掘すると、まず発行された日付を見て独りほくそえんだりしています。
いや、予想を外していても真面目に分析していて、今でも参考になるものは確かにあったりするのですがね。少数派ですね。笑
私の部屋も本と漫画本などで埋まっております・・・。
Posted by: 名無之直人 | January 06, 2006 12:11 AM
よーく考えてみたんですけど、
私のコメントは、Yamaguchi-san の言わんとして
いるところから、外れていたかと :-)
Yamuguchi-san wrote:
> 量的緩和によってインフレ期待をつくりだすことで
> 消費を刺激し、景気を回復させるというのが筋書き
> のはず。量的緩和が功を奏してデフレからインフレ
> に変わろうとしていて、景気の先行指標となる株価
> が動き始めた(しかもバブルではないというのだ)
> のに、景気が回復したわけではないとはこれいかに。
> 今はまだだけど期待が変わってきたから今後景気も
> 回復してくる、という意味なのか?だったら
> 「時間の問題」なのだから景気回復の兆し、
> ぐらいにいってもよさそうなものだが。
ハイ、賛成に一票です。私もそう思いました。
で、これもよーく考えてみたんですけど、森永氏の
年収300万円の「庶民」に対するアドバイスは、
ちょっとピントを外しているのではないかと...
というのも、例えば自分の後輩に年収300万円の
人が居たとして(フリーター、派遣の人などかな?
ニート君は年収0か...)、自分だったらその人にどんな
アドバイスをするかというと....
「株式に投資する前に、他にすることあるでしょ?
まず、自分に投資(スキルアップ)して、年収を
上げる努力をしなさい。」
その上で、
「でも、資産形成のスタートは、早ければ早いほど
有利なので、ノーロードのインデックスファンドを、
できる範囲で毎月、コンスタントに買い続けなさい。」
と、言います... たぶん。
Posted by: ひろん | January 07, 2006 08:10 AM
ひろんさん、コメントありがとうございます。
ノーロードといっても信託報酬はあるわけですし、それがとられるのがもったいないから個別株というご主張のようですね。あくまで想像ですが、ひょっとしたら森永氏は信託報酬を受託会社の一種の不労所得みたいに考えているのかもしれません。逆バブルだから銘柄選択はあまり関係ないとお考えのようで。
能力開発が先、というのは私も同意見です。ただ森永氏は「300万」を前提として生活設計せよといっているわけですし、上昇志向をはやす気はないのかもしれません。
Posted by: 山口 浩 | January 07, 2006 10:56 AM