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January 06, 2006

仮想世界における「政府」であるということ

先日Linden Labの人から聞いていた「Second Life」の話があったのだが、書くタイミングを待っているうちに、なんだか妙な具合になってきたという話がTerra Novaにアップされていた

といってもこれだけでは私以外には何のことだかわからないだろうが。

「Second Life」については先日何度か書いた(これとかこれとか)。いってみればアイテム課金のMMOGなわけだが、運営会社であるLindenの重要な収益源はゲーム内土地の販売収益だ。最近では直営のオークションサイトがあるため、ここを通じて販売していると聞いた。みるとUS$1,000ぐらいからのようで、けっこうなお値段だ。

で、先日Lindenの人から聞いた話というのは、Second Life内での移動手段に関する「ちょっとした」変更についてだ。もともとSecond Lifeにおいては、移動はTeleHubというサービスが提供されていた。3Dの仮想世界なのでその中をてくてく歩いて移動することももちろんできるのだが、TeleHubまでいくと希望のTeleHubまで一気に運んでくれる。「ポケットモンスター」でいえば「そらをとぶ」みたいなやつだ。Second Lifeにはゲーム内の不動産市場があるわけだが、このようなゲームシステムの下では、経済原則にしたがって、TeleHubの近くの土地はそうでない土地より高い価格がつく。そのほうが利便性が高いし、そうした交通の「ハブ」には人が集まるからだ。

ところが。

最近Linden Labは、Second Lifeのゲームシステムを一部変更し、TeleHubまでいかなくても、任意の場所から任意の他の場所に一気に移動できるしくみとした。いってみれば、インターネットのブラウザでURLを入力すればあるサイトから別のサイトに一気に移動できるのと同じだ。これにより、ユーザーの移動に関する利便性は大幅に向上した。ここまでが以前Lindenの人から直接聞いた話。しかしこの変更により、もともとTeleHub近くの土地を持っていたユーザーにとっては、土地の価値が下がるという被害が発生した。ゲーム内土地が現実通貨で取引されうるものである以上、これは現実通貨での損害が発生することを意味する。一部のユーザーは、Lindenからの事前の説明がなかったと批判した。これに応えて、Lindenは一定の条件つきでユーザーの土地を現金で買い戻す旨の決定をした、ということらしい。

現実世界の話になぞらえると、移動システムの変更は、いってみれば住民サービスを向上させるインフラ整備だ。高速道路が通るようなもの、ということになろうか。しかしこれに付随して損害をこうむる「住民」がいることがわかった。高速道路の近くに住む住民も、地価の低下などの損害をこうむるだろうが、TeleHub近くの不動産を持つユーザーもこれに似ている。高速道路付近の住民に対して、政府はどのような「補償」を行うだろうか。そうした決定をするためにはどのような手続きをとるだろうか。ゲーム内仮想世界の「政府」たるゲーム会社も、これに似た対応を求められる。ゲーム内経済が現実味を帯びるようになるとともに、ゲーム内「政府」も現実の政府に近づいていかざるを得なくなるのかもしれない。

そこまで「高度」な話でなくとも、アイテム課金制の下でのゲーム会社の責任、という論題はありうる。最近日本でもアイテム課金のゲームが増えているが、アイテムを購入したユーザーは、そのアイテムが永続的に使えることを期待する場合が少なくなかろう。ゲームシステムの変更によってそうしたアイテムの価値が減少したりなくなったりしたとき、ユーザーに対してどう対応するか。契約上の問題だけではない。契約上は問題がなくとも、ユーザーが離れてしまっては元も子もないし、説明のしかたを誤れば法的問題にすら発展しうる。Second Lifeの場合も、ゲームシステムは随時見直しされており、それによってアイテムが陳腐化したりすることは日常茶飯事だった。Lindenはむしろそれを半ば意図的に利用して経済のバランスを保ってきた(貨幣やアイテムの総量が増えすぎないようにするという意味)のだ。こうした配慮を他の領域まで拡大するのか、それとも特例にとどめるのか。「政府」の対応が注目されるところだ。

いずれにせよ、この件は、ゲーム世界における「政府」の役割が今後大きくなっていく方向であろうことを示している。よかれあしかれ、ゲーム会社は「政府」たることを求められるようになるのだ。いい政府になるか悪い政府になるか。「住民」から支持される有能な政府になるか「住民」が逃げ出す無能な政府になるか。考えなくてはいけないことはたくさんありそうだ。

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Comments

#あけましておめでとうございます。昨年は「『ゲーム内経済学』という考え方」講演でお世話になりました。お渡しした音声データはどうでしたでしょうか。

リンク先のTN記事をナナメ読みしました。公営?オークションでは、だいたいUS$0.02/平方メートルから入札開始になっているみたいですね。それを10Linden$/m2で買い戻すのが妥当な線なのかどうか、US$-L$のレートもわかりませんし、時系列的な事件の経過もわからないので、判断しかねるところです。

主題の「政府」という点で考えた場合、やはり現実世界同様に、新システム導入にいたるまでの法案提出→(予算化→)可決成立というような、明快な規定に則った調査/説明責任の履行と「住民」によるフェアな合意形成システムを整備して臨まなければ、仮想世界として不十分だということになっていくのでしょうか。(なんだか、「利益誘導代議士」とか「インサイダー」とか、もろもろも付随して発生しそうな気がします)
それと、US$へ再変換可能であるという「重み」があるにせよ、「住民」の「政治」参加意識や高い投票率?、そしてフェアな過程を経て成立した結果であれば、それを受容してくれる(住民であることをやめない)ことを期待できるものなのでしょうか。
いずれにせよ、「運営」は2重の意味で透明化していかざるを得ないとしても、「開発」の位置づけが気になります。パワーバランス的にどのあたりで線引きするべきなのか。オープンソースプロジェクトのコミッター、あるいは大統領の拒否権みたいな感じ? それとも官僚として行政執行に徹するのみ?

Posted by: stanaka_r | January 06, 2006 04:51 AM

stanaka_rさん、コメントありがとうございます。
その節は貴重な情報とご意見をありがとうございました。音声データはよく録れていたのですが、内容のほうがどうも恥ずかしいもので、今ひとつ公開するに値するのか迷っています。
で、この件ですが、本当の「政府」ということになれば、ご指摘のような手続きの透明性とか説明責任とかいろいろややこしいことがでてきます。正直なところ、ゲーム会社の方々にはここまでするお考えはあまりないのではないかと思いますがいかがでしょう?現実の国家とは「財政」規模もちがいますから、そこまでしていてはコストに見合わないのではないか、とも思います。どのあたりならユーザーが納得するのか、どの程度のコストなら喜んで負担するのか、いろいろ考えていかなければならないのでしょうね。

Posted by: 山口 浩 | January 06, 2006 10:33 PM

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