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February 25, 2006

こういうの前にもあったよなぁ、という話

以下は、予測でも予言でもなく、期待でも分析でもない。いってみれば、思い出話だ。同じようなことを多くの人がさまざまな場所でいっているので、なんら新しくも珍しくもない話だが、最近妙によく既視感のある光景を見かけるので、記録のためにも自分の文章として残しておこうと思った。

そのころ、景気は悪かった。少なくともそういわれていたし、そういう認識でいた人のほうが多かった。特に中小企業は経営が苦しくなり、中でも地方では声高に危機が叫ばれた。日銀短観もあまりよくない数字を示している。政策対応が必要だ、との声が高まる。しかし国の財政に余裕はなかった。公共事業の大盤振る舞いはできない。自然、期待は金融政策に集まる。金利は歴史的な低水準に抑え込まれた。しかし金融緩和も、積極財政と同じですぐにその状態に慣れてしまい、慢性化して、なかなか抜け出せなくなる。一般的にいえば、マネーサプライが増えればインフレが起こるはずだ。しかし海外から安い製品が輸入されることもあって、インフレは起きない。

結果として、だぶついた資金は資産市場に流れ込む。23区内の不動産価格が上がり始める。上がったり下がったりはするが、株式市場も総じて堅調だ。どうも一部リゾート地の不動産がけっこう活発に取引されているらしい。海外旅行者数も増えてきたようだ…と、ここまでは、新聞やテレビでみかける類の話。

そのころ街中では、株式投資の本が書店で目立ち始めた。「資産運用セミナー」があちこちで開かれる。周囲で「株を始めた」という人が増えてきている。大卒者の採用を拡大する企業が増え始めた。一方で、不景気で会社が倒産した人の話、生活が苦しくてという主婦の嘆き、公園で暮らしている人たちへの支援活動、なんてニュースもよくみた。自分としても、生活水準が上がってきたという実感はなかった。

以上は1985~86年ごろ、バブル直前の「円高不況」といわれたころを思い出したものだ。かつて堺屋太一が経済企画庁長官だったころ「夜明け前が一番暗い」と語ったが、確かにこの時代、世相は「暗い」といわれていた。新米サラリーマンにとって、生活実感はまさに「不況」だった。しかしバブルの端緒となった株価や都内の不動産価格の急上昇は、円高不況の最中に起きていたし、「それ」に気づいている人は、今から思えば少なくなかった。

その後日本経済に何が起きたか、についてはよく知られているだろうから書かない。生活実感的なところだけ書いておくと、その後しばらくして、新聞折込広告に「土地求む」のチラシが入り始めた。郵便受けにも、マンションを売りませんかという手紙が届いている。誰にでも送りつけているというわけではなく、どうもわざわざ登記簿を調べたらしい。リゾートの土地や別荘、スポーツクラブなどの広告もどんどん増えてきた。海外旅行が空前のブームになる。夜遅く駅に着くと、タクシー待ちの行列がなんだか長い。新しく創刊される雑誌が、どんどん「派手」になっていった。「成功者」への注目が高まり、「時代の寵児」があらわれては消えた。

どうも最近の動きをみていると、もう「夜明け前の暗さ」から、この段階へ進んできているようにみえなくもない。「不動産を売りませんか」という広告やチラシは増えているし、タクシー待ちの行列も長くなってきた。男性向け雑誌でいうと、最近創刊された雑誌、たとえば「LEON」やら「OCEANS」や「GOETHE」なんかの作りは「Gulliver」(1989年創刊)やら「CADET」(1990年創刊)など、バブル絶頂期さながらだ。かの森永卓郎氏も「株価2万円」なんていってるし。

いや別に煽ろうというのではない。「前回」とちがう要素も山ほどある。人口はついに減少に転じたし、オフィス市場がかつてのように逼迫する見通しもない。「土地神話」なんてのもなくなった。第一、まだ人々も政府も「あのころ」を覚えている。同じようなことにはならないのではないか、と思う。思うのだが、一方で「当時」を知らない人も増えているし、一部には本当に煽ろうとしている人もいる。「バブル待望論」は、バブル崩壊当初からくすぶっていたのだ。「今こそ」と色めき立つ人がいたとしても不思議ではない。そして何よりも自分自身が、実際に経済情勢が「ブーム」の側にあることを、今度は実感として感じ取れる程度にはなった。

特にオチをつけるつもりはないので、ここでやめておく。繰り返すが、思い出話だ。

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Comments

>夜明け前が一番暗い

これは堺屋さんの勘違い表現だと思います。
本来は「夜明け前が一番寒い」ですね。そうでないと理屈に合わない。夜明け前が一番暗いわけないもの。
だけど、有名人が言い間違えると、それが一人歩きして誤った表現が正解のような顔になってきますね。グーグルで検索してもそうでした。

Posted by: 佐藤秀 | March 01, 2006 09:21 PM

佐藤秀さん、コメントありがとうございます。
そりゃそうですね。ぜんぜん気づいてませんでした。ま、いいたいことはわかるから問題ないし、まあご愛嬌ですね。

Posted by: 山口 浩 | March 01, 2006 09:25 PM

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