「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」
梅田望夫著「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」ちくま新書、2006年。
いただきもの。発売まで言及するなとのお達しだったので、本日解禁。
帯に羽生善治さんのことばが載っている。
これは物語ではなく
現在進行形の現実である。
グーグルとネット社会の未来について、
希望と不安が見えてくる。
いろいろ深読みもできそうな、なかなか味わい深いことばだ。内容はというと、基本的には梅田式ウェブ論のまとめ。個別のアイテムをとれば、梅田さんのブログの愛読者はすでに読んだことのあるものも少なくない。しかし、本というコンパクトなかたちで、体系をもって提示されることの意味は大きい。この本が私たちに与えてくれるものは「知識」ではなく、「思想」だからだ。知識はデータだが、思想は体系。梅田さんのブログ記事のプリントアウトを集めて再構成しても、私にはこの本を書くことはできない。そういうことだ。同じ意味で、Google礼賛にみえる部分もあるが、本書の本質はその見解そのものではなく、その見解に至った「思想」にある。
本書のテーマは「立ち位置」が難しい。想像だが、テッキーな皆さんからは「食い足りない」という感想、どリアルな皆さんからは「むずかしくてわからない」という感想が聞かれるだろう。それもそのはず。そもそもこの本は、そういう人たちと、そうでない人たちをつなぐために書かれたものだからだ。これは、いうはやすいがめちゃめちゃ難しい。何しろ、「お互いに理解しあうことのない二つの別世界」の人々に同じ文章で語ろうというのだ。なまじ同じ言語であるがゆえに理解しあえると思うところに落とし穴がある。ちがうのは「文脈」というか、「価値観」なのだ。
というわけで、この本は、どちらのタイプの方にとっても多少の「我慢」を要求する。するわけだが、同種の目的をもった他の本と比べて、本書はかなり「いい線」をいっていると思う。おそらくは年配の、どリアルな皆さんには、各章の内容をていねいに読み込むことをお勧めする。わからないところは飛ばしてもいいが、また後で繰り返して読めばいい。テクニカルタームはわかる人に聞こう。なぜこんな書き方をしているのだろうと思ったところがあったら、そこが「ポイント」だ。頭をやわらかくして、シンクロさせるつもりで意味を感じ取ってみよう。新しい世界観が開けるかもしれない。
若い方々は、当たり前のことをくどくど書いて、と思うかもしれないが、最低でもこのぐらいは書かないとわからないのだ、「彼ら」は。なんだかんだいっても、世の中ではそういう方々が力を握っている場合が多い。彼らを説得しなければならない方々は、この本をよく読んで、そういう人たちと話をするときの参考にしよう。それから、まだそういう立場におかれていない人にも、終章とあとがきは特におすすめ。終章からキメのことばを引用。
モノが見えてなくて良かった。今、心からそう思うのだ。
ウェブに関わるすべての人に。
※リンク(2006/2/8追記)
いや、さすがに反応が大きいな。考えもいろいろ。ガ島通信さんはやや引いた立ち位置から無難な論評。404 Blog Not FoundさんはGoogleの影の部分により強く注目している。なるほど。ただ素人の私には、Google万歳論とGoogle危ないぞ論は表裏一体のGoogleセントリック論というか、そんなふうにみえなくもないので、どちらも少し割り引き気味になってしまう。R30さんはこの本を「どリアルの人」向け解説本とみているようだが、私としてはどちらかというと「若いやつらがんばれ」のほうに着目したいな。いずれにせよ、「この本に書かれていないこと」の解説は私ごときの手に余るので、皆様のブログをご覧あれ。
ガ島通信「■[イベント]「ウェブ進化論」出版記念イベント感想」
404 Blog Not Found「 ウェブ善悪論」
R30:マーケティング社会時評「書評『ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる』・上」
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Listed below are links to weblogs that reference 「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」:
» [イベント]「ウェブ進化論」出版記念イベント感想 [ガ島通信]
「[http://d.hatena.ne.jp/gatonews/20060205/1139142704:title=第一部楽しみ]」とか書いておきながら遅刻しました…。会場に入ったところは、ほとんど第一部終了間際で、R30さんのトークは爆裂しなかった模様?です。第二部で面白かったところは、SNSに関する議論で、オープンとクローズドの違いを梅田さんは指摘していました。 ISBN:4480062858:detail で書評なのですが、R30さんによる上・下に分かれた壮大な書評がありますので、簡単... [Read More]
Tracked on February 08, 2006 02:01 AM
» ウェブ善悪論 [404 Blog Not Found]
本日Amazonより到着。
ウェブ進化論
梅田 望夫
My Life Between Silicon Valley and Japan - 「ウェブ進化論」: あとがきの一部、発売日の東京でのイベント2月7日に「ウェブ進化論」が発売になります。
... [Read More]
Tracked on February 08, 2006 05:46 PM
» 「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」を読みました [fareaster]
梅田氏が今までBlogなどで書かれていたことをまとめた本「ウェブ進化論―本当の大 [Read More]
Tracked on February 08, 2006 11:08 PM
» 「ウェブ進化論―本当の大変化はこれから始まる」 [yoshi--blog.seesaa]
いろいろな方がこの本に対してブログを書いていて、まずは書いとかないとということで、まだ本は読んでないけど書くことにした(笑)。 梅田さんの "My Life Between Silicon Valley and Japan" はちょっと前(年末くらいかな…)から面白く読ませてもらっていて、「シリコ..... [Read More]
Tracked on February 15, 2006 06:44 AM
» 書評・ウェブ進化論 [スポンタ通信。 …スポンタ中村です。]
mixiにレビューを書いた。
梅田氏のブログにコメントを書いた。梅田氏からスルーされた。
この感慨から直感すると、
梅田氏がこの本で描いた、総表現社会の時代はこないとおもうし、結論ともいえる脱エスタブリッシュの時代もこないと断言する。
私は、根本的なことを指摘しただけで、厳しいことを書いたわけでもないし、フレンドリーに書いたつもりなのだが…。
このフェイズにおいて、私が非エスタブリッシュの側であり、梅田氏がエスタブリッシュの住人であることは明らか。といってしまえば、分かってもらえるだろうか…。
... [Read More]
Tracked on February 15, 2006 08:49 PM
» ネットの進化の速度は速い方が良いか、遅い方が良いか [ニュースコミュニティ - FPN]
Tech Mom from Silicon Valley - Web2.0と対立する2つの世界(その1) Web2.0の世界は広がりうるのか?を読んで。 先日の梅田さんの出版記念イベント以来、「進化の速度」というキーワードが、ずっと引っ掛かっているのですが、関連して興味深い連載が海部さ...... [Read More]
Tracked on February 17, 2006 09:25 AM
» [書評]梅田望夫「ウェブ進化論」〜その三:表現狂時代の到来? [けろやん。ブログ。]
優しさの具体例ですが、キーワードは、総表現社会への希望です。総表現社会というのは、いつの時代に起こっても不思議のない社会であり、実際に起こっていたでしょう。しかし、インターネットの発達によって、伝達速度・空間が爆発的に向上した。アマチュアが、文章を書き、絵を描き、あるいは音楽を録音してインターネット上に公開する。それ自体は、本書でも述べられているようにインターネット黎明期から、既に存在していた現象です。と、ここまでは、歴史のおさらいで・・・。 この段階では、人の目に触れる場(=可能性)... [Read More]
Tracked on February 25, 2006 02:16 PM
» コラム風書評:ウェブ進化論−−本当の大変化はここから始まる [ハニーポッターの部屋]
ここ数日,広島の片田舎でこの本をさまざまな人に紹介している。エスタブリッシュな方,若手の技術者,感度の高いWEB開発者,さまざまな人に紹介しているが,私がこの本をそういった方々に紹介している理由は,この本が1995年に出た[http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004304164/joujisetsuzok-22/:title=村井純『インターネット』]に相当する本だと感じているからだ。 1995年,インターネットがやっと目利きの人たちに認知され,N... [Read More]
Tracked on February 27, 2006 12:57 AM
» 誰もやったことがないことをしよう ~trin.jp と『ウェブ進化論』~ [TANAKA BLOG]
昨日すこしがんばりすぎて山を越えてしまったせいか、今日はすこぶるメンタル的に調子... [Read More]
Tracked on March 11, 2006 12:51 AM
» ウェブ進化論 [オタク生活を晒すブログ]
yahooで「ウェブ進化論」を検索してみると最初の方にごそっと本がいっぱいでてきますねぇ。 何かと思えば 「ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる」 作者: 梅田望夫 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2006/02/07 メディア: 新書 出版社/著者からの内容紹介 インタ..... [Read More]
Tracked on March 12, 2006 04:39 PM
» BOOK 「ウェブ進化論」 梅田望夫 [くりおね あくえりあむ]
今まさにこの時に発刊されるべき「旬」な本というものがあるならば、2006年初めのこの時期は梅田望夫氏の「ウェブ進化論」だろう。 この本が発売された2月7日から今 [Read More]
Tracked on March 27, 2006 01:20 AM
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