「イタリア男」を減らせば子どもが増える、という話
全国1千万人(?)の○○○○評論愛好家の皆さん、待望の日下公人氏新作コラムだ。「現実主義に目覚めよ、日本!~グローバル・スタンダードの罠に陥るな!~」の第17回「『意』のある本格的な政策を国民は求めている」は必読。
毎回期待を裏切らないこのコラム。ガ島通信ふうにいえば「自爆炎上モデル」型の突っ込みどころ満載ながら、さすがに大物、ちょっとやそっとではびくともしない。この圧倒的な存在感。いやすごいなまったく。
今回のコラムのテーマは「意」のある「本格的な政策」。2006年の政策の方向性について語っている。戦後内務省がつぶされたために本格的な政策研究をする機関がなくなったという指摘はまあ措いとく。まあ軽いジャブだ。
本題は、「2006年は「意」が大事になってくると思う」というところから。「知」と「情」と「意」のうち、今は「意」がないがしろにされている、と。展開をちょっと追ってみる。
・立派な人間になるためには、「知」と「情」と「意」と三拍子揃う必要がある
・日本も昔は「知」「情」「意」と、小学校のときに3つそろえで叩き込まれた
・今は「情」は欠いた「知」だけの人が「秀才」「エリート」といわれる
ここまではまあいい。よくある年寄りの嘆きだ。そんなに昔の教育がよかったのなら、なんで現代の日本人が恥じなくてはならないふるまいをする人がいたんだろう、なんてつっこみをするのも無粋。
・人情がない人は「意」がないから問題だ
・会社は「意」がない人ばかりを採用してきた
・だから僕は「日本の大企業は今につぶれるぞ」と強く言ってきた
はいはい。日本の大企業の大半はつぶれてないが、あくまで「まだ」ということだな。「必ずあたる予言」だ。これもまあよくある話。
本領発揮は次のあたりから。
・これまで日本は偏差値中心主義で「知」だけで人を見ていたが、「意」のほうは伝統的に残っていたから、うまくいっていた
「意」がない人ばかり採用してきて「今につぶれる」はずの企業で「意」がどうやって残るんだ?企業の話から移ったのか?
・それから「情」のほうもたくさん残っていた
あれ?じゃあ「知」「情」「意」三拍子揃ってるじゃん。立派な人間じゃん。ちっとも悪くなってないじゃん。やあ安心じゃないか日本は。いったいこれはどう解釈したらいいのか。凡人にはなんとも。
こんなもので感心してはいけない。さらにここからドライブがかかっていくのだ。
・小学校の先生は女性比率が昭和40年代に50%を超えた
・女性は優しいことを教えるから、「情」の教育は少し過剰になった
・先生が優しいことばかりいうから、生徒はやるべきことをやらずペーパーテストだけよくできる
・そういうふうに育った男性が多くなったからお嫁さんが来ない
◎■※△◇!?
女性教師は、のくだりもさることながら(これって「女性教師が少子化の原因」と言っているに等しいと思うのだが)、4番目の「お嫁さん」のほうに注目。この飛躍はすごい。「知」「情」「意」なんてどこかへふっとんでしまった。それとも三拍子そろってないとお嫁さんは来ないのだろうか。未婚男性の皆さんこれは一大事だ。
このあたりですでに圧倒されてる方もいるだろうが、まだ早い。真骨頂はここからだ。話はいつの間にか少子化問題へと移る。日下先生絶好調!
・赤ん坊の数が減ったのは結婚しないからだ
・なぜ結婚をしないのかというと、「いい男」と「いい女」がいないからだ
・だから政府はいい男、いい女をたくさんつくる政策をとるべきだ
・具体的には、男女別学が必要だ
最初の点は、既婚者の合計特殊出生率が減っていないという話だな。2番目の点は、まあanecdotalな話だ。で、日下先生、これを真に受けて「いい男、いい女をたくさんつくる政策」を提唱している。どんなのだ?と思ったら、これが男女別学だ、ときた。ええっ!?その根拠はというと、「男女を一緒にしておくと、感激がなくなってしまうから、別学にしようなどという話が父兄の間で出ている。それを文科省も取り上げればいいと思うのだが……。 」だって。その「父兄」って誰じゃい!「父母」じゃないのかい!それが「本格的な政策」の決定のしかたかい!「内務省がつぶされたために本格的な政策研究をする機関がなくなった」という嘆きはどこへいったんじゃい!
息つく暇もなくクライマックスへ。引用する。原文で味わっていただきたい。
そういうことについて、ポール・ウォーレスというイギリスのテレビ局の解説者兼学者は次のようなことをいっている。 「ヨーロッパの子どもの生まれる割合を見ると、イタリアが最低である。出生率は1.1で、イタリアは子どもが生まれない国になった。少子化の対策を取ることはヨーロッパ中、どの国もやった。児童手当とか減税とか、だいたい同じことをした。その中でちゃんと効果があって長続きしているのはスウェーデンで、効果がいっぺんで消えてしまったのがイタリアだ」 つまり、少子高齢化対策としては、イタリア男のような男をつくってはいけないのだ。スウェーデン男がよいと、ポール・ウォーレスは書いている。スウェーデン男とイタリア男の違いは、僕はわからないけれど、ポール・ウォーレスにならうなら、日本中の男がイタリア男になってしまったのかなと。そういうほうが問題の本質を突いているんじゃないか。こういうほうが本格的な政策研究だと、僕は自信を持って言う。
おおーい!「日本中の男がイタリア男」ってどういう意味だぁー!「スウェーデン男とイタリア男の違い」がわからないのになんでそれが「問題の本質を突いてる」ってわかるんだぁー!なんで「出生率」の問題が「男」の問題になってしまうんだぁー!そもそもこれって「政策研究」なのかぁー!なんでこんな根拠で自信がもてるんだぁー!!「知」「情」「意」と何の関係があるんだぁー!
…ふぅ。
こういうのは「名人芸」とでもいうべきなんだろうか。この境地まで至るには、あと何年ぐらい修行したらいいんだろう。日暮れて道遠し、というか何というか。
というわけで、イタリア男を減らせば少子化問題は解決するそうだ。よかったね。
どうやって?んなこと私にわかるはずもない。最近人気のこういう雑誌がいかんのか?いやこれは「イタリア男」じゃなくて「イタリアオヤジ」だろう。「イタリア男」でぐぐって3番目にヒットしたこちらのサイトをみると、イタリア男にはマザコンが多い、とある。一方、「スウェーデン男」でぐぐって1番目に出てきたこちらのサイトをみると、スウェーデン男はかなり「健全」であるらしい。ふうん。わかったようなわからないような。こういうことをいってるのかね日下先生は?
あとは、皆さんでお考えいただきたい。「日本のイタリア男撲滅政策」に関する本格的な研究ってやつをやっといてくれ。イタリア人男性の皆さんには、日下先生の分も含めてお詫びしておく。失礼なことを書いて申し訳ない。一種のジョークだと思ってお許しいただければ。だいぶたちが悪いとは思うが。
あまりの「名人芸」にあてられて、私はちょっと疲れた。もう満腹。本当は、返す刀で「日本だけで“メル友”が蔓延している理由とは」の京都大学霊長類研究所正高信男教授もいじってやろうと思っていたが、とても気力が続かない。こちらも負けないぐらいおいしいネタなので、どなたかぜひ代わりにやっていただければ。
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Comments
こんにちわ。
日下氏のコラムを紹介する冒頭のリンクの文字が「現実主義」ではなく「現場主義」になっています。
Posted by: tun | February 12, 2006 06:53 AM
tunさん、ご指摘ありがとうございます。
確かに。さっそく修正しました。
Posted by: 山口 浩 | February 12, 2006 09:58 AM
いつも、楽しく拝見しております。この方といい、エコノミストのM永氏といい、どうやったら、こんなとんでもない発想が出てくるのか、私などには到底理解できません。この方達は、時計の針を逆に回転させることができるとでも、本気で思っているのでしょうか?
Posted by: nash | February 13, 2006 11:48 AM
nashさん、コメントありがとうございます。
まちがいなく、ご自分では確信をもって語られているはずです。いずれも名のある方々ですから、私などには思いもよらない深い思慮があってのことかとは思います。などと建前をいってもしかたないのですが、少なくとも、これらのご意見がぴったりフィットする層の人々が社会にはたくさんいる、ということだけはいえます。そういうことを理解したうえでないと、世の中の動きはよくわからないことが多いのではないかと。
Posted by: 山口 浩 | February 13, 2006 01:27 PM
山口さん、こんにちは。
この方の著書は一度も読んだことがないのですが、原文を読むとどうも口述筆記のように感じられます。言葉にとても「気持ちよい」勢いとリズムを感じるもので。もちろん「気持ちよい」のは本人(と、いたとしたらそれを聴いている賛同者)だけでしょうが。つまり、「放談」かと。(もしこういう文体の方なのだとしたら早とちりすいません。)
最後のパラグラフではムーンサルト並みの三回転半ひねり宙返りで「意」と「政策研究」の話にかろうじて戻してますが、もうすでについていけません。で結論は「小泉変えろ」。女性教師の弊害やイタリア男はどこへ行ったのでしょう。
こういう方を「代弁者」としてありがたがる人たちがどこにどのくらいいるのか、ちゃんと見ておかないといけないんだろうなと思います。
Posted by: くりおね | February 13, 2006 05:15 PM
くりおねさん、コメントありがとうございます。
なるほど、確かに口述筆記っぽい感じの文章ですね。何しろ大物ですし、充分ありえますな。こういう「おじいさんワールド」も食わず嫌いせずかじってみるとなかなか奥深いわけです。正高信男先生のもかなり行っちゃってますから、ぜひお楽しみいただければ。
Posted by: 山口 浩 | February 14, 2006 01:18 AM