「虚業」について思うこと
「虚業」関係が騒がしい。別にその騒ぎに参加したいとは思わないのだが、ひとことだけ、地面に穴掘って言ってみたい気がしている。
大辞林には「〔「実業」からもじって作られた語〕投機的な堅実でない事業。大衆をだますうさんくさい事業。」とある。ライブドアについて、虚業だとかいや虚業でないとかいろいろいわれているが、議論が錯綜している原因の大半はおそらく「虚業」が何を指しているかに関する混乱にある。
いくつかみてみたのだが、「虚業」派の中でも、ちゃんとものを考えていると思われる方々の書いたものは、明示的かそうでないかの差はあるが、ライブドアそのものを「虚業」といっているのではなく、その経営陣によるいわゆる犯罪行為(の疑い、ね。今のところ)を指している。だから、これに対して「ライブドアのIT事業は虚業ではない」と反論することは、「ライブドアのやっていることはすべて虚業だ」というのと同じ意味で、ポイントをはずしている。
とはいえ、そもそも「虚業」ということば自体が、「正しい」意味(上記の大辞林の定義をそうだとするなら)がどうなのかはともかく、いろいろな意味で解釈され、さまざまな意味で使われているのが現状であることは、はてなキーワードに出ているこのことばの定義をみてもわかる。ことばは生き物なわけだし、意味が変わりつつある途中、なのかもしれない。
じゃあ実際のところどう使われてるのよ、ということでいうと、「虚業」を「額に汗しない仕事」と解し、「世の中に価値を生み出さず、カネを右から左に流すだけの事業」と翻訳している言論が少なくないように思うがどうだろう。ライブドアの業務がどの程度この定義にあたっているのか私は寡聞にして知らないが、たぶん私の知っているある業界は、この定義に少なくとも部分的にはあたると思う。「虚業」ということばこそ使われていなかったが、ある大昔の本ではとても悪く書かれていた職業だ。
現在その業界は、年0.1%に満たない利子をつけるという契約で顧客から金を集め、そのうち約1/3を国債を中心とする有価証券に投資して1%弱の収益を挙げ(これなどは「カネを右から左へ」以外の何者でもないな)、残り2/3の大半を、債権保全にほとんど手のかからない大企業と、充分な担保で保全された中小企業や個人に対して貸し付けて2%弱の収益を挙げている。およそまじめに競争してるとは思えないほどlucrativeな手数料収入も魅力。おまけに経営が傾くと国から金が降ってくる。おかげで、平均年齢の差を差し引いても、ライブドアよりはるかに高い給与を社員に払い続けることができる。どこの業界かわからない人がいるかどうか知らないが、もしいたら、自慢していいと思う。「虚業」から遠いところにいることの証明だからだ。
要するに、何か話をするときには、自分が何について話しているのかはっきりわかった上でないといけない、ということだな。
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Comments
いや、いや、まさに痛快です。
金貸しとか、株屋とか、もっと古く言えば商人とか、「額に汗」が現れないことに、ヤキモチを焼きたいのが半分でしょうか。
ダン子飼さんが、朝まで生テレビで「テレビ局は実業ですか?私はお百姓さん以外は皆虚業だと思います」と言ったときに、他のパネリストがキョトンとしていたのを、いまでも鮮明に思い出します。
Posted by: イプログダイレクトの店長 | February 15, 2006 07:11 AM
おおよそどんな手段を使っても利益を上げるにはそれなりのリスクやらコストが必要になりますから、なんの代償もなしに濡れ手に粟、なんてことは現実にはありえないというのが事実ではないでしょうかね。極端な話、違法行為で儲けるにしてもそこにはお縄になるというえらいリスクが常に伴いますから。普通の人はリスクのかわりに労働コストを投入するんでしょうが、それが「額に汗」だけではあまりにも視野が狭すぎますよね。
Posted by: すなふきん | February 15, 2006 12:28 PM
コメントありがとうございます。
イプログダイレクトの店長さん
dankogaiさんがそんなことを言っておられたのですか。私聞いてませんでした。そのときは眠ってしまっていたのかも。どの職業がいいとか悪いとかの議論そのものより、雰囲気だけ合意してそれぞれちがうことをべちゃべちゃ話し合ってる雰囲気がとてもきらいです。
すなふきんさん
「額に汗」は思考停止ワードですね。いろいろまぎらわしいのでできるだけ使用しないほうがいいと思います。
Posted by: 山口 浩 | February 15, 2006 02:48 PM
個人でも、国債とか買えるようになってきたので、状況は変わってるんでしょうね。
職業をどんな理由で選ぶのかは、価値観が出て、興味深いです。
Posted by: ひろ | February 17, 2006 01:14 AM
ひろさん、コメントありがとうございます。
自分の選んでいない職業に対して厳しくなるのはある程度しかたないのでしょうが、一方的に「虚業」と決め付けられるのには抵抗感のある人、多いと思います。おっしゃるとおり、価値観がからみますよね。
Posted by: 山口 浩 | February 17, 2006 02:35 AM