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March 15, 2006

これはやっぱりスジちがいだと思う

ライブドアに投資した株主たちが損害をこうむったという話が多く報じられてる。「被害」金額からいえば、フジテレビがその筆頭なんだろうか。まあ大きな会社はともかくとして、個人株主で悲惨な例が新聞なんかで報じられてたりするのをみると、なんともお気の毒だと思う。

思うんだけどさ。

気になったのは、2006年3月14日付朝日新聞に出ていた記事。タイトルは「ライブドア上場廃止 老後資金も投資、株主の悲痛な声」とある。気になる部分を引用しておく。

東京都内の無職女性(79)は昨年暮れ、証券会社の勧めでLD株を買い、1週間で100万円の利益が出た。さらなる値上がりを期待し、7000株を買い増した。
 東京地検の家宅捜索後、眠れない日が続いた。2月に売って500万円の差損が出ると、蓄えがほとんどなくなった。同居している息子家族のために自宅をリフォームするつもりだったが、できなくなった。
 パソコンは持たない。情報源はテレビと新聞だけ。証券会社から電話で言われるままに売り買いしていた。「何とか挽回(ばんかい)しましょう」。むなしい言葉を最後に営業マンの電話は途絶えた。

何が気になるかわからないのは、子供とこの記事を書いた記者(と、この記事を通したデスクの人)だけだろう。確かに悲惨なケースだが、この結果を招いた責任を最も深く負うべきなのは誰か。いうまでもない。

証券会社の営業マンだ。

500万円そこそこの蓄えのほとんどを1社の株式につぎ込ませる。しかも顧客は79歳と高齢で金融知識もなく、職業にもついていない。営業マンからいわれるままに売り買いするスタイル。これが本当なら、これはあきらかに適合性の原則違反だ。

適合性の原則とは、「投資勧誘に際して、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして適当と認められる取引の勧誘を行わなければならないというルール」をいう。証券会社は必ず、勧誘方針の中にこれを守るという条項を入れているはず。それはこれまでの数々の被害事例をふまえて導入されたものだ。それなのに、まだこんなことをやっているのか。当然ながら、これは営業マンの使用者である証券会社の責任でもある。

ライブドアに関連するニュースでは、ライブドアの責任を問う動きばかりが報じられるが、このケースの悲惨さは、あきらかにライブドア自体とは関係がない。どの会社の株式でも、違法行為があろうとなかろうと、無職の高齢者が500万円しかないたくわえを1銘柄の株式につぎ込むのは危険だ。仮にこれがライブドアではなくソニーの株式で、2000年初頭に15,000円で買ったものがちょっと前のように4,000円そこそこにまで下落したために同程度の損害をこうむったのだとしたら、同じように報じられただろうか。この悲惨なケースは、あきらかに証券会社の営業マンが顧客に適合しない勧誘を行ったために生じたものだ。その銘柄がたまたまライブドアだったにすぎないわけで、たとえソニーであってもトヨタであっても、同じ手法で勧誘すれば同様の結果が起きる。

この女性の方には、ぜひ日本証券業協会の「証券あっせん・相談センター」に相談することをおすすめしたい。弁護士が相談に乗ってくれるし、比較的お手ごろな手数料であっせんもしてくれるはずだ。うろ覚えの判例なんかを思い出しつつ報じられたケースをみると、当該証券会社に資力があるという前提で、それなりの解決をみることは可能ではないかと想像する。

朝日新聞社の方々には、せっかくジャーナリスト宣言したんだからがんばってよねと、ため息とともにお願いしたい。この記事、きっと社会部の記者が書いたんだろうが、頼むから掲載する前に、経済部の記者に見てもらってほしい。これでは、官庁の縦割り行政を批判することなどできないではないか。あと、自分の会社の記事のアーカイブをたぐってみるといい。同種の事件はたくさんあるはずだ。どんな記事が書かれているか、サーベイしてから書いたほうがいいと思う。「ジャーナリストの原点」とか裏をとるとかいう以前に、自社のリソースをきちんと生かす訓練を積むべきかと。

それから、NIEに取り組む教員および学生の皆さん、この記事は、情報リテラシーと金融リテラシーをいっぺんに学べるいい素材になると思う。報道を鵜呑みにすることがなぜいけないのか、何も知らずに投資することがどんなに危険か、この記事を通して学ぶことができる。できるだけ生徒自身に考えさせるかたちでそのあたりを理解させることができたら、とてもいい教育ができるのではないか、と思う。

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Comments

同感ですね~。
詐欺は騙される奴も悪いという真実の側面があるにしろ、お涙頂戴的な「ウケる記事」を書いて問題の本質から読者の目をずらすような記事は書くべきでないし、慎むべきだと思います。

Posted by: 名無之直人 | March 15, 2006 10:23 AM

名無之直人さん、コメントありがとうございます。
想像ですが、きっと構想を決めてから、それに合った事例を探すんでしょうね。だからその素材を別の見方でみようという方向にいかないと。
「お涙頂戴」という表現は、実際に被害に遭われた方には少々手厳しいかもしれませんね。本当にお気の毒だと思います。ただ、お願いですから、理解できないものに手を出すのはやめてください、と申し上げたいです。

Posted by: 山口 浩 | March 15, 2006 11:14 PM

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