グローバル企業は分権から集権へ、という話
さるところでさる方から聞いて「えっ」と思った話。今、日本のグローバル企業の間で、経営意思決定に関する「中央集権化」が起きているのだという。
「日本のグローバル企業」ってのは要するに日本を本拠として世界規模で事業展開する企業のこと。グローバル企業の経営戦略というと、つい本社が縛りすぎると現地の市場に合わせられないとかいう話になって、ローカルの幹部に権限を委譲し、本社ではなく現地の市場をみて経営するのがよろしいとか、そんな論調になることが多いと思う。いってみれば、企業経営における「地方分権のすすめ」なわけだ。聞いた話は、いやそうではない、むしろ経営上の重要な意思決定はすべて日本の本社で行うスタイルのほうがいいと考える企業が増えているのだという。つまり企業経営の「中央集権化」、というわけだ。
それではこれまでいいとされてきた方向性と逆ではないのそこんとこどうなのよ、ということになるわけだが、むしろ、これまで現地に任せすぎだった、ということらしい。任せすぎというよりも、現地の事情を本社側が知らなすぎ、知ろうという努力をしなさすぎた、というニュアンスのほうが近い。いわば、現地がブラックボックス化していた、というのだ。このあたり、事情を知る人なら「なんだ当たり前じゃないか」ということなのかもしれない。私は不勉強にして知らなかったので、「目ウロコ」状態となったわけだ。
特に最近では、キャッシュマネジメントとかの分野で世界規模の管理が重要になってきているらしい。そういう話なら確かにわかるし聞いたこともある。技術が高度化すると研究開発費もたいへんだろうから、きっと新製品戦略なんかの分野でも、これまで以上に世界規模で考えていかなくてはならない状態になってきているのではないだろうか。まずは本社が現地の情報を充分に把握して、その上で「グローバル」に最適な戦略を策定し、現地に徹底する。現地に決定権限がまったくない、ということではもちろんないだろうが、重要事項に関してきちんと本社で押さえておくことが必要なのはいうまでもない。
このあたり、海外のグローバル企業とはたぶん事情がちがうのだろう。これまでの日本企業のあり方を前提とした特殊事例、とみるのがいいのかもしれない。海外拠点では、一方で現地市場ではなく日本の本社ばかりを向いていながら、意思決定に必要な情報を抱え込んで報告していなかった、というわけだ。
行政の分野で今起きている地方分権やらそれへの抵抗やらの問題に関して、この話が直接関係する部分はあまり多くないだろう。別に企業で中央集権化が起きているからといって、行政の分野で地方分権をやらない理由にはならない。そもそもスタート時点がちがうのだ。上記の例にしたって、「集権化」の流れが一段落すれば、逆にその弊害が目について、「分権化」がいわれるようになるにちがいない。要するに、ベストなかたちがひとつあるのではなく、現状をベースとしてそれより改善するためにどこをどういじっていくかを考える、ということなのではないか。その意味で、前提条件なしに何がベストかを議論するのは、おそらくあまり意味がない。そんなものはどこにもない。たぶん。現状がどうなっているかという前提条件、現状のどこが問題となっているかという前提条件をおいて、その改善の手段を考えていく、ということなんだろうな。
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Comments
日経エレクトロニクスの35年特集記事で、松下、キャノン、リコーなどが開発拠点の集約を始めているという記事がありましたね。
国際競争にさらされている多品種大量生産のメーカーの話で、談合体質で無駄遣いばかりしている国や県とは無縁の話でしょうね。
Posted by: datura | April 22, 2006 07:38 PM
おっしゃる通りグローバル企業(国内の分社との間も同様)では集権化の動きが進んでいるのですが、なかなか平坦な道のりではありません。
日本版SOX法対応などもあり、ここにきて俄然「ガバナンス」という言葉が本社サイドの口に上ることが増えてきています。ところが強大な中央集権体制をすぐに実現できる訳ではなく、ここ数年分権化の流れのもと権限委譲しながらどちらかというと本社はサポートスタフ的に業務を行う分担で進めてきた現場サイドと、古き良き中央集権時代を知っていて(少なからず復古調の香りさえする)「ガバナンス」論を叫ぶ幹部層との認識の差もあり、いろんなところでしばらくは右往左往しそうな感じです。
まあ、いろんな振り子が右左に振れる中、振り回されずに仕事するしかないのですけどね。
Posted by: よす | April 22, 2006 08:47 PM
コメントありがとうございます。
daturaさん
海外の先進企業はどうなんでしょうかね。研究開発拠点の集約あたりは日本に限った話でもなさそうですよね。
よすさん
大きな組織では、なかなか全員が同じ認識で、とはいかないんでしょうね。こういう苦労話はどこまでいっても尽きないだろうと思います。
Posted by: 山口 浩 | April 22, 2006 11:38 PM
始めまして。
中央集権化議論にちょと反応してしまったんですが、SOXを担当している側からすると、日本の経営者は確かに現地任せのきらいがありましたので、今やサイニングを義務付けられている(米国では刑事罰対象)経営報告書においては、細かく担当部署に確認を求めざる負えなくなってしまった結果が、今の慌てぶりなんでしょうね。
Posted by: satokunn | April 28, 2006 02:20 PM
satokunnさん、コメントありがとうございます。
そうかSOXとかと関係するんですね。
Posted by: 山口 浩 | April 28, 2006 10:55 PM