リアルオプションはもう古い、という話
先日、経営コンサルタントらしい方とお話する機会があった。「らしい」というのは本人からではなく周囲からの情報に基づいた話だからで、なんでも某一流外資系コンサルティング会社の方だとか。比較的若そうな感じだが、頭も口も達者な感じの人だった。で、その人がいうには、「リアルオプションって、最近あまり聞きませんね」なのだそうだ。
それを聞いて、思った。ああよかった、と。
上記の発言は、実はその人と話をしていたわけではなくて、別の人と話をしていたところ、その会話中の「リアルオプション」ということばに対してそのコンサルタント氏が口をはさんだコメントだ。どうも、コンサルティング業界では、リアルオプションはもうあまりはやらない、ということらしい。クライアント側が納得しないのか、うまい説得の方法が見つからないのか、そこらへんは突っ込まなかったのでわからない。
私がよかったと思ったのは、「ああこれでやっと『口八丁』の世界から解き放たれるかもしれない」と感じたからだ。別にコンサルティング業界の方々が「口八丁」だといっているのではない。もともとリアルオプションは、将来の不確実性を前提にした話であるため、都合よく「口実」に使われる余地がある理論なのだ。実施可能なプロジェクトを延期する口実や、もう見切りをつけなければならない不採算事業にしがみつく口実、現実には実行不可能な空想を「構想」として語る口実。そういった際に「リアルオプションという理論があって…」と説明される例がけっこうあったのではないかと思う。
リアルオプションという考え方を「はやり」とか「最新」とかいうことばで語る発想があると、たとえそのコンサルタントがきちんとわかっていたとしても、実務者の手に渡るとこうした「口実」に使われる可能性を高める。そうした事態は、経済全体にとっても望ましくないが、この理論にとっても好ましくないのだ。アメリカでドットコムバブルのころのIT企業の株価の高さを説明するのに使われ、バブルの崩壊とともに「道連れ」にされた経緯を知っている人なら、ご同意いただけると思う。日本ではまだそれほど注目されていなくて「被害」が少なかったのは、今にして思えばラッキーだったかもしれない。
コンサルティング業界ではやらないということは、「金にならない」と判断された、ということだろう。すたれた、のではない。定着し始めた、ということだと思う。これは私の偏見だが、この理論はそもそも、スプレッドシートで数字を操りパワーポイントで流暢にプレゼンをこなす人々よりも、予算書とにらめっこしながら電卓をたたいている人々のほうに、より似合っていると思う。実務家によって事業の現場で使われることが、最もこの理論の活躍できる場面ではないだろうか。正味現在価値法は、約30年かかってこのレベルまで定着した。リアルオプションが企業戦略やら事業計画やらの文脈で語られ始めてから、20年くらいになるのだろうか。もう「最新の経営学理論」というはったりはきかない。そろそろコンサルタントの手から実務家の手へと移るときがきた、ということだ。
となると、やはり大学や大学院での教育がこれからはさらに重要、ということだな。実務家がちゃんと使えるように、きちんとツールキット化もしておかないと。取扱説明書つきで。
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Comments
おめでとうございます(^^
これでオツムの弱い我々実務家にも使えるようにわかりやすくなりそうです。
Posted by: ひろ | April 03, 2006 10:00 PM
ひろさん、コメントありがとうございます。
がんばります。
Posted by: 山口 浩 | April 04, 2006 02:09 AM