溜飲を下げるために立件っていうのはどうなんだろう
最近、見せ金による架空増資だとか利益の付け替えによる粉飾決算だとかでいろいろ世間が騒がしい。
そういう行為を是認するつもりはもちろんない。それを前提として、というか、だからこそというか、ぜひお願いしたい。日本全国のすべての企業について、まったく同じ基準・同じ手法で捜査をしていただきたい、と。
増資も決算も、会計に関する問題だが、この種の問題ではよく「見解の相違」というやつがある。当局と企業との間で同じ行為に関する見解が分かれる、という場合だ。企業の側でこれはOKだろう、と思っても、当局が後からみてこれはだめだ、といわれればだめになる。こういう不明確な状態はよくない。基準はできるだけはっきりしている必要がある。今回のケースで、ある意味「基準」がはっきりしたのだろうから、同じ基準で全国のすべての企業をもう一度チェックしてみるべきだ。
同業種の人も、他業種の人も、企業に関わる方なら、同様の問題が少なからぬ企業にあるだろうことは想像できると思う。そうした企業のほとんどは、単にまだ捜査されていないという理由だけで、立件から免れている。あの企業やこの企業がこの問題で立件されるなら、ほかの企業が立件されないでいいということはない。ほかに疑惑があるが法的に処罰できないとか、立件が難しいとかの背景があって、でもこいつをなんとかして罰しなければ世間が収まらないからこちらを代わりに、なんていうのは、およそ法治国家のやることではない。
うろ覚えだが、刑事訴訟法を勉強すると、別件逮捕の問題が必ず出てくる。一般的な意味での別件逮捕は、何か重要な本件があって、それを立件するのに証拠が足りないので、別件で逮捕して、その拘留期間を利用して本件の捜査をする、といったものだ。つまり、より重要な「本件」に関する捜査を進めるために逮捕するわけで、今回のように単に「世間の溜飲を下げるため」みたいなのはそれとはちがう。別件で立件することで、本件に関する追及であるとか、今後同様の問題が繰り返されないための対策であるとか、そういった「本来やるべきこと」をやらない言い訳にするのは、社会全体にとってよくない。しつこいようだが、別に立件された企業やら経営者やらに責任がないとかいっているのではない。
もし、いやそうではない見せ金とかはそれ自体いかんから立件するのだ、ということであるなら、ほかの企業も同等に扱わなければならない。最低限、今回立件されようとしている企業と同業の企業については、全社について調査すべきだ。それが法律ってもんだよね?
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Comments
ガス抜きというか、その手のやり方はここ最近目立つような気がするのは私の錯覚かわかりませんが。鈴木宗男氏が言う「国策捜査」とか含め、「世間がけしからんと思う奴ら」を叩くことで世論を引っ張ろうとする動機が強く働いているのは否定できないと思います。もちろん氷山の一角という言葉があるように、全てに適用していたらきりがなく、現実的ではないという考えもあるかとは思うのですが。あと、アイフル事件で取りざたされる消費者金融の上限金利の規制問題なんかにしても、前回の規制後に闇金事犯が増大したことをどう考えているのか疑問点も多いんですよね。やはり世間に媚びるだけの世論対策的傾向が濃厚になっていると言えるんじゃないでしょうか?
Posted by: すなふきん | April 23, 2006 01:36 PM
すなふきんさん、コメントありがとうございます。
ご指摘のような、似た問題があちこちでありますね。この点に関しては、子供だましに乗っかっているマスコミの言論の質の低さがとても気になります。ポピュリズムに陥っているのは政府よりむしろマスコミのように思われるんですがいいすぎですかね。
Posted by: 山口 浩 | April 23, 2006 02:56 PM
楽しく拝見しています。ホリエモン事件など最近は国策捜査が多い様です。野党やマスコミの奮起を期待します。(ノーチョイスですから)
http://plaza.rakuten.co.jp/fukurokutaro/diary/200604120000/
Posted by: snowbees | April 25, 2006 07:59 PM
snowbeesさん、コメントありがとうございます。
「楽しく拝見」いただいて光栄です。ホリエモン逮捕については、さる方から「一罰百戒」なのだ、と聞きました。別の人への警告の意味もこめている、と。わからなかないんですが、法治国家として守ってもらいたい一線、みたいなものがあるようにも思います。
Posted by: 山口 浩 | April 26, 2006 12:48 PM
この本がオモシロイ。QUOTE
大村大次郎「ライブドアショック・謎と陰謀」(耐震偽装隠しか?) 「最近、読んだ本を教えて!(24852)」 [ 政治・政策・世相・犯罪・歴史 ]
耐震偽装事件にかぶせるようにして発生したホリエモンの逮捕について、これは国策捜査であると断定している。同様な手法で小泉政権は危機のたびに、悪玉を作り出してきたというのだ。
法務大臣を高村派の森山真弓がやっているうちは良かったが、森派の代議士が勤めるようになってから、森派が逮捕されなくなった。そして反対派から悪玉が誕生した:
・元近畿郵政局長の高祖参議院議員の選挙違反
・加藤代議士事務所の脱税
・社民党の辻元清美代議士の秘書給与疑惑
・田中真紀子代議士の秘書給与疑惑
・橋本元総理が日歯連から1億円の小切手をもらったこと
である。
ホリエモンは偶像から悪玉になったと言えるが、著者は「善玉」、「悪玉」に分けて「偶像崇拝」と「魔女狩り」をくりかえすことは、社会にとって何の理もないと思う、と結んでいる。
そのほか著者は税に詳しいので、格差社会をもたらしたのは、政府が金持ちや投資家に税を甘くしすぎたからだと指摘している。
半信半疑の内容ながら、面白く読めた。ライブドア株で損をした人、ホリエモンのファンだった人にはお薦め。UNQUOTE どれも状況証拠だけですが、法務大臣は、南野氏と杉浦氏と、二代続いて森派からです。
Posted by: snowbees | April 26, 2006 09:24 PM
snowbeesさん
半信半疑、ですね。ちなみに私はライブドア株で損をしてもいませんしホリエモンのファンでもありませんでした。「著者は税に詳しいので、格差社会をもたらしたのは、政府が金持ちや投資家に税を甘くしすぎたからだと指摘している」については、私はそうは思いません。
Posted by: 山口 浩 | April 26, 2006 11:59 PM
http://blog.livedoor.jp/kenji47/archives/50348073.html
無罪ラッシュが続くと。
Posted by: snowbees | May 02, 2006 08:09 PM
snowbeesさん、コメントありがとうございます。
無罪になるかどうかわかりませんが、司法もさることながら、その前の立法段階でやるべきことをやってくれ、と思ったりします。
Posted by: 山口 浩 | May 03, 2006 01:17 AM