政治家の形容詞使用を禁止したらいいと思う
政治家の話すことをテレビなどでよく聞いたりするが、どうしてこんなに空疎に響くんだろう、といつも思っていた。なんでこんなにうそっぽいんだろう、と。ほんとうにうそである場合もあるのかもしれないが、もしほんとうに本気で発言しているのだとしたら、それが伝わってこないのは双方にとって不幸だ。なんでこうなっちゃうんだろう。
なんてことを3秒ぐらい考えたら、気がついた。形容詞を禁止したらどうだろう?
まずおことわりだが、ここでいう「形容詞」は、品詞の1つとしての形容詞とはちがう。大辞林をみると、2番目の意味として「そのものの性質・状態・属性などを表す言葉。形容辞。」という定義が出ているが、こっちのほうだ。「形容語」とでもいったほうがいいのかもしれない。語呂がいいから以下「形容詞」でいってみるが、まあそういうぐらいのラフな意味だとご理解いただければ。
政治家は、実によく形容詞を使う。「しっかりとした対応をとる」「充分審議して」「きっちりと決める」みたいに。これだ。これがいかんのだ。こういう形容詞に真実味が感じられないから、うそっぽく聞こえるのだ。「しっかり」っていったい何をどうするというのさ。「充分審議」というのは何時間?何をどこまで決めたら「きっちり」ということになるの?そういうところがわからないから、「どうせそんなこといったって実際は」みたいな感想しか出てこなくなる。
もちろん、わかってて使ってる場合だってあるだろう。うがった見方をすれば、実はそういう場合のほうが多いのではないか。形容詞をまやかしのために使ってるわけだ。こういうのはぜひやめてほしい。形容詞は法律やその適用にたがをはめることはない。行政現場の指針になることも、たぶんあまりない。ただ場の雰囲気を和らげ、その場をしのぐためだけのものだ。こういうのを見抜くのがメディアリテラシーだ、といえばかっこはいいが、現実にはなかなかそうはいかない。
だから、禁止しよう。形容詞およびそれに類似した機能のことばを。程度や状態を伝えるためには、それを具体的に、可能な限り定量的な、あるいは検証可能なことばで表現することを義務づける。別に日常会話についてどうこういうつもりはないが、少なくとも、議会における発言や、公的な文書からは、意味を不明確にし、実情を覆い隠すようなことばを追放したらいい。
禁止すべきことばの例としては、たとえば次のようなものが考えられる。
しっかり、きっちり、充分に、
この3つは特に「罪が重い」。絶対禁止のNGワードだ。それから、形容詞とはちがうが、それと類似した効果を持つため、禁止すべきことばというのもあると思う。たとえばこんなの。
精査する、議論を尽くす、中長期的に、充分配慮しながら、
官僚ことばとして有名な「前向きに検討」なんかもこの例に入るんだろうな。なんか、もっとあるような気がするんだが、記憶力が悪くて思い出せない。こんなのもあるぞという方、ぜひご教示いただければ。ともあれ、こういうことばを禁止されたら、政治家の人たちは、たぶんかなり困ると思うが、それでいい。本当に伝えるべき内容があるなら、定量的な、あるいは検証可能なことばで、伝える必要がある。彼らには、その責任があるはずだ。本来、こういうあたりをきちんと読み解くのは報道の仕事だと思うのだが、どうもこの役割はあまり期待できそうにないし。ともあれ、その場しのぎにことばを紡ぐのは、ぜひやめてもらいたい。
※2006/5/15追記
読み返してみると、挙げたことばは典型的な意味の「形容詞」からかなり離れている。一応ことわりを入れてあるわけだが、どうにも気になる。なんて書けばよかったんだろう?われながら日本語をいかに知らないかに愕然とする。
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Comments
>なんて書けばよかったんだろう?
学校文法だと「修飾語」かな。
でも8月になった今、この規則を適用するとアベちゃんの本の題名なんかは
「国」
になっちゃう。あら中身がありませんことよ。
Posted by: Bar | August 31, 2006 01:05 AM
Barさん、コメントありがとうございます。
「国」でいいんじゃないですかね。「美しい国」よりよほど中身があると思いますよ。
Posted by: 山口 浩 | August 31, 2006 02:07 AM