「Project Entropia」の運営会社がキャッシュカードを作ったらしい
MMORPG「Project Entropia」の開発会社であるMindarkがゲーム内通貨を現実通貨として引き出せるキャッシュカードを作った、という話が「Terra Nova」界隈で物議を醸している。
この話はすでにBBC、New York TimesやABC News、それにCNETなんかでもとりあげられてるから、そちら経由で見た人がいるかもしれない。
ゲーム内通貨はProject Entropia Dollar (PED)というのだが、米ドルとの「為替レート」が10PEDs=$1と固定されている。プレイヤーはこのカードを使うと、PEDをドルとして引き出すことができる、というもの。PEDは現金で買ったりするわけだが、ゲーム内で増やせばその分だけ現実の収入になる。もともとこのゲームでは現実通貨との換金をゲーム会社が保証していたのだが、実際の手続きが煩雑、という問題があった。これがより「便利」になって、現金とあまり変わらない状態になったわけだ。ちなみに、このゲームはいわゆるアイテム課金方式で、現金をゲーム内通貨と交換する。アイテム自体はゲーム内で「採掘」したり「加工」したりして作られ、それが取引されていくが、最終的には費消される。この分が企業の収入になる、ということらしい。
現実世界とのつながりということでは「Second Life」の話が最近注目されるようになってきたが、この点ではProject Entropiaのほうがある意味もっとすごくて、ゲーム内の「宇宙ステーション」が10万米ドルで取引されたこともあった。なんでも仮想アイテムの最高価格としてギネスブックに登録されているとか。現実経済とのつながりはこのゲームのウリの部分なわけで、この傾向がますます強まっている、ということだろうか。
当然というか、Terra Novaコミュニティではこういう動きはあまり好まれない。けっこう手厳しい指摘が出ている。私としては、ゲーム内経済はこうあるべき、といったアプリオリな指針はどうかと思うので、基本的にニュートラルでいたいと考えているのだが、このゲームに関しては、ゲーム内経済の運営がきちんとなされているのかが非常に気になる。Mindark社の2005年第3四半期のInterim Reportがサイトにあって、スウェーデン語が読めないのでよくわからない(この会社はスウェーデンにある)のだが、経営状況は悪くないらしい。Project Entropiaの、PEDによるゲーム内経済は、プレイヤーが「預けた」現金に裏打ちされている「はず」なのだが、Mindarkがその現金をそのままとっておくことは一般論として考えにくいから、なんらかのかたちで投資に回したり、運転資金として使ったりしていると思う。このあたりは、銀行が預金を融資に回している構図と基本的にいっしょで、企業内には、預けられた現金の一部しか残っていないだろう。つまり、銀行と同じように、「取り付け」が起きた場合には、一気に現金の残高が減少ないし枯渇する流動性リスクが存在するのではないか、ゲーム内経済とMindark社の間の倒産隔離ができていないのではないか、ということだ。この点に対してどのような対策がとられているかは、私が外から見ている限りではよくわからない。
ゲーム内経済を現実経済と似たかたちにする、あるいは両者の関係を近づけていくということ自体がいけないとは必ずしも思わないが、もしそうするなら、ゲーム内経済の運営手法自体も現実経済のそれに近づけていかなければならない。プレイヤーの立場からすれば、Mindarkは現金を預かり要求に応じて払い戻す銀行に近い役割を果たしており、現実の銀行が導入しているような自己資本比率の管理やALMといったものが必要だと思う。預金保険のように外部にリスクの一部を移転するぐらいの措置があってもおかしくない。もしそうしたしくみがまったくなく、プレイヤーが企業の信用リスクにもろにさらされているようなら、そのゲーム内経済は適切な管理がなされているとはいいにくい。Project Entropiaがどちらなのかわからないが、少なからぬプレイヤーがスウェーデン国外にいる(ゲーム自体は英語ベースだから米国あたりをターゲットにしているのは明らか)以上、そうした情報について少なくとも英語で開示することは当然ではないか、という不満はある。
ともあれ、今後も要注目。
The comments to this entry are closed.
Comments