「これから出る本:近刊図書情報6月下期号」
他の職業で同種のものを経験する機会があるのかどうか寡聞にして知らないが、最近今の職業についた私としては「へぇ」と思うものがいろいろあって興味がつきない。
そのひとつは、書店の外商だ。
「外商」というと何か高級っぽいが、まあ「御用聞き」みたいな感じ、といったほうが多分近いんだろう。すぐ持ってきますとかちょっと安いですとか精算が便利ですとか、まあいろいろ理由をご説明いただくんだが、当面それほど困ってないし、まだ利用したことはない。それでもいろいろ資料を置いていってくれたりするのでよく手にするのが、小冊子「これから出る本:近刊図書情報」というわけだ。今手元にあるのは2006年6月下期号。
社団法人日本書籍出版協会が発行しているらしい全16ページのこの小冊子には、さまざまな分野(33分野あるらしい)の書籍がいっしょくたになって紹介されている。書店の人ならともかく、特定の分野の本しか興味のない大学教員にこれを配っていったい何を望んでるんだろう(私がたとえば「金子ユリさんのおしゃれノート」なんて本を買う可能性があるとでも思ってるんだろうか)という気もしなくもないが、そんな小冊子でも眺めているとそれなりに楽しめたりする。というわけで、面白いと思ったものをちょっとだけ抜き出してみる。あらかじめ断っておくが、ここで紹介する本を、私はまったく読んでいない。広告だけをみて勝手に突っ込んでいるだけの非常に自己満足的な内容なので、そこんとこよろしく。
私が面白いと思ったものをざっと見渡すと、どうも一定の傾向があって、いくつかに分類できそうだ。
(1)解説が面白いもの
①山口陽弘・高橋美保著「増補改訂 試験に出る心理学:一般心理学編」北大路書房
キャッチコピーは「公務員試験対策を熱く説く参考書・問題集」。
「熱く説く」。
参考書の類は世にいくらもあるが、「熱く説く」参考書というのはかなり珍しいのではないか。いったいどんなことを書いてあるんだろう。「ここが重要なんですよ皆さん!ここを落としたら、っっずぇぇぇぇっったい!合格しませんからね!!!」なんて感じなんだろうか。受験生にとってはありがたいね。勉強に疲れ気力を失いかけたときに、この参考書を開く。「キミはぜったい勝つ!気合だ!気合だ!気合だぁぁあああっ!!」。読めばその熱いメッセージで忘れかけていた情熱がよみがえる!モチベーション維持にも役立つ、まさに理想の参考書ではないか。
②山内弘継・橋本宰著「心理学概論」ナカニシヤ出版
キャッチコピーは「詳しい解説、見やすい図表!渾身の入門書」。
「渾身の」。
たいていの本は著者が一生懸命書いたものだろうと思うのだが、わざわざ謳うぐらいだから、よほど「渾身」だったんだろう。きっと著者の方々が3年滝に打たれながら書いたとか、本書の執筆に人生を捧げたとか、そういう壮絶な、かつ感動のストーリーがあるにちがいない。正座して読め入門者よ!
③小森陽一著「村上春樹論」平凡社
キャッチコピーは「ヒット作『海辺のカフカ』の正体を明らかに」。
「明らかに」。
このベストセラーを読んでいない私に語る資格はないが、主人公(「田村カフカ」、だっけ)に明かされていない「正体」があったのだろうか。果たしてどんな正体が。「神出鬼没の大怪盗」か「世界を牛耳る黒幕」か。それとも「現職政治家」とか「亡命した某国元国王」とか。案外、人間じゃなかったりして。実は猫だったとか宇宙人だったとか。まさか「村上春樹本人」みたいな面白みのない「正体」じゃあるまいね。
(2)ことばづかいにこだわりがみられるもの
①J・チャンス著/片岡ユズル訳「ひとりでできるアレクサンダー・テクニーク:心身の不必要な緊張をなくすために」誠信書房
「テクニーク」だよ「テクニーク」。
カナ漢字変換できないじゃんか。そうとうこだわってるんだなこの表記に。全体がこういう、原語の発音にこだわった翻訳だったりするんだろうか。「緊張ヲホグスニーハ、マズ肩ノ力ヲ抜クコトガ大事ナンデース!」とか。気になったのでちょっと検索してみたら、あったよサイトが。「アレクサンダー・テクニーク」の。おっブログもあるじゃん。いや別に揶揄する意図はないので誤解しないでね。
②マダム・ロハス著「セレブをおとす英会話」駿河台出版社
「セレブをおとす」。
すごいタイトルだねなんたって「セレブをおとす」だぜ。キャッチコピーは「淑女が教える女の英会話術」だって。「狙ったセレブははずさない!稀代の名ハンター!!」みたいな淑女なんだろうか。しかも英会話で。英会話でセレブがおちるんなら、アメリカ人の女性とかは圧倒的に有利だな。こだわりを感じるのがこの著者名「マダム・ロハス」。「ロハス」ってやっぱりあの「LOHAS」なんだろうか。「セレブをおとす」アグレッシブさと「ロハス」はどうもなじみがあんまりよくないように思うんだが。
※2006/7/24追記
別の記事にも書いたが、この本の著者は正しくは「マダム・ロセス」。「ロハス」というのは誤植だ。
③河野大機著「経営体・経営者のガヴァナンス:ドラッカーの所論ならびに関連諸理論・実践とそれらの統合化」文眞堂
「ガヴァナンス」。
「ヴァ」だぜ「ヴァ」。下唇を噛み締めている口元が浮かぶようではないか。副題の「所論ならびに」のレトロさ加減がまた泣かせる。印象だけでいうとこの本、ぜったいハードカバーで、パラフィン紙のカバーがついてて、ボックスに入ってるね。
(3)妙に興味をひくテーマのもの
①上田和勇著「持続可能型保険企業への変貌」同文館出版
「持続可能型」。
ということは、現在の保険会社は持続不可能ということか。立場上あんまりうかつなことはいえないが、いったいどのあたりが。あの件だろうかこの件だろうかそれともあっちの件か。いずれにせよ早く変貌していただきたいものだ。
②山口真美著「赤ちゃんは世界をどう見ているのか」平凡社新書
「どう見ているのか」。
いやぜひ知りたいねどう世界をどう見てるんだろう赤ちゃんは?たとえば「中国が軍事大国としての存在感を増すとともに太平洋におけるパワーバランスに変化の兆しがみられる」と見ているのか「地球温暖化は待ったなしの状況に追い込まれつつある中で京都議定書の意義を再評価すべきである」と見ているのか。赤ちゃんにもネオコンとかリベラルとかあるんだろうか。…イワン・ウイスキーかよ。
③高城剛著「ヤバイぜっ!デジタル日本」集英社新書
キャッチコピーは「デジタルは終わった!次は何だ!?」。
お、終わったのか?
ここでいう「デジタル」っていうのは、デジタルなもの全般、てことなんだろうか。もしそうなら、範囲広いよ広すぎるよ。急に「次は何だ!?」とかいわれても。次は何だろう。デジタルの前はアナログ、だったんだろうなぁ。そうするとその次は、…うーんわからん。よくわからんのだが、もし「デジタル日本」がヤバイなら、「デジタルアメリカ」とか「デジタルドイツ」とかはヤバくないんだろうか。「デジタルフィンランド」とかはもっとヤバイんだろうなぁ。「デジタルブータン」なんてのはあんまりヤバくなさそうだな。「デジタルヤバ度インデックス」なんてのを作ったらどうだろう?…だいたいデジタルのどこがヤバイのか知らないと無理か。
上記のものはとりあえずおいといて、まじめな意味で面白そうと思ったのは、こんなあたり。
・福田アジオ編「結社の世界史1:結衆・結社の日本史」山川出版社
・横尾真著「オークション理論の基礎:ゲーム理論と情報科学の先端領域」東京電機大学出版局
・原田耕太郎著「報酬分配場面における公正認知に関する研究」大学教育出版
最後に念のため。ここに挙げた本はいずれも「これから出る本」なので、まだアマゾンには出ていないものもあることをご承知おきいただきたく。そのうち出るものもあるんだろうが、特に学術書なんかは、必ずしもアマゾンに出るとは限らないのでそのあたりもよろしく。
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Comments
マダム・ロハス、本人です!
拙著のコピーその他、取り上げてくださってありがとうございます。
実は信じられないかも知れませんが「マダム・ロハス」は、印刷ミスです。
本日付けの東京新聞、中日新聞などに広告が載っており、そこには正しい名前も載っているはずです。
おっしゃるとおり、セレブをおとす際には、そのセレブが英語話者であった場合、アメリカ人女性の方がずっと有利だと私も思います。
でも、日本人でもがんばってここまでできる、ということをテキスト+CD+アドバイスとして提供しています。
7月15日前後に発売される予定ですので、よろしかったら立ち読みでいいのでお手に取ってみてくださいね。
それで内容にご不満があったら、また記事にしていただければ幸甚です。
Posted by: マダムC | June 18, 2006 06:43 AM
マダムCさん、コメントありがとうございます。
なんとご本人からのレスをいただけるとは恐縮です。
誤植だったんですか!どうも失礼いたしました。ペンネームは「マダム・カルカソンヌ」でよろしいんでしょうか。
今日の東京新聞を買ってみたのですが、どうしたわけか広告を見つけることはできませんでした。ALC Blogのほうも読ませていただきました。いやなんといっていいのか、すごいです。深い感銘を受けております。ご著書もぜひ宣伝させていただきたいと思います。
Posted by: 山口 浩 | June 18, 2006 07:42 PM
山口さん
こんにちは。
さっそくお返事いただいて恐縮です。
ペンネームは「マダム・カルカソンヌ」ではありません(爆)。本名で発表することにしました。
「ロハス」とカタカナで1文字違いです。まったくの誤植です。広告が載っていない件については、海外在住なこともあり私も理由が分からないのですが・・・。週明けにも担当の方から説明があるかと思います。
私がイメージする「ロハス」は、椰子の木の木陰で太極拳をやっているカンジなので、ご指摘の件は自分でも笑ってしまいました。私のイメージともっともかけ離れたところにあると自分でも思います。
それではこれからもよろしくお願いいたします。
Posted by: マダムC\ | June 18, 2006 08:53 PM
マダムCさん
こちらこそ恐縮です。誤植の件失礼いたしました。7月15日になったら書店で探してみます。
「椰子の木の木陰で太極拳」というのは面白いですね。私のイメージするロハスはハイブリッドカーでレストランに乗り付けてオーガニック素材の料理を大量に残す、といったものです。
ともあれ、こちらこそよろしくお願いいたします。
Posted by: 山口 浩 | June 18, 2006 11:48 PM
>誤植の件失礼いたしました。
ん? 誤植をなさったのは山口さんではなく、失礼をしたのは私(とその出版社and/orその関連者)かと・・・。
それはともかく、
>ハイブリッドカーでレストランに乗り付けてオーガニック素材の料理を大量に残す
というライフ・スタイルは、経済の発展という見地からは有効かと推察いたします(にっこり)。
Posted by: マダムC | June 19, 2006 05:28 AM
マダムCさん
確かに誤植は出版社がしたことですが、裏をとらなかったのは私の怠慢の故です。というわけで、申し訳ありません。
LOHASのライフスタイルについて、経済の発展という見地から有効とのご指摘はその通りです。ただ、LOHASの人々が標榜する「哲学」そのものとは少しずれていないか、というのが私の受けている印象です。LOHASでないマダムと私が議論するのも変な話ですがね。
Posted by: 山口 浩 | June 19, 2006 09:14 AM