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June 25, 2006

つまみ食い禁止!

証券取引法第159条第1項第4号、第5号というのがある。 枝葉をとって関係ある部分だけを残すとこういうものだ(…は中略)。知らなかった人はぜひこの機会にお見知りおきいただきたい。

何人も、…取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて、次に掲げる行為をしてはならない。

四  自己のする売付けと同時期に、それと同価格において、他人が当該有価証券を買い付けることをあらかじめその者と通謀の上、当該売付けをすること。
五  自己のする買付けと同時期に、それと同価格において、他人が当該有価証券を売り付けることをあらかじめその者と通謀の上、当該買付けをすること。

上の条文を挙げたのは、6月23日付の毎日新聞にこんな記事が出てるからだ。

証券取引法違反(インサイダー取引)容疑で起訴された「村上ファンド」前代表、村上世彰(よしあき)被告(46)とライブドア(LD)側が、05年2月8日にニッポン放送株を売買した時間外取引は、売買時期や価格を事前合意した「なれ合い売買」だったことが東京地検特捜部の調べで分かった。なれ合い売買は、相場操縦の一種として証取法で禁止されており、罰則はインサイダー取引より重い。LDが同放送株を大量取得した際、村上ファンドとともに違法行為を行っていた実態が判明した。
ただ、当時は銀行による株の大量保有が問題となり、市場での放出によって株価下落を招かないために、時間外取引の利用を国が推奨していた事情があり、特捜部はなれ合い売買容疑での立件を見送るとみられる。

また悪いことをやってたのか、と思うのは簡単だが、ちょっと待て。「見送る」って何だ「見送る」って。

これとはちがう件では、法令にも行内規則にも違反していない行為が「道義的責任」で追及されてるんだよ?それより重いはずの法令違反を「見送る」だって?インサイダー取引より重い罪なんだろ?法律違反に他の人もやってるから見逃すなんて理屈が通るわけないじゃない。記事を書いた人は何とも思わなかったんだろうか?

おそらく理屈はあるんだろう。条文中の「取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて」だ。時間外取引における「通謀」は、時間外取引なるものがそもそも成り立つための必須条件なわけだが、少なくともこの条文が典型的に想定するような、市場が活発であると誤認させるために行われるわけではない。むしろ逆で、活発であると誤認させないために通常の取引時間内に行わないということになるかと思う。

しかしこれだって、「他人に誤解を生じさせる目的」といえばいえないこともない。条文は正確には「取引が繁盛に行われていると誤解させる等これらの取引の状況に関し他人に誤解を生じさせる目的をもつて」であり、「等」が入っている。銀行株の放出についていえば、大量に株式が市場に放出されれば価格に影響が出るのは当たり前なのに、それを「影響がない」と誤認させるのが目的だった、とみることもできる。村上ファンドの場合も、ニッポン放送の株式が大量に売買されれば買収期待で価格が上がるべきところ、そのような事実はないと「誤認」させるのが目的だった、とみることができる。

つまり、この種の行為が159条違反にあたるかどうかは、法をどう解釈し適用するかという「当局」の恣意、ということになってしまう。村上ファンドとライブドアが行った時間外取引と、その他の企業が行っていた時間外取引は、その目的において変わるところはない。市場に影響を与えずに、邪魔されないように、大きなロットの取引を行うというものだ。しかし同じことをしても銀行は違反にならず、村上ファンドは違法(だけど立件見送り)となる。もしこれが本当なら、こんなことが許されていいのだろうか。私には理解できない。「専門家」の皆さんのご意見をぜひ聞きたいと思う。

一国民として私が求めたいのは、当時の時間外取引における当事者の「通謀」が証取法159条違反になるかどうかに関する政府見解(最終的には裁判で確定されるべきものだが)と、それに基づいた統一的な事例の取り扱いだ。村上ファンドとライブドアの取引が違法なら、その両社だけでなく、他の時間外取引のすべてにおいて「通謀」がなかったかどうか捜査し起訴へと進むべきだし、違法でないなら村上ファンドもこの点に関して違法ではない。また、違法なら、そもそも「通謀」を前提とする時間外取引なる制度を作ったのは誰かも明らかにして、その責任を追及すべきだ。

いわゆる「市場万能主義」の弊害を指摘する人は多いが、そのうち少なからぬものは、市場そのものの「非人間性」ではなく、市場が本来備えるべきルールの不在に向けたもののように思われる。100メートル走で競うなら、フライングしてはならないし、筋肉増強剤を打つのもだめだ。他の選手を篭絡するのももちろんNG。しかしそういうルールは、事前に決めておいてこそ意味がある。走ったあとで「お前の靴の靴底は反発力が強すぎるから失格」というのはおかしいし、「皆フライングしたが一罰百戒で失格はお前だけ」というのも理由にならない。「事前指導から事後チェックへ」というのが昨今の金融行政の流れだが、それも「ルールの明確化」が大前提のはずだ。

ルールを恣意的に運用されたらどうなるか、駐車違反の取締りで考えてもらえば誰にだってわかる。皆さんは「一罰百戒でお前だけレッカー」に納得できるだろうか?ルールのつまみ食いはぜひやめていただきたい。

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Comments

やまぐちひろしさん、こんにちは、

最近の動きを見ていて、明治維新の頃の暗殺者の働きを思い出しています。政治的な勢力が変わるときには、必ず新しい政権にとっての脅威が排除されてきました。今回もなにか新しい政権を担う勢力の台頭の予兆かもしれないと思っています。

しかし、潜在的、顕在的な抵抗勢力の排除がメディアを動員した法の「つまみ食い」によって行われていることを正当化するものでは決してないでしょう。

今後の権力のあり方に背筋の寒いものを感じています。いっそ、暗殺という原始的で物理的な手法の方が法治主義、民主主義といった政治原則の運営の今後に与える影響は少ないかもしれません。

あ、それと、もし「つまみ食い」が広く容認されてしまうのだとすれば、法的な規制のかかり方においても、中央と地方の格差が生じるような気がしてなりません。なんというか、地方は「おめこぼし」に与っている人がごまんといます。それが中央に出ようとしたとたんに強い規制の制御、とそれを恣意的に発動しうる権力の下に置かれるという構図なわけです。これもまた新たな政治的な力のあり方なのかもしれません。

やはりはとの群れの平和ですかね。ものすごく国力をそぐことになると私にはおもわれるのですけどね。

Posted by: ひでき | June 25, 2006 01:16 PM

ひできさん、コメントありがとうございます。
ずいぶん「引いた」感じで書かれてますが、まだそれは早いのではありませんか?これらは今起きていることです。歴史の教科書の話ではありません。加えて、歴史上私たちははじめて、個人レベルで「世界」に語りかけるメディアを手にしたわけです。これまでとちがった流れになったとしても不思議ではないと思いませんか?少なくとも、無理のない範囲でできることはやってみようと思います。

Posted by: 山口 浩 | June 25, 2006 06:16 PM

この話をリークした検察関係者が本気で159条にひっかかると考えていたのであれば、金融取引の実際や、証券取引規制の趣旨に対して、この程度の理解で逮捕権限を含めた強大な権力を持っていることに背筋が寒くなりますし、筋違いと分かった上で村上氏のイメージを悪くするためだけにやったとすれば、公判での勝利(厳罰の勝ち取り)だけを至上目的として、そのリークがもたらす実務への萎縮効果を無視している近視眼に空恐ろしくなりますね。
ちょっと専門家に確認すれば、この話の筋の悪さは分かるのに、その労をとらないマスコミの姿勢にも涙が出てきます。

Posted by: 47th | June 26, 2006 03:42 AM

やまぐちさん、

「逃げるな!」というメッセージを真摯に受け止めさせていただきます。

ありがとうございます。

Posted by: ひでき | June 26, 2006 11:52 AM

コメントありがとうございます。

47thさん
いろいろな件で検察がいろいろリークしてるってよく聞くんですが、そういうのっていいんですかね。そのへんもよくわかりません。

ひできさん
そんなえらそうなことをいえる立場ではありませんが、そう受け止めていただいたのであれば、それでいきます。守るものがあれば、理想通りにはいかないこともあるでしょうが、そのあたりは年の功でアバウトにいきましょうよ。

Posted by: 山口 浩 | June 27, 2006 01:18 AM

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