「インターネットの法と慣習:かなり奇妙な法学入門」
白田秀彰著「インターネットの法と慣習:かなり奇妙な法学入門」、ソフトバンク新書、2006年。まだ斜め読みなんだけど、ちょっと興奮ぎみ。
待ち望まれた本だ。私の勝手な定義では、現行の法律の条文解釈なんかについてうんじゃらかんじゃらやるのを「法律学」、社会における法規範のあり方なんかを考えるのを「法学」と区分しているが(本当はどうだか知らない)、この区分によればこの本は「法学」の本。HotWired Japanの人気連載を書籍化、といえばまあ簡単だし、実際それっぽい文体だったりするわけだが、紙媒体にきちんとまとまることの価値はやはり大きい。
それほど長い本でもないから(でも中身は濃いからけっこう時間はかかる)実物をぜひお読みいただきたいわけだが、この本の主張をひとことでまとめれば、前書きに書いておられるこれだ。
情報時代においては、知的財のさまざまな形態での利用を禁じることはよろしくない。むしろ最も適切な媒体を利用しつつ自由な形態で提供することで、利用者の便宜を図るべきであると。
ああよくあるコピーレフトか、と斬って捨てる向きもあるかもしれないが、少なくともこれは私を含む「素人さん」が書いたお気軽なエッセイやら、声だけ大きい活動家の皆さんのアジテーションやらとは訳がちがう。歴史、各国の法制なんかをふまえ、法というものが社会とどうかかわるべきかについて法学者が熟考した末にたどりついた「結論」だ。
こういう論説こそ専門書で本格的に展開してほしいと思うのだが、日本のアカデミアの状況だとまだ難しいのだろうか。ともあれ700円で買えるのはかなりお得。法律を学ぶ大学生の方は、一通り重箱の隅のつつき方を学んだ後はこういう本で頭を「中立化」しておくべきだと思う。それからビジネスを動かしている方、特にコンテンツビジネス、メディアビジネスに関与されている方も、こういう議論があることは知っておくべきだ。最後に、法を動かせる立場にある方も。こういう方こそ、本書にみられる「大きな流れの中に身をおく」発想が欲しい。
私としては、先にとりあげたことのあるJoshua Fairfieldの「virtual property」理論に対する白田先生のコメントを聞いてみたい。Fairfieldのは素人目には「ネット時代の囲い込み運動」とも見えるから、白田理論と矛盾とかしないんだろうか、なんて気になったりする。
それから見逃してはならないのが、5ページの著者写真。私は勝手に、東大の浜野先生とスタンフォード日本センターの中村先生を「コンテンツアカデミアにおける2大コスプレーヤー」と認定していたのだが、ここはぜひ白田先生を加え、敬意を込めて「3巨頭」と呼ばせていただきたい。 本書の出版記念パーティへのお誘いを受けながらかなわなかったのはかえすがえすも残念。次回こそはロージナ茶会にでも潜入したいところだ。もちろんこの本を持って。この写真へのこだわりからみて、絶対めちゃめちゃかっこいいサインをしてくれるにちがいない。
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Comments
おそらくは、
現行の法律の条文解釈なんかについてうんじゃらかんじゃらやるのは「法解釈学」。
社会における法規範のあり方なんかを考えるのを「法社会学」。
「法学」というのはそれら法に関する学問を包括して言い表すための名称、だと思われます。
「法律学」というのは、「法学」のことを「法律学」と呼ぶ人もいるよね、ぐらいのものかと。
ただ、「法」とは憲法、法律、条約、条例、命令、指令などの様々な法規範を包含する概念であるのに対し、「法律」はその中の一つにすぎないといった点から、「法律学」は「法学」の中でも法律だけを扱う一類型であると考えることも十分可能だと思います。
Posted by: yasuchan | July 24, 2006 02:40 AM
yasuchanさん、コメントありがとうございます。
なるほどそうなんですか。「法解釈学」という表現はあまり聞きませんが、使うんですかね。「法社会学」については、Wikipediaに「法にまつわる社会の現象を分析する学問」とありますね。法学部出身の私ですが、まじめに勉強してなかったということなんでしょう。ともあれありがとうございました。
Posted by: 山口 浩 | July 24, 2006 12:05 PM